3.青い炎
3.青い炎
頭がイラつく。いや、心の臓がイラつくのか。どこだっていい、とにかく俺は頭にきているのだ。なぜ何もしていない俺が、コソコソ逃げ隠れしなくてはいけないのだ。これからは、胸を張って道の真ん中を歩くことさえ満足にできないのか。一生こんな思いをしろというのか!
公衆便所に逃げるように飛び込んだ俺は、フードを脱いで鏡に映る自分の顔を睨んでいた。無くなった鼻は、その穴だけが機能している。耳たぶも存在しないが音は聞こえるから鼓膜は無事なんだろう。窪んだ右半分の顔面も、痛々しいのはその見た目だけで痛くも痒くもない。どうって事はない、生きていれば。
本当にそうか?
何で俺がこんな目にあっているんだ。こんな怪我を負った記憶はない。そもそも、自分がどこの誰なのか記憶がない!誰だ、俺は。ああ、胸の奥にあるマグマのようなものが今にも噴き出しそうだ!無意識のうちに固く握られた右拳が、ぶるぶると震えている。
落ち着け、落ち着け、落ち着け。
「どうかしたか、兄ちゃん」
急に背後から声がかけられた。驚いてフードを被り直して振り向くと、小柄で小汚いジジイが立っていた。太い眉毛には白髪が混じっている。なんだこいつ、近づいてくるのに全然気がつかなかった。左手で自らの顔を押さえながら言う。
「放っておいてくれ」
「おいおい、放っておけって態度かそれが……」
続けて何か言いかけるジジイの声を遮るように、両手で襟首を掴んで持ち上げた。
「俺は放っておけと言ったぞ、殺されたいのか!!」
ジジイの身体が軽々と宙に浮く。そのままの体勢で壁面に押しつけた。忠告はした、忠告はしたのにも関わらず、わざわざ俺の怒りを誘うような事をする。何故だ!
「ぐっ……。待て待て待て、殺せるものかよ。そうだろ?」
真っ赤な顔で、首を押さえながらも何か訴えてくる。殺せるものか、だと。この後に及んで神経を逆撫でしてくるやつだ。胸の奥から青い炎が上がって来るのを感じる。全てを焼く怒りの炎だ。
「本当に死にたいらしいな!」
「ち、違う、違う。わしらはもう死んでるだろうって」
「……何?」
何を言っているこのジジイ。俺を混乱させようっていうのか。