表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
half dead  作者: ELS
4/15

4.死体が動く

4.死体が動く


しかし、死んでいるだと。そうなりたければすぐにそうしてやるが、少し気になる。


「おろしてくれよ」


吊り上げたまま固まっていると、おろしてくれと涙目で訴えてきた。なんだか怒りも霧散してしまったので、両の手を離して地上に解放してやった。ジジイは「げほげほ」と非難するように大きく咳き込んで見せる。


「ゲホ、こんなに乱暴な魂は初めてだ」

「それより死んでいるとはどういうことだ。俺の顔を見てそれを揶揄しているつもりなら、お前の顔面も同じようにしてやるぞ」


ジジイは両手のひらを前に突き出して、勘弁してくれのポーズをとる。


「わしもお前も、もう死んでる。魂だけだ、幽霊と言う者もいる。死者だ。だからもう死なない。これ以上は死なない。ほらみろ」


そう言って、ジジイは洗面台の鏡を指差した。釣られてそれを見る。そこに映っているのは薄汚いフードを被った怪しげな男だけ。つまり俺だけだ、ジジイは映らない。


「なぜ映らない」

「お前さんはなぜ映る」


俺の声に被せるようにジジイが言った。どうやら同時に驚いたようだ。鏡に顔が映るのは当然だが、ジジイの姿は鏡に映らない。異常事態だ。


「生者の世界は死者を観測できない。死者を観測できるのは死者だけだ。わしが見えるお前さんは死者、しかし生者の世界にお前さんはいる……」

「何を言っている」


もう限界だ、このジジイ。生者だ死者だと訳のわからん事を言って煙にまきやがって。また沸々と怒りが沸いてきた。思わず握り締めた拳で洗面台を叩く。ドンと大きな音を立てて台が揺れた。


「そうか、お前さんは肉体があるのか!?生者でも不死者(アンデッド)でもない。不死なる魂が死する肉体にこびりついた、半死半生(ハーフデッド)


捲し立てるようにジジイは続ける。


「心臓の音を聞いてみろ。拍動が時を刻んでいるか?いや、地獄の大穴の風音だけだろう。痛みは感じるか?体温はどうだ?」


自分の胸に手を当てるが、確かに何も感じない。首筋も、手首も、慌てて確認するが拍動は感じられない。


「どうなっている。俺は一体何だ、俺はゾンビなのか?」

「ゾンビだと?映画の見過ぎだ。お前さんはゾンビなんかじゃあない。肉体は死んでも魂は生きている」

「……」


理解できん。ジジイの言う事は荒唐無稽だ。しかし今のこの状況はどう考えれば良いものか。ああクソ、もうどうでも良い。腹が立ってきたし腹も減った!


「もういいジジイ。俺の前から消えろ。俺は腹が立っているし、腹が減っているんだ」

「腹が減るのか?」


ジジイは当たり前のことを聞いてくる。もう限界だ、こいつにこれ以上構ってはいられない何か食いに行こう。


「どけ!お前がここから消えないなら俺が消える」


性懲りも無く近づいてくるジジイを押し退けて、俺は再び夜の街に飛び出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ