2.怒りと共に
2.怒りと共に
眩しい。
予想以上の光量に目の奥がびっくりした。ギラギラした電飾の店が立ち並び、質の悪そうな客引きがあちらこちらで声をかけている。華やかさを凝縮したような街。ほんの一本の道が違うだけで、あのドブ臭い路地裏とはこれほどまでに差があるのだ。枯れ木が水面を流れのまま漂うように、頼りなく歩く。場違いだ、どう考えたってここは俺の居るべき場所じゃあない。ならば俺の居場所はどこだ、俺の帰る場所は……。あてもなく彷徨っていると、「どん」と肩に衝撃。どうやら正面から来た男に衝突したらしい。無言で立ち去ろうとしたところに男が声を上げた。
「痛って、おい。お前、ちょっと待てよ」
フードは深く被ったまま、身体を声の方へ向ける。足先から頭の先まで、じろりと視線を流してから男は続ける。
「もしもし?ぶつかったんだけど?俺にぶつかったんだけどぉ?」
「……」
「なんとか言えよ、コラ」
そう言いながら男は一歩踏み込んで、俺のフードに手をかけた。静止する間もなく一気にそれをめくり上げる。例の痛々しい頭蓋が白日の下に晒された。抉れた顔面の深く落ち込んだ眼球が男の顔を正面に捉える。
「うわ……えぐ」
男はそんな事を言いながら、慌てて数歩下がっていった。他人の顔をわざわざ勝手に見ておいて随分なことだ。近くにいた人間たちが何が起こったのかと、こちらに目を向ける。誰一人近づいてくるものはいないが、スマホを取り出したのが数人。ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら無機質なレンズを通してこちらを見ている者まで出てきた。なんのつもりかわからんが、全く頭にくる。胸の奥からチロチロと青い炎が湧き出して頭の中でトグロを巻いているような気分だ。何かのキッカケでそれが噴き出て、コイツらをどうにかしてしまいそうだ。この場に留まるのは精神衛生上良くないだろう。真っ黒いパーカーのフードを深く被り直したあと、野次馬どもが増える前にと足早にその場を去った。
「おい、今の見たかよ」
「マジでグロかったよな」
彼がその場を立ち去ったあと、残された者たちは口々に勝手な感想を言い合い、それぞれが自分の記録媒体の成果を確認していく。
「あっつ!」
「どうした?」
「スマホが、熱持って」
「バッテリーかな」
彼にスマホのレンズを向けていた者たちは一様に首を傾げた。
「何も写ってない……」
操作を誤ったのだろうか。それぞれの機器を見せ合うも、ただの一人もあの黒いパーカー姿を記録することは叶わなかったのだった。