15.共食い
15.共食い
俺は自分の寝ぐらに戻るとすぐに、徘徊している幽霊男を一人捕まえて言った。
「おい、たけ爺とか言う男はどこだ。どこにいる?」
男はびっくりしたような表情をすると、静かに指をさした。よく見ればジジイは部屋の片隅でぼうっと座っていた。居るんじゃあないか。真っ直ぐとそちらに向かうと、座っているところへ上から声をかける。
「おい、ジジイ。聞きたい事がある。答えろ」
「あー……」
「聞く耳はあるか?クソが詰まっていて聞こえないなら手伝ってやるぞ」
「う……うう、いや。なんでも」
なんでも聞いてくれと、ジジイは立ち上がってそう言った。心ここにあらずと言った感じだが、魂だけの幽霊のクセに心が無ければ何が残るんだって話だな。どうでも良いが。とにかく聞きたいことは一つだ。
「お前は幽霊はモノにもヒトにも振れられないと言ったな?」
「あ、ああ。言ったよ」
「見ろ」
ヘソの横に空いた穴を見せる。向こう側まで通して見えそうな深い穴がぽっかりと空いている。出血は無いが、普通の人間なら失血死してもおかしくはない負傷だ。しかしジジイは、これを見ても要領を得ないような顔をしている。
「幽霊であろう男にやられた。いや、男かどうかもわからん。犬の頭が人間の頭の横から生えてきた化け物だ」
「あんたに化け物呼ばわりされるとは、ずいぶんなやつだな」
「いくら俺でもビックリ人間みたいな真似はできん。犬人間は車も踏み潰しやがった。話の筋は、その幽霊がなぜ俺の身体や車に触れられたのかってことだ」
あの犬のクソは次に見た時は殺す。フードの奥の瞳には、はっきりと殺意の炎が灯っている。ジジイはいくらか考えたあと、ハッと何かに気がついた顔を見せた。
「幽霊を喰う幽霊がいる。そいつははぐれ幽霊を見つけてはそれを頭からバリバリ喰らっている。まつ兄もそれでやられた」
「お前らが共食いしようがどうでも良い。あいつが俺に楯突いてこれたのはなぜだ」
「それは分からん。しかし同種喰いをすることで、何かあるのかもしれん」
「何かとはなんだ?」
「わからん。これは全くわしの想像だが、魂を食って何らかの力をつけることで、この世に影響を与えられるようになると言うことではないか」
ジッとジジイの顔を睨みつける。怯えたような表情になるが、嘘をついている様子はなさそうだ。しかし共食いをして力をつけるだと?ゴミがいくら力をつけても、ちょっと良いゴミになるだけだろうがな。
「まあ良い、わかった。消えて良いぞ」
そう言ってジジイを追い払ったあと、俺はお気に入りのベッドに腰掛けた。骸骨の王の下にある、例のコンテナでできた四角いベッドだ。背中と首を痛めそうな固さだが、今の俺は痛みを感じることはないようだ。クソが半分でかかっている犬人間を捕まえて、八つ裂きにしてやりたいところだが今日はもう疲れた。首やら腹やらに穴を空けられて疲れないやつはいないだろう。もう休むことにしよう。俺はそこで前屈みに座りながら、目を閉じた。




