7.死者の生き方
7.死者の生き方
闇雲に走り回ったものの、俺の落ち着ける場所はどこにもない。それもそうだ、俺には金も無ければ記憶もないが、なにしろ家がないのだから。帰るところがないというのは、こんなに生きるに困難なものだったのか。
結局どこにいくこともできず、人を避けてうろうろと彷徨っているうちに自動車道路の高架下に行き着いた。煙草の吸い殻が転がっているのがクソ度合いを高めるのに一役買っているところだ。
どこをとっても清潔とは言い難いが、適当な場所に陣取った。一息ついたところで、ハンバーガーを取り出してかぶりつく。先程10個も同じものを食ったはずだが、勢いは落ちない。アッと言う前に平らげると、包み紙をくしゃくしゃにして上着のポケットに突っ込んだ。
「俺は、一体どうなったんだ。これは夢か」
フードを脱いで、自分の顔を手で触れていく。いつか見たあの通りだ、何も変わらない。あそこで目覚める前は、俺はどんな生活をしていたんだろうか。目覚めてからずっと腹の奥底から怒りの感情が渦巻いているのを感じる。それにいくら食っても食い足りない、無限にも思える飢えがある。俺は本当に人間でない化け物なのか。
「またあったな、兄ちゃん」
聞き覚えのある声だ。座ったまま静かに振り向くと、いつか見たジジイが同じ格好で突っ立っていた。
「何の用だ」
「本当に腹が減るんだな。あんなもんが食えるなんて羨ましい」
「何の用だと聞いている!」
「まっ、待て待て待て。怒るな怒るな。話がしたいだけだ、お前さんも自分が何者なのか知りたいだろう」
「……」
ジジイは俺の返事も聞かず、俺の目の前に座り込んだ。確かに、俺は一体何者なのかそれが知りたい。小煩いこいつを八つ裂きにするのはそれからでも遅くないか。黙っていると、ジジイは話し始めた。
「まずはこの世界のことわりから話そう。当然のこと生者、すなわち生きている人間がこの世界の中心になる。生ける肉体に、魂が繋がった状態。これを生者と呼んでいる」
突飛な話だが、黙って話を聞く。
「生けるものは全て死ぬ。生者の肉体が滅びを迎えた時、そこに宿る不死なる魂は肉体を離れる。魂だけの状態がわしのような死者だ。幽霊と呼ぶ者もいる」
ジジイは、ちらりとこちらの様子を伺う。俺が黙って聞いていることを確認すると、そのまま続けた。
「いわゆる我々幽霊たちは、生者の世界を観測はできるが干渉はできない。物や人を動かしたり、変形させたりすることは不可能だ」
幽霊か。ジジイは自分を幽霊だというが、足もついているし、あんまりピンとはこない。
「つまりは見ている事しかできん。このように触れることはできるが……」
ジジイは煙草の吸い殻を拾い上げようと力を込めているようだが、それはビクともしない。
「動かすことはできん。本当に見ているだけなんだ。羨ましい、お前さんは干渉することができる。あろうことかパンを食うことさえできるんだからな」