11.ハロウィンパーティー
11.ハロウィンパーティー
「なにそれ、おもしろーい」
高い声で笑いながら女達は言った。何も面白くはない。お前達の声は面白いどころかうるさくて頭にくる。
「おい、女。何か食い物を出せ」
「食い物って、トリックorトリートって言わなきゃだめじゃん?あはははっ」
トリックorトリート、なるほどそうか。良い言葉だな。子供じゃあないんだが、まあ俺も昨日産まれたようなものだ。
「Trick or Treat(俺をもてなすか、酷い目にあうか選べ)」
女らに顔を近づけて、地獄の底から出てくるような低い声で俺はそう言った。どうやら俺の表情が良くなかったらしい。彼女らはひっと小さな声で息を吸うと、黙って俺に何やら差し出した。この包み紙は菓子だろう、チョコレートは大好物だ。
「ありがとよ」
細い指でつままれているそれを受け取って、口の中にいっぺんに放り込んだ。ぼりぼりと音を立てて甘いのが口中に広がる。美味いじゃあないか。菓子を包んでいた紙を女に返しながら質問した。
「この馬鹿騒ぎはいつまで続くんだ?」
「えっ……たぶん夜中までやってると、思います」
「そうか」
あらゆる場所は人で溢れかえっている。爆音で何かしらの音楽を流しながら派手に光る車。それを取り囲んで踊るゾンビやスーパーヒーロー。夢の国、いや悪夢の世界だな。全くご機嫌だ。非日常の楽園を楽しんでいると、ふと人通りの少ない暗がりで不思議な光景を見た。頭が犬の形の人間が、人間を喰っているのだ。大きな大きな犬の頭で、ばくりとひと齧りで人間の頭がすっぽり入っていった。食われた方の人間は血も噴き出さず、ただ頭が取れてその場に倒れた。その後何事もなかったかのように犬頭は人間の頭部に変形する。ハロウィンっていうのはニンゲンを喰っても良い日なのだったかな。そんな事を考えていた時、後ろから車のヘッドライトが俺の背を照らした。ガオンというエンジン音が俺にどけと言っているようだ。無視していると、再度どけと催促される。
「やかましいぞ」
そう言って振り返ると、車のボンネットに手を乗せた。しばらくすると、フロントのあらゆる隙間から、白い煙が上がり始める。慌てて運転席から一人の男が降りてきた。
「おい!何してんだ!」
その出てきた男も大きな声で怒鳴り始めた。大きな音を立てる車から大きな音を立てる人間が出てくるとはな。マトリョーシカか?
「おい、お前。何してんだよ!!」
「消えろ」
ピヨピヨとよくさえずる男だ。エンジンから煙が出たくらいで大騒ぎしやがって。詰め寄ってくる男の目を見て、そう一言だけ返した。何かを感じ取ったのか、急に声色が弱気になって引き下がる。
「な、なんだよ」
「消えろ」
耳クソが鼓膜の直前まで詰まって聞こえないのか?もう一度はっきり言ってやると、男は舌打ちをして愛車の方へ戻っていった。せっかくのハロウィンパーティーだというのに、イライラさせる野郎だな。