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カミーユとロザリーの話  作者: 十月猫熊
第1章 ロザリーのお話
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帰りの馬車の中で、お父様とお兄様に今日の出来事を話したら、二人からの反応も、なんの対策も取らずにいきなり開けるとか、バカなの?という論調で。


ええ、知ってます、バカなんです。

勉強はできたけどね、考え無しなんですよ。はい。反省してます。


と、おとなしくしていたのに。


「やっぱりこんな考え無しを一人暮らしとか、心配でさせられん」


えー!どうしてそっちに飛び火?


「いや、お父様、私、もう明日から入居の契約だし!アンヌとクロードがもう荷物まとめてくれてるし!」


「いや、嫁入り前の娘の一人暮らしとか…」


「お父様、だから、私の結界術、知ってるでしょ?私が居ようが居まいが、私の家に誰も入れなくできるし、なんならお父様も入れなくできちゃうよ?それに、オーガより強い人間っている?私、前の討伐でオーガと一騎打ちして勝ったじゃない!」


私の新しい2つ名として、オーガキラー、というのが陰で囁かれているらしいのをカミーユが面白そうに教えてくれたのは、数か月前だ。


「うん、ロザリーのことを知ってるやつらは絶対に声なんかかけないだろうけどさ。お前ぱっと見と中身が全く一致しないからな」


「お兄様どういう意味よ」


「いや、アルセーヌの言う通り、お前は母のジゼルに似て、見た目は可愛い子猫ちゃんのようなのに、性格は誰に似たのかがさつだし凶暴だし。返り討ちに合ってひどい目に合うのは相手側なのは分かっているんだがね、やっつけてしまった相手が面倒くさい相手だったら困るっていう話だよ」


「うぐ……」


まさかの私の心配ではなくて、若い娘が夜道を歩いている、と、うっかり引っかかってしまった相手を心配していたとは…。


そして、脳裏に、いつぞやの夜会での出来事が思い起こされる。


デビュタントの年、私はヴィリエの黒髪金目をもっていないので、私がどこの誰かを知らない人も当然多くて。


デビュタントを示すリボンをつけていたから、デビュタントだと丸わかりだったし、小娘だとなめてかかって、私に不埒な真似を仕掛けてきたバカ男がいたのだ。


そして、あっさりと返り討ちにしてみたら…某侯爵家の三男坊だったのだ。


いや、確かにあの時はお父様にご迷惑をおかけした。

うちがヴィリエ家じゃなかったら、とんでもないことになっていたらしい。

この国にとって、ヴィリエはそれだけ重要らしいと学んだ出来事でもある。


「大丈夫よ、その辺りの加減ももう分かってるし、今なら眠らせて、その間に逃げるという知恵もあるわ」


それでもねえ、とため息をつくお父様に、私も私を信用してもらえないイライラが募って、うっかり口が滑った。


「私、結婚するつもりがないんだもの。どうせお兄様がお嫁さんを貰ったら家に居づらくて、一人で暮らし始めるはずよ、ほんの数年早まるだけじゃない!」


「え…」


馬車の中の空気がぴきっと固まった。


そしてお父様がぽろりと涙をこぼしながら、「どうしてそんな、結婚しない、だなんていう結論に達したのか教えてくれないか」、だの、お兄様は、「万が一お前がなかなか嫁がなかったとして、お前を居づらくさせるような嫁を選ぶような男に見えるのか、俺は…」だのと非常に面倒くさいことになって、口を滑らしたことを後悔したのだった。



まあ、なんだかんだ言って、お母様が私の一人暮らしを何事も経験だからやってみなさい、と応援してくれていたので。

最終的にはお母様に言いくるめられて、お父様は職場に提出する住居変更届にサインをしてくれた。


無事に美人事務担当マリアに、朝一番に再提出。

マリアのチェックも通ったし、今頃はアンヌとクロードとお母様が私の新居に私物を運び込んでくれているはず。


そして、私は今、昨日私の机で開いてしまったがために、そこで作業をせざるを得ない、あの本と向き合っている。


私とカミーユとジョルジュ先輩が同じチームで、どんな仕事の時もこの3人で一緒に取り組むのだけど、本来なら、このチームというものは、勤務年数の違う3人で組むものだ。


一番下の者にとっては上の二人は指導者であり、一番上の者にとっては後輩への指導、真ん中の者は上の者について学びつつ、下にも教える経験を積み、やがて一番上の者が抜けて、新たに新人が下に入って、…という制度だ。


だけど、学院首席と二番が二人そろって研究所の門をたたいた一昨年、生半可な者では指導に当たれない、ということで、私とカミーユは同じチームとなって、そこに指導係としてジョルジュ先輩がついたのだ。


そう、カミーユが腐れ縁だっていうのも、学院での成績が、私が一番、カミーユが二番、というのが五年間延々と続いたせいもある。

実習のときとか、実力が近い者同士で組まされることが多かったし。


ジョルジュ先輩は私達より8年先輩で、経験値もそれなりに積み重なっていて、普通ならチームを組んだりしない地位にいるはずなのに、心よく私達ひよこ二羽の世話係を引き受けてくれている。


今も、私の机と隣のカミーユの机までを物理防御結界で包んで、その中で更に私達に防呪結界などなどを施してくれている。


昨日の午後から、今と同じように結界で包み込んでもらいながら、私が本のページをめくっていっている。

とにかく、解読より先に、まずはまた罠のあるページがないかを先に確かめているのだ。


私がページをめくる係。カミーユが異変を察知したら対応する係、先輩は結界係だ。


表紙をめくったときは、開いたその場にいる人間を取り込もうとするものだったけど、周囲にまき散らす系が発動するかもしれないから、結界は私達を守るだけでなく、周囲の人を守るためでもある。


だから、本当なら小会議室を作業用に長期に借りて、そこでやるのだったんだって!

で、あのときジョルジュ先輩が席を外してたのも、その会議室を押さえに行ってくれてたんだって!


そんな恐ろしい本をほい、と軽く渡してくる所長ってどうなの?

その本の角で二回も頭をごっつんってしてくるのもおかしくない?

それでなんか発動してたらどうしてくれるつもり?


…とまあ、頭の中ではこっそり悪態をつきながらも、今日も朝から三人で息をつめながら、ひたすらページをめくっているところ、で。


爆発とかもあるかもしれないから、耐衝撃結界もあるわけで、そうすると、音っていうのも空気が揺れて伝わるものだから、私達ってフロアの中にいながらにして、みんなの声が聞こえてこないし私達の声も外に漏れない状態になっている。


あまりにも結界を多重にかけているせいで、うっすらとゆらゆらする膜につつまれているように見える私達って、はたから見るとやっぱり異様みたい。


何かの用事でこのフロアを訪れた人たちがみんな足を止めてぽかんと口を開けて、そのあと私達を指さして、近くの人に何か訊いてるから。


また私に変な二つ名がつきませんようにー。

もし何か新しい名がつくような場合は、私だけではなくて、先輩とカミーユにもお願いします。


それにしても疲れてきた、千ページ以上あるんだよね、さらに見たことない文字で書かれているのを解読しながらこれを読み解かなくちゃならないのに、まだ読む以前とかー、ううーきつい仕事だわー。

などとぶつぶつ言いながらめくっていると、カミーユに視線でたしなめられた。


私は魔力に任せてページを持ち上げては、ぱたん、とめくるだけだけど、カミーユと息を合わせてあげないと、何かあったときにカミーユに対応してもらえないから、ちょっと緊張感があるのよね。


300ページ目くらいで、いいかげん飽きてきて、もしかして何にもないんじゃないのかなーと思い始めたころ、ページをめくった途端に悪霊が飛び出してきた。

で、ぎゃわーって大声で叫んでしまった。

ほんと、びっくりしたのよ。怖いんじゃなくてびっくりの方。


精神耐性の高い私達三人は悪霊かあ、って眺めてからカミーユがぺいってあっさり浄化させたけど、普通だったらとりつかれてたかも。


で、カミーユから、私の叫び声に驚いて浄化が遅れたから、次からあんまり大声出さないで、との苦情をいただきました。


かわゆく、きゃっ、とかだったらよかったのかも。

だって、驚いたらどうしても叫んじゃう。

という訳で、次からは可愛く叫びます、と心に誓う。


とりあえず、悪霊のお陰でやっぱりところどころ仕込まれていることがわかったので、ああーうざーいこんなペースでいつ終わんのかなー、とまたぶつぶつ言い合いながら進めていくうちに。


このロザリーさん、さすがといいますか。

何かが仕込まれていたページをめくる経験、何度目かで、次のページに何か仕込まれているかどうかを、めくろうと触っただけで分かるようになったのでーす!


ええ、お陰様で、そこからは一気にスピードアップ。


結界の中に持ち込んでたお弁当を食べながら、結界で音が漏れないのをいいことに、私は所長の悪口を言って二人にたしなめられつつストレス解消をし、三時にも、カミーユが朝淹れてくれていたコーヒーと焼き菓子でおやつを食べて元気を回復。


そんな感じで終業時間は少し過ぎちゃったけど、罠のチェックと解除は終わったのでした!

やったー!

先輩が結界を解くと、あれ、世界ってこんなにうるさかったっけ、なんて思いましたわ。


魔力を使い続けていると、めっちゃお腹すくんだけど、一切お手洗いにはいきたくならないの。食べたものが、どういう理論かはっきりしてないらしいんだけど、消費されつくすらしい。

だからね、ご飯もおやつも大事だったのよ。


「あーお腹すいたー」

私が伸びをしながらいうと、背後から声がかかる。


「現世にもどった第一声がそれか。今日はご苦労だったな、見世物にもなってたし。ほら、これで飯でも食って帰れ」


所長の席って、私にとっては後ろだから、いつも気がつくと背後をとられるのよねー。

って、ええ?


「まさか?所長のポケットマネー??」

「俺が行くと気を遣うだろ、三人で行ってこい」

「お気遣いありがとうございます」


先輩が頭を下げたので、私とカミーユも一緒に頭を下げて、お礼をいう。


「それからお前は俺の悪口を言い過ぎだ」


最後にまた頭のてっぺんに拳骨をもらってしまった。暴力反対。


それにしても、聞こえてたの?そんなわけないのに…。所長、恐るべし。


「とりあえずこれで本の移動をさせても平気になったから。解読用に押さえてある会議室に本を移動させたら、今日はご飯食べて帰ろう。さすがに丸一日魔力使い続けるのはきつかったね」


「先輩はそうでしたよね、ほんとすみません。私もカミーユも、瞬発的なのだったから…」


「ああ、でも瞬発的だとしても、それを一日中はやっぱり疲れただろう?さあ、何を食べに行こうか?頂いたお金で間に合うところでもいいし、せっかくだから普段いけないようないい店で食べるのもありだよね?」


「はい!先輩!肉!肉がいいです!」


「カミーユは?」


「僕はなんでもいいです」


「今日から新居だから、時間気にしなくてもいいんですーだから、お酒もありです!」


「じゃあ、僕の知ってる店でいい?」


「先輩について行きますー」


帰りの馬車で、今日あったことの話をして家族の絆を深めるのも良かったけど、帰りの馬車を気にせずにお酒を飲んで帰れるなんて、なんか大人になった気分!


本を会議室に移して、誰かに触られないように念入りに結界をかけて、三人で帰り支度をして。

残業する人たちにはお先に失礼しますと元気に挨拶をして、私達は盛り場に繰り出した。



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