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カミーユとロザリーの話  作者: 十月猫熊
第2章 カミーユのお話
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67ダンジョン攻略~邪神の神殿での戦い


だれもが緊張しているのが分かる。


入り口から回廊があり、奥に祭壇のある部屋がある、という基本的なつくりは僕らが知っているものと同様だった。


ここはダンジョンではない。

だからこれだけ歩いていても魔物に行き当たることはない。

そして、死んだら蘇生術で生き返ることは出来ない。


祭壇が見えてきた。


「祭壇に祀られているもの、それがご神体よ。邪神がこの世界において、依り代とするもの。依り代が無くなれば、邪神がこの世界に及ぼせる影響力はぐっと下がるはずなの。って聞かされた話だけど。どうやら…ここでは鏡のようね」


祭壇の一番高いところに、楕円形のありがちな鏡が設置されていた。

金属の飾りが鏡の周りを縁取り、一般家庭の洗面所の壁などにかけてあるようなものだ。


オルガさんからの目配せをうけたマルセルさんが、鞄からなにやら魔道具を出した。


それを、祭壇の両脇と、少し後ろの方に設置し、軽く何かを詠唱すると、その魔道具が光りはじめた。


僕が怪訝な顔をしていたらしく、「ああ、これはボス戦を真っ暗な部屋でするときに使う魔道具だよ。使いすてだから、途中のボス戦では使わなかったんだ」と説明をしてくれた。


魔道具を発動させたところでマルセルさんは使ってくれていたライトの魔法を切ったようだ。


確かに集中が途切れるとライトの魔法が切れることはある。

その一瞬が命取りになるのだろう。

それに、ライトをかけつつ、だと、僅かでも力をそれに割り振ることになる。

そのわずかな差もこういうときには生死の分かれ目になるかもしれないのだろう。


特に僕らはドラゴンからの休息無しの三連戦になる。


僕は、それなら、とおへそのピアスも外した。

これも、僅かとは言え常に魔力を喰われるのだから。


ピアスをマジックバッグに入れ、顔を上げると、皆が驚愕の顔で僕を見た。


「…そうか、今の君が本当のカミーユなんだね」


アランさんがそう言って笑ってくれて、それから他の皆さんの顔を見ても、驚いてはいても、全員『大丈夫』であることが分かって、だよね、とホッとした。


「さてと。みんな準備は良いか。いくぞ!」


ギーさんが掛け声とともに、一気に数段を駆け上り、祭壇の鏡に、自慢の巨大な斧を叩きつけた。


結界が張られていたようで、はじき返されていたけれど、数度目に結界が壊れたらしく、斧が鏡の一部に当たり、ふちが欠けて鏡に一筋のひびが入ったのが見えた。


途端に、その欠けたところやひびの部分から、赤黒かったり紫がかった靄が噴き出し始めた。

もう一撃くらった鏡は砕け、一気に巨大な靄が渦を巻いた。


「来るぞ!」


アランさんがそう言って、飛び退った。


それまでアランさんがいたところに、光る矢のようなものが刺さっている。


ギーさんもこちらまで後退してきて、僕らはいつもの戦闘時の陣形を組んだ。


巨大な靄はあっという間に形を成したのだけど…なんとも形容しがたいモノだった。


宙に浮かびながら常に触手のようなものが出たり引っ込んだりし、かつ全体が脈打っている、柔らかな球に近い何か、だった。


でも僕らが近寄れないように、時折矢のようなものを飛ばしてくる。


僕はとりあえず全員に矢のようなものが刺さらないように、耐物理結界をかけた。


マルセルさんが、炎の魔法を放ち、それが当たったのだけど…効果が無いように見えた。

静かだったのはそこまでだった。


うねうねとした、その何かの真ん中に線が入り、そこがぱっくりと開くと、悪霊たちと同様、巨大な目があった。


その目が僕らを捕らえると、眩しく光を放ち、僕は目がくらんでしまった。


と同時に、物理結界が無くなっていることに驚いた。


攻撃をくらって消えたわけではないはずだ。


これが、僕らとことわりの異なる邪神のワザか…。


僕は震えあがりながら、眩しさにやられた目に回復魔法をかけて見えるようにする。

僕以外は咄嗟に目をかばっていたようで、僕の経験値の少なさがこういう時に露呈してしまう。


そこからは、何が効いて何が効かないのかも分からない謎の相手に、僕らは出し惜しむことなく、全力で戦った。


ときどきオルガさんが「蘇生薬ー!!!!」と叫んで自分を鼓舞しているのに驚いたくらいだ。


正直、近くに寄るのが間に合わず、回復薬を以前のオルガさんのように瓶ごと投げて、という場面も多くあった。


想像通りというか、聖属性魔法はやはり良く効いたので、オルガさんがひたすらに詠唱しては魔法をぶつけていた。


僕とマルセルさんは、攻撃魔法はほぼ効かないことを一通り確かめたので、素早さを上げたり攻撃力を上げたり防御力を上げたり、といった補助魔法をひたすらギーさんアランさんリュシーさんにかけた。


誰も死なないように、ひたすらに全員に目を配って、回復薬や回復魔法を使い続けた。


僕もマルセルさんもオルガさんも、途中でもさらに魔力回復薬を飲んだ。


物理攻撃の三人は僕らに回復をかけられては、疲れ知らずで剣などをふるい続けてくれた。


アランさんの聖属性の剣がそのぶよぶよしたものをとうとう一刀両断にし、それがまた靄のようになって薄れていったのを目にしても…終わったのかどうか、判断がつかなかった。


時間の感覚は完全にマヒしていた。


ドラゴンから始まって三日三晩戦ったと言われたらそうか、と思うし、一日だったと言われてもそうか、と思う。


ただ、数時間しか経っていない、ということだけはない、それだけは断言できた。感覚がマヒするほどに長時間戦い続けたのだ。


僕らは油断なく、辺りを警戒し続けた。

靄のようなものが完全に消えたとき。


祭壇の手前に、帰還の魔法陣が出たのをみて、全員があれ?と思った。


ここも、ダンジョンの一部扱いになっていたということなのだ。


まあ、でも誰も死ななかったのは幸いだった。


生き返らせることが出来たのだろうと今ならわかるけど、そんな危険な賭けで、ここがダンジョンの一部かどうかを確かめる気などない。


そして、ようやく。


「終わった…」


ギーさんのつぶやきを聞いて、僕らはヘナヘナと座り込んだ。


帰還のための陣は出ているのに。

ドラゴン、ドラゴンゾンビ、得体のしれないやつ、と三連戦したのに、宝箱も無ければ、魔石も無かった。


「ねえ、ドラゴンの分の魔石くらいあっても良くない?なんかタダ働き感!」


リュシーさんが足を投げ出して、両手を後ろについて、荒い息を整えようとしながら文句を言っている。

僕はまだ魔力が残っていたので、リュシーさんやギーさん、アランさんに回復魔法をかけてあげた。


「ああ、すまんな、楽になったよ」


疲れが軽減したらしいギーさんは、「さて、最後の仕上げをするぞ」と立ち上がった。


帰還の陣を踏まないように気をつけながら祭壇まで行くと、その大斧で、石の祭壇を真っ二つにした。


その真っ二つになったところに、マルセルさんの特大の雷が落ち、「おい、俺がまだ近くにいるだろうが」とギーさんからの抗議の声が上がった。


祭壇だったものは、黒っぽい色だったのに、今は灰色というか、自然の石の色に戻っていた。


「あとは、その背後の、うん、そこかな。それも壊しておいて」


オルガさんが立ち上がる気力もなさそうな顔色で、ギーさんに声をかけている。


結局念のためにと、その周辺の柱や台も徹底的に壊した。


もはや神殿だったとは思えない廃墟だ。

依り代だった鏡の破片も、粉々になるまで砕いた。


その頃には、ただいるだけで魔力や体力が奪われていく感じは無くなっていて、その代わりに魔術師の僕らは例の副作用に苦しみ始めた。


なんだこれ…気持ち悪い…。


僕らが苦しんでいる間に、物理系の三人は、廊下を戻って、最初の広間の様子なども見て来てくれていた。


「みて!さっきはなかったのに、ちゃんとあったのよ!」


リュシーさんが見せてくれたのは、ドラゴンからならそうでしょうとも、というような立派な魔石だった。


「倒したドラゴンがゾンビになったから、一個なんだねー。宝箱も無かったしほんと損した気分だわ」


「おい、俺らが昔倒したドラゴンの魔石はそれより小さかったんだぞ。それなら二体分の価値はあるって」


ギーさんがリュシーさんに以前倒したドラゴンの魔石の大きさなんかを説明している。


でも今の僕はそれどころじゃない。

気持ち悪くて吐きそうなのに、ずっと何も食べてないから吐くものもない。


ふとこちらをみたアランさんと目が合い、アランさんは僕とマルセルさんとオルガさんを順に見て。


「ギー、ここ、これ以上探索するところあるならさっさと済ませて、この三人を医務室に運ぼうよ」そう提案してくれた。


その後、まだ灯りを発し続けている魔道具を手に、三人があちこちを調べて、隠し部屋がないかとか何か見落としていないかなどを確認してくれ、とくにシーフは隠し部屋や隠し通路を見つける能力に長けているので、そのシーフのリュシーさんをもってしても、何もない、ということになったので、僕らは帰還することにした。


僕はアランさんに支えられ、ギーさんはマルセルさんを小脇にかかえるようにし、リュシーさんがオルガさんを支えて…。

僕らは一斉に帰還の陣に足を踏み入れた。


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