14.戦闘
14.戦闘
犬人間は大きな叫び声をあげて狂い悶え、何とか逃れようと身体を捻る。逃すものか。俺はさらに右手に力を込める。鋼のような上腕に血管が浮き出て、尋常でない握力が発揮されていることがわかる。そうしている間にも地獄の炎は犬人間の魂を体の中から焼いていく。
「KYAAAA!!!」
叫び声はどんどん高く、金切り声になって俺の鼓膜を刺激する。中々良い悲鳴じゃないか。気分が良くなってきた!幽霊というのも焼けると炭になるのか?さあ楽しみだ。
パシュッ!
またあの音を立てたと思うと、犬人間の腹から新たな二本の腕が伸びてきた。それらは自らの首に近づいたと思うと、喉仏の下側を真横に引き裂いた。すると俺の握っている首から下の胴体が切り離されて崩れて落ちた。首なしの犬人間は、四つん這いの体勢になると凄い勢いで走り出した。逃げる気か。
「ガアッ!」
先程下敷きにして大破した車のボンネットを引き剥がして、逃げゆく背中に思いっきり投げつけた。ものすごい騒音を立てて壁にぶち当たって砕けたが、残念ながら命中とは行かなかった。四つん這いとは思えないスピードで、犬人間は夜に闇に消えていった。
「グゥゥゥゥアアアアッ!!!」
俺は大きく口を開けて吠えた。良いところで逃げやがって!怒りのあまりエンジンが剥き出しの車のフロントを殴りつける。もはや原型をとどめないほど破壊され尽くした車は、勘弁してくれとでも言うようにひしゃげた音を立てた。一体あの野郎は何者だ。幽霊のようだが、俺の身体に触れることもできるし、この車を踏みつける事だってできた。
生きているのか?それにしては挙動がおかしい。頭の横から犬の頭が生えたり、腹から腕が飛び出す生物がいるとは思えん。俺と同じような半死半生な存在なのか?
いや、それにしては匂いも足音もないのはおかしいだろう。俺にしたって足音くらい立てる。
「……」
遠くの方でサイレンが鳴るのが聞こえてきた。音はだんだん近づいてくる。どこかの間抜けが通報しやがったな。犬人間だけでも頭が痛いのに、猫のお巡りさんなんてのまで出てきたら大変だ。クソを拭いた後のちり紙よりも役に立たない野次馬が集まって来る前に消えた方が良いだろう。そうして俺はその場を立ち去ることにした。




