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4.公爵は笑む


やあ、みんな!! 明るく楽しいみんなの人気者、ガーランド公爵だよ!!


うちには女神と天使がいるんだ。

女神は僕の妻でね、美人で聡明で最高の女性なんだ。モリーっていうんだよ。

天使は娘のリジーさ。とっても美人で可愛い子でね、賢いところもうちの女神にそっくりなんだ。


リジーが生まれた日のことは忘れないよ。

日の出と共に、この世に天使が舞い降りたんだ。その神々しさに涙が止まらなかったよ。

よく、生まれたての赤ん坊は猿みたい、だなんて言うだろ? とんでもない。リジーは生まれた時から美しかったんだよ。

僕は嬉しくなっちゃってさ、その年の全ての領民の納税を免除するって言っちゃったんだ。

さすがにそれはダメってことで、後から撤回されたんだけどね。あの時はモリーにたくさん叱られたなあ!


実は、その天使のことで、ちょっと大変でね。


うちの娘がね、婚約解消したんだ。

それだけなら微々たる問題なんだけどね、相手が少々タチが悪くてね……。

王子だか何だか知らないけど、若造のくせに他の女に入れあげやがってさ。うちの娘を蔑ろにしただけじゃ足りず、うちの娘がしていない悪事をでっち上げて、それを理由に全校生徒の前で婚約破棄を宣言するという、大恥をかかせやがったのさ。


貴族にとって、醜聞は時に命取りなんだ。

真実よりも噂が真実味を帯びて広まり、首を締める――恐ろしいけど、それで社会的に抹殺されてしまうのが貴族の世界なんだ。

だから、僕もモリーも火消しに奮闘した。

けど、対立している派閥が絡むと、さすがにうまくいかなくてね……。


そうこうしている間に、

「昔みたいに、国の外に出て暮らしたいわ」

なんて言い出したんだ、うちの天使が!




僕には隣国のニタ共和国に移住した両親がいる。

この二人、なかなか前衛的な思想の持ち主でさ。特に親父の方は先々代の国王の息子だっていうのに、古い思想を忌み嫌っていてさ。

「子供に広い世界を!」

とか訳わかんないことを言い出して、うちの可愛い娘と次に生まれた僕にそっくりな息子を連れて、諸国漫遊し始めたんだよね。

人に公爵の地位を押し付けてさ。こっちが慣れない仕事に奮闘している隙をついてさ。


親父も悪い人間じゃないから、定期的に連絡はくれたけどさ、こっちは気が気じゃないよね。何度も追手を使って捕まえようとしたけど、いつも巧くかわされちゃってさ。何年も追いかけっこだよ。

そのうちニタのことが気に入って、あっという間に移住して、ようやく放浪生活が終わったってわけ。

あちこち転々としたくせに、落ち着いたのが隣国っていうのは救いだけどさ。普通、王家の血を引いた人間が、そんなことをする?

今じゃニタでも出世して、大きな顔をしているらしいよ。だったらこっちでもまだまだ公爵として働けたよね、絶対に。


それで、僕は色々と考えたんだ。

どうしたら、うちの天使をずっと僕の手元に置いて置けるか。

適当な家に嫁がせるのはダメだ。

どこの家の男も馬鹿ばっかりだ。絶対にリジーが不幸になる。


次々と送られてくる釣書の山を廃棄して、僕は考えた。

領地内にリジーのためだけの修道院を作ろうか。

全然ダメだ!! リジーを閉じ込めるなんて、不幸でしかない。リジーの可愛らしさは世間に広めてこそ、価値がある。

そもそも修道院なんて、リジー本人が望まない。馬鹿か僕は。




そんな時にさ、声がかかったんだよ、王家から。その縁談、乗っちゃうよね? 王家だもん。将来は安泰だとか、親なら考えちゃうよね?


現国王は僕の従兄弟でね、僕の弟分なんだ。

小さい頃からトロい奴でさ、いつも僕の後ろを必死に追いかけてきたよ。


あいつには上と下に姉妹しかいなくてね。唯一の男子ってことで甘やかされて育ったから、男兄弟の長男という男の頂点を知る僕が直々に、男の世界を教えてやったんだ。そうしたら妙に懐いてね、今でもそうさ。


その息子なら、そこそこ学も礼儀も身に付いた、大人しくて悪い奴じゃないだろう、なんて思ったのが大間違い。

一番の不良債権だったわけさ。


あの若造が言っているんだって?

うちの天使が! 聖女を虐めて! ドレスを切り裂いただの、なんだの。

馬鹿は馬鹿なことしか考えられないんだな。

うちは公爵家だよ?


元は王族で、現在は貴族院の過半数を手中に収め、国内でも随一の強さを誇る軍を持ち、僕の弟達は国防や経済を握っている大臣だ。政治力も軍事力も王家に次ぐ――なんて世間では広まっているが、実質は王家なんて眼中にない家柄なのさ。

なのにその娘が、そんなチンケな悪事を働くわけないだろう? やるならその性悪女の存在そのものを消すさ。

あ、やるのはもちろん僕の天使ではなく、僕や公爵家に連なるもの達が、だけどね。




僕は普段あまり腹を立てない性格なんだけど、さすがに今回のことは怒っちゃったよね。

『婚約破棄』に『国外追放』? あの馬鹿王子、親に権力があるからって、自分も同じだと勘違いしすぎだよね?

お前には、そんな権限は一つもないっつーの!

だからさ、僕はすぐに国王に会いに行ったんだ。


そうしたらあいつ、ちゃんと息子のしでかしたことを知っていて、僕の顔を見るなり駆け寄って、足にすがり付いて。振り払ったら、涙ながらに土下座したんだ。

「こちらからお願いしたのに、申し訳ない」

って。

ちょうどいい位置に頭があったから、足で踏みつけてやったよ。

あいつ、床に顔を打ちつけてさ、それを足で力いっぱいゴリゴリゴリゴリ……それでも汚く泣いて謝ってさ、気持ち悪かったよ。


その話を家族にしたら、居候のカレンがドン引きしていたけど、気持ち悪いだろ? オッサンの涙ながらの土下座なんて。


その場に王妃もボケッと突っ立っていたから、すぐに王子の有責での婚約解消っていう書類を出してもらったし、大々的に発表もされたんだ。

だからさ、婚約破棄されたなんて、大嘘なのさ。




それでも噂は収まらなくて、困っちゃうよね。

うちの娘は何もしていないのに。

そもそもうちの娘はね、馬鹿王子にはこれっぽっちも恋愛感情を持っていないから、あの馬鹿王子が望むなら、側妃でも妾でも大歓迎だったんだ。結婚はあくまでも公爵家の娘の義務として受け入れたに過ぎないからね。馬鹿王子が何をしようとも我関せずでいたし、今後もそのつもりだったのさ。な? 天使だろ?


貴族学校だって、卒業に必要な単位はすでに修得していたんだよ。だけど王家の嫁がさ、自分の息子を差し置いて先に卒業などあり得ない、なんて言い出してさ。うちの娘はその言葉に従って、卒業を待ってあげていたんよ。重ね重ね、天使だろ?


なのにこの仕打ち!!

公の発表は公爵家の陰謀だのと囁かれ、噂はどんどん広まっていく。

家に戻った頃はモリーと共に積極的に外に出ていた僕の天使も、今ではすっかり引きこもり、輝かしい笑顔も陰りがちで。

家に居てくれるのは嬉しいけど、やっぱりこれは僕の望む幸せじゃない。


問題は公爵家と対立する派閥、いわゆる王室派なんだ。

馬鹿馬鹿しい話だけど、この対立は僕らの親世代が発端でね、先代国王は正妃の長男で第二王子、うちの親父は側妃の長男で第一王子だったんだ。


王位継承順位は何番目に生まれても、正妃の長男が一位となることが決まっているから、親父は王室のスペアとして、王位継承権を持ったまま公爵家に下った。

それをよく思わない輩が王室派には多くて、公爵家がいつか王家を乗っとるんじゃないかと疑ってかかっている。

だからあいつらは、これを機にこちらの勢力を削り、あわよくば自分の娘を王太子妃に据えるために必死なんだ。

対立と言っても、当人達は誰も対立なんかしていなくて。じいさん同士は兄弟仲良しのこと、この上ない。

全ては周りが勝手にやっていることなんだよ。


僕も珍しく真剣に考えた。

このまま好転しなければ、リジーは本気で国を出るに違いない。それはリジーの幸せかもしれないけど、僕は不幸だ。だから絶対に認めたくない。

いっそ、片っ端からムカつく奴らの首をちょん切ってやりたいけど、それはモリーに止められているんだ。

確かに天使と女神の家族に、殺戮者は似つかわしくない。僕は貴族らしく、手ではなく頭を使った解決策を考えなければならないのさ。


そうやってモヤモヤした日々を過ごしていたある日、仕事から帰宅したら親父がいたんだ。リジーやモリーと楽しく語らって、すっかり当主面で。

ビックリだよ!!

それだけで驚くのに、学校の寮で暮らしているはずの息子のマシューまでいるんだ。

家族全員集合して、親父まで呼び寄せられ、僕、何か悪いことでもしたかな? って、挙動不審になっちゃったよ。別に何もしていないのに。

おまけに僕を見てさ、モリーがめざとく

「旦那様、何か隠し事がありまして?」

なんて言うからさ、ますます焦ってアワアワしちゃったよ。




親父を呼び寄せたのは、リジーだったんだ。

リジーには考えがあって、それを叶えるためには親父と、僕ら公爵家の力が必要だと言うんだ。


実際話を聞けば、確かにリジーの提案は名案だった。そして、公爵家の力を使えば、それは叶う。じゃあ、やるしかないだろう?

次の日から、僕ら家族は天使から与えられた仕事に取りかかった。


僕は弟達と団結して、官僚組織という国の中枢をまるごと乗っ取った。

議会は元々過半数は味方だ。残る半分のうちの王室派は3分の2で残りは中立派だから、簡単に主導権を握った。

どちらも想像していた以上に呆気なくて、物足りないくらいさ。

特に王室派の奴ら。

何もしていないときは全然ほっといてくれなかったくせに。いざ本当に立ち上がったらひと睨みで瞬殺、全面降伏してやんの。一人くらい、僕に切りかかってくるような、気骨のある奴がいてもよかったのにさ。


僕が真正面から計画を遂行すると同時に、モリーは裏から、貴族の奥方と商人に巧みに揺さぶりをかけた。

敵方の夫人には美味しいお茶と()()()()()()徹底的に懐柔したし、貴族の御用達商人にはありとあらゆる()()を持ちかけ、根こそぎ味方につけた。

さすが、我が女神だ! 仕事はいつも完璧さ。


身震いするほど感動した僕は、跪いてありったけの称賛の言葉を彼女に捧げたけど、30点って言われたよ。直接的すぎて、表現力に乏しいって。なかなか厳しいなぁ。

でも、そんな難攻不落なところも彼女の魅力さ。


で、親父はニタ共和国との連絡係で忙しく駆け回り、息子のマシューは学校に戻り、馬鹿王子と性悪女の監視や情報収集に明け暮れた。

ま、一人は元公爵でニタの重鎮、もう一人は公爵家の跡取りだ。そのくらいは完璧にやって当然だけどね。

二人のことは、一応褒めてあげたよ。僕は優しいからね。






そして、機は熟す。

僕らガーランド公爵家総出で仕掛けた計略が、動き出すときが来た。

僕の手には、三枚の書類がある。

これは確実に奴らを破滅に導く、報復の矢となるのさ。


第一の矢は性悪女を。

第二の矢は馬鹿王子を。

第三の矢は……これはまだ秘密さ。全てタネ明かしをしてしまったら、面白くないだろう?


全てはかわいい僕の天使のために。

僕は全力で矢を放つ。






さあ、楽しい断罪劇の始まりだ。

笑顔で奴らに引導を渡そう。














毎週金曜21時更新。

次回は1月13日の予定です。


私の書くお話には、高確率で公爵様のようなタイプが出てきます。

それはさておき。

次回、ざまぁに突入です。

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