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カミーユとロザリーの話  作者: 十月猫熊
第1章 ロザリーのお話
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超絶美形のカミーユを眺めて目の保養をしながら、美味しいコーヒーを飲む。


「うん、カミーユはさ、もしこの仕事辞めたら喫茶店とか開くといいね。何淹れても美味しいし、カミーユ目当ての客が押し寄せそうだよね」

「は?なんで僕が仕事辞めないといけないの」


私が代わりに書いたものに不備はなかったようで、さらさらとサインを書き入れながら、ちらりとこっちを横目でみて口をとがらせる。


おおー可愛い。そんな顔も可愛いよ。シャルルほどではないけど。


「ロザリー、住所変更の書類に不備があったって」


不意に頭のてっぺんにバサリ、と紙束が載せられた。


「うそー!」


振り返るとジョルジュ先輩が大量の資料を片手に、反対の手に持った紙束を私に載せていた。

ジョルジュ先輩は中世的な顔立ちで、背中の中ほどまである茶色のゆったりとしたくせ毛を今日は三つ編みにしている。

そして、その華奢そうに見える体で、意外と力持ちで体力もある。

隣のカミーユが同じくひょろ長くて華奢で、見た目通り体力が無いのとは違う。


「家長のサインがないってさ」

「あー!そうだったぁ!」


フロアの遠いところに席のある、事務員のマリアが手を振ってよろしく、と口パクをしている。

美人なのをいいことに、私の席のそばに席のあるジョルジュ先輩を使いっ走らせるとはー…やるな、私も見習おう。

いや、私程度では無理か。


「ぐうー私としたことが…」


悔しがりながら、忘れないように書類を鞄にしまう。


かなり意外らしいけど、私はある部分においては完璧主義だ。書類に不備を出すなんて悔しい。

その完璧主義でもって、学生時代は首席を五年間キープしたわけだけどね。


「ほんと、珍しいね、どうしたの?」

カミーユは私の部分的な完璧主義を知ってるので、目を丸くしている。


「うん、お父様は私の一人暮らしを反対してるからね、サインして、ってお父様の書斎に行って、喧嘩しちゃって。あとで出直そうと思っていたら昨日はシャルルが来ちゃって」


「そっか、シャルルの前には全てが後回しだもんな」


「そうよ、私の睡眠より優先順位が高いのはシャルルだけよ。あー昨日も天使だったのよ、お昼ご飯の前に、庭に出てボールを…」


ごずっ、という音を立てて私の頭に何かがめり込んだ。


「いひゃい…」


カミーユは、さっと視線を机に戻して、書類に目を通し始める。


私が恐る恐る視線を後ろに向けると、所長が立っていて、私の手のひらよりも分厚い巨大な本の角を私の頭にめり込ませていた。


「お前は暇なのか?」

「いいえー決してそんなことは…」


涙目で自分の頭に苦手な回復魔法を施す。絶対ほっといたらたんこぶになる。


「ロザリー、カミーユ、これは、次の案件の重要なブツだ。ある一定以上の魔力持ちじゃないと開くこともできん上に、暗号もしくは未知の言語で書かれているらしい。ジョルジュと三人で1週間な」


「えええー!!!こんなに分厚いのに1週間ーーー?私引っ越しもあるのにぃ」

「引っ越しはプライベートだろうが」


ぎりぎり聞こえる声で、所長はやっぱり鬼畜だった、ひどい、横暴だ、とブツブツ言っていたら、聞こえるように言っていたから当然なんだけど、もう一回、頭に本の角攻撃をくらって、涙目になった。


「仕方ないな、予備日だったが、10日やろう。その解読が間に合うかどうかで今後の動き全てが変わってくるから、お前らが遅れたらどれだけ影響があるか、心しておけよ。詳しいことはジョルジュから聞け」

「ふぁい…」

「わかりました」


ところで、魔術研究所では、ファミリーネームでは呼び合わないことが多い。

親しいからとかじゃなくって、家柄を持ち込まないため、らしい。


魔力持ちってことは当然、全員が貴族なわけで、そして高位貴族から私の家みたいな末端貴族までが机を並べているわけで。そういうところで、変な家同士の力関係を持ち込ませないため、っていうこと。

でも、これは魔術学院でも同じだったので、慣れているし、楽でいい。


ちなみに隣のこの妖精さんのような同僚であるカミーユ君も、びっくりするほどの高位貴族様なんだよね。

いいよね、お金持ちって。着てる服も上等だし。


所長もいいとこのボンボンだったな、なんて思いながら見送って、もう一度苦手な回復魔法をかけた。


…今度はうまくいかなくて、あー失敗、と思っていたら、冷涼な魔力が流れ込んできた。

カミーユの回復魔法だ。


回復魔法にもタイプがいくつかあって、最終的には同じ効果が出るけど、そこに至るプロセスは違ったりする。

要は自分の魔力と相性のいい方法を選択すればいいということ。

だから、あったかくなる回復魔法の使い手もいるし、ふわふわした感じ、じりじりした感じ、かけてもらったときの感じは様々だ。


でも、カミーユみたいに冷涼な感覚を覚えるのは珍しい。


「ありがとー相変わらずめっちゃ気持ちいいね、知ってる限りではカミーユが一番気持ちいいよ」

「え……うん…」

はて?なんだろう、なんかカミーユが照れてる気がする。


私は攻撃が人より得意な代わりに治癒は本当に苦手で、討伐の時は散々暴れた後、同行した同僚に治癒をかけてもらうことが多いので、まぎれもない本心だったのだけど。

まあ、私も『あなたの火炎の威力は本当にすごいですね』とか言われたらきっと照れるだろうから、そんなもんかな。


ジョルジュ先輩がちょっと席を外しているらしく、姿が見えなかったので、私はとりあえず拷問器具かのように重たい本を膝に乗せたまま、取り掛かり中だった書類たちをやっつけた。


できた書類を早速カミーユに関係部署に届けてーと頼み、しかし美人事務員のマリアのようにタダで、とはいかず、今日の昼食をおごる羽目になった。

重い本を膝に乗せていて足がしびれていた私には、昼食代を払っても歩かずに済む方が魅力的に思えて、お願いすることにしたのだ。


カミーユを見送ってすぐ、重くてでかい本を机に載せて、革で装丁された表紙に手をかけた。



…しまった。


すぐにそう気が付いたけどもう遅い。


本の中に仕込まれていた罠と、私がとっさに反応した罠に抵抗する術が干渉し合い、さざ波のように空気が波立ち、全身の産毛が逆立つ。


このフロアにいる全員の視線を集めてしまっているだろうけど、正直それどころじゃない。


後ろで適当に一つに結わえていた髪の髪紐が解けてしまったのか、まるで水の中にでもいるかのように髪がふわふわと持ち上がっていく。


くっそう、負けるもんか。


表紙を開くのにあたり、そんなに大した封印ではなさそうだったので、簡単な開封を施してやると、すんなり表紙は開いた。


ところが、その開いた最初のページにとんでもない罠が仕掛けてあった。

知らずに開いた者をどこかに送り込んでしまう、魔法陣が展開されていたのだ。


とっさにそれに抵抗し、なおも私を本の中に取り込もうとする悪意しか感じない術式を即座に解読しながら術に抵抗を続ける。

こんなヒリヒリする展開は久しぶりだ。


まあ、私が油断してたからだけど。


ギリギリと奥歯を噛みしめ、冷や汗をだらだら流しながら力業でこの魔法陣の効力を無効とする魔法陣を空中に指で描き出す。


「っらあ!!!」

気合と共に叩きつけると、宙に浮いていた髪がふぁさ、と肩に落ちてきて、そしてフロア中の人達が、ふう、と一斉に息を吐いた。


フロア中にかなりの圧をかけてしまっていたのだから、申し訳ない。きっと、全身の毛がちりちりとして、肌がぞわぞわしていたはずだ。


「あー、皆さん、すみませーん」

まだ足がしびれていたので座ったまんまだったけど、お騒がせをしたので四方八方にぺこぺこと頭を下げる。


いつの間にか戻ってきていたらしいジョルジュ先輩が大慌てで来てくれて、私の目を覗き込んだり、異常がないかを確認してくれた。

自分では異常に気が付かないこともあるからだ。


そんな私を、所長が所長の席から呆れた目で見てくる。

アホが、とその顔が言っている。


うう、悔しいけど、全くその通りなのでちょっとしょぼん、とする。


「うん、大丈夫そうだ。全く、たまたまうまく行ったけど、まさか僕たちに声をかけずにいきなり開くとは思わなかったよ。次のページ以降を開くのはカミーユと僕と3人で頼むよ」

ジョルジュ先輩が、珍しく叱責口調だ。


「はい、すみません」

「ほんとに危なかったの、分かってるの?!」

「分かってますうー」


私がさっき失敗して本の中に取り込まれていたら、先輩は始末書ものだったのに、私の心配の方が先に立つとは、相変わらずなんといい人だ。


取り込まれた先が、どんな場所かは、さっきの陣では全く分からない。

活火山の火口の中だったかもしれないし、マジックバッグの要領で完全に異空間かもしれないし、深海の海中かもしれなかった。


いや、まあ私に言わせると、もし取り込まれて、そういうとんでもないところに入り込んだとしても、私は自分だけならしばらくはもちこたえられる。

で、所長とかが助けに来てくれるのを待てばよかった。


むしろ先輩とかも一緒だったら、さっきの余裕のなさから行くと、自分以外までとっさに守ることは出来なかったから、先輩やカミーユは多分とりこまれちゃってただろう。


一緒だったら先輩やカミーユが危なかったと思うんですよ。…と内心思ってても、黙っておく。


「こういう何があるか分からないものに対峙するときは、こっちはまず万全の防御結界を張って、準備万端整えてからにするんだよ。あんな、術に抵抗しながら無効化するなんて力業、普通の人は出来ないし、今だってかなり綱渡りだったでしょう?安全な結界の中から、対処するほうがどれだけ楽かわかるでしょ?」


「は………はい、そうですね…」


そ、そうか!

確かにそれだったらカミーユも先輩も危なくなかった。

いやー、私、危なかったぁ!


「うん、分かってくれたみたいだね。僕はロザリーより能力は劣っているけどね、あと数年は僕が教えてあげられることはたくさんあると思うよ」

「はい、先輩のことは尊敬してますから。今後もよろしくご指導ください」


普段思っているけど口にはしなかったことをふと口にしたら、先輩は一瞬きょとんとして。

それから顔を赤くした。


「ヴィリエの先祖返りに尊敬とか…まあ本当にあと数年で君は僕をあっという間に追い越していってしまうだろうけどね」

前半が聞き取りにくかったけど、とりあえず曖昧に笑っておいた。


そして、別のフロアに書類を届けに行ってくれていたカミーユが戻ってきて、「2階階下でも、すごい圧だった」と報告してくれて、「他のフロアまではごめんなさいしに行かなくても、私だとバレないよね」と顔を青くして言うと、「あ、バレてたよ、だってロザリーの魔力だと丸わかりだったから」と言われて落ち込んだ。


「まあ、また小リスの皮をかぶったドラゴンだの小ウサギ風魔人だのって言われるだけだから気にしないで」

そう言ってカミーユも私の頭をポンポンする。


いや、気にするし!

そして皆、私の背が低いからって、頭ばっかり攻撃してきて失礼じゃない?



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