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いずれ神に至る物語  作者: eyun
第一章:プロローグ
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異常な9歳児と新たな家族

帝歴345年12月1日


 ケイは9歳になった。

 ケイは変わらず森で修行している。

 変わったことは、『葬送流剣術』を修行しているところだ。

 秘伝書を遺跡で見つけてから2年、常に型の練習を行い、いくつか型を覚えることができた。

 たった2年で習得するとは、ケイの武術の才能が際立っている。

 ケイは常に努力している。

 同年代で、これだけ剣術のために、常日頃から死線に自身を投じているものはいないのではないか、と思われるほどだ。

 しかし、他の者たちは知らないのだ。

 だから、村の大人たちからは、いつも森で遊び呆けている愚か者なんて思われていた。

 まぁケイはそんなこと、一切気にしておらず、森で修行していた。


 ケイの家族も、ケイがそのような修行を行っているとは、考えていなかった。

 それは何故か。

 ケイがいつも手ぶらで森に入っていき、帰って来ても、服に切り傷はあれど、生身の方は無傷だからだ。

 これには訳がある。

 ケイが、ヴェインが手切れ金の如く買い与えた真剣はとっくに街で売り払い、戦闘では誰にも見せていない妖刀黒桜(こくおう)を使っているからだ。

 そのため、ケイの家族も、剣を使わずに森で修行なんて考えられないのだ。

 ケイに魔術の才能があれば、森で魔術を使って修行していると思われた可能性もあるが、ケイに魔術の才能がないことは家族の皆が知っている。

 なんせ、ケイに魔術を教えたのが、母のカペラだからだ。

 カペラも『冒険者』だ。

 以前は子育てのためにお休み中だったが、この頃は、子供たちが大きくなり子育ても少し楽になったので、たまに『冒険者』業に戻っていることがある。

 そんなカペラ直々に才能無しと言われたのだ。

 ケイ自身も才能が無いことは理解しているので、必要な魔術のみを集中的に鍛えている。

 それがケイがいつも無傷で帰ってくる理由だ。

 ケイは怪我を負ったときはいつも、これ幸いと『治癒(ヒール)』を使い、傷を治すと同時に『治癒』の魔術を鍛えていたのだ。

 ケイが覚えている魔術は少ないが、すべて必要なものだ。

 だから鍛えるのに余念が無い。

 無傷になるまで、何度でも『治癒』を使うため、結果無傷になるというわけだ。

 まぁ致命傷になるほどの傷を負えば、流石にケイの『治癒』では治しきれないので、この森での修行では、致命傷を負うほどの危険は犯していない。

 というよりも、ケイが以前より断然強くなっており、この森に出没する低級の魔物ではもはや相手にならないのだ。

 たまに現れる中級の魔物も、致命傷を負うほどの傷を受けることなく片付けれるようになっている。

 その歳では異常なほど強い。


 そんなケイだが、遊び呆けていると思われているがゆえに、家族から嘗められていた。

 特に妹のカナリアとカルナはひどいものだ。

 今までは「ケイお兄ちゃん」と可愛らしく呼んでいたのに、いつの間にか「ケイ」と冷たく呼び捨てるようになり、よく軽蔑した目を向けてくる。

 全く兄に向けて良い目ではない。


 そんな兄を嘗めくさっている双子の妹たちが、今日で8歳になった。

 両親から2人への誕生日プレゼントは、魔術の講師だった。

 前々からカナリアとカルナには武術より魔術の才能があった。

 なのでカペラが2人に魔術を教えていたのだが、カペラが教えるのには限界があったのだ。

 カペラはそれなりに優れた魔術師である。

 しかし、優れた魔術師が皆、優れた教師になれるわけではなかった。

 そのため、誕生日に講師を呼んだのだった。


「ありがとう、お父さん、お母さん」

「ありがとうございます、お父様、お母様」


 2人が対照的な口調で両親にお礼を言っていた。

 丁寧語ではないほうがカナリアだ。

 彼女は金髪、紅眼の活発な女子だ。

 実に短髪が似合っている。

 そして、丁寧語の方がカルナだ。

 彼女もカナリア同様に、金髪、紅眼であり、カナリアと違うのは長髪で、おとなしめの女子である点だ。

 カナリアはよく外で友達たちと遊んでいるが、カルナはよく書庫で、ケイと同様に本を読んでいる。

 その性格の違いからか、カナリアとカルナはあまり仲が良いわけではない。

 カルナがカナリアに対しあるコンプレックスを抱いているのも原因だ。

 せっかくの双子なのだから仲良くすれば良いのに、と見下されてる兄は思っていた。

 そんなわけで、今日は修行をお休みしていたケイも含めて、朝から家族で講師を迎えた。


「はじめまして。私はフェリル=スイハルメです。『学院』を卒業してから『冒険者』をしています。今日からよろしくお願いたします」


 そう茶髪で長髪で碧眼の美人が挨拶をしてきた。

 少し抜けていそうな、ちょっと間抜けな顔が可愛らしくもある。

 この村に勿体ないぐらいの美人である。

 さて、そんな美人が今日からドラジェイル家に住み込みで魔術の講師をする予定だ。

 もう一度言うが住み込みである。

 そんな美人に対し、女癖の悪いヴェインが我慢できるのだろうか。

 ケイはちらりと、一番後ろに立つヴェインを覗き見ると、案の定鼻の下を伸ばしていた。

 ヴェインは今でも多くの女性と関係を持っている。

 何故こんな男がモテるのか疑問だったが、よくよく考えれば、ヴェインは顔はイケメンだし、『冒険者』としてそこそこ有名で武力もあり、ラッセル村の村長として、ある程度の身分もあり、『冒険者』と村長という立場のためお金ある。

 結構な優良物件だ。

 最悪なのは女癖の悪さぐらいだ。

 しかし、その女癖の悪さも隠しているので、ヴェインの表面的な人間性だけで女たちはヴェインを評価してしまうのだ。

 

(はぁ、この家の中でフェリルとそんな関係にならないことを切に願うとするか。でも、今のヴェインの顔の見る限りむりそうだなぁ。俺がこの家からおさらばするまでは大人しくしていてほしいものだ)


 ケイはそう思った。


「ようこそいらっしゃいました、フェリルさん。私はカペラ。こっちが夫のヴェインで、そっちが息子のケイ。そしてそこの双子が、これからあなたに指導をお願いするカナリアとカルナよ。よろしく頼むわ。私には、教えるのには限界があったの」

「よろしくな、フェリル。紹介にあったようにヴェインだ。2人を頼むな」

「はい、任せてください。これでも『学院』では成績は良い方でした。2人を完璧な魔術師にしてみせます!」


 ヴェインとカペラの言葉に、フェリルが両手を持っている激しく動かして、笑顔で答えている。

 なかなか元気の良い娘さんのようだ、なんて爺臭いことをケイは思った。

 その上、フェリルが両手を動かす度に、彼女の大きな胸が連動して動くのだ。

 ヴェインの目はそこに固定されていた。

 かなり無防備だ。

 そんなんで『冒険者』が勤まるのか疑問だ。

 ちなみに『学院』とはこの帝国の帝都にいくつかある武術と魔術を習い訓練する学校のことだ。

 『学院』に行けるのは、才能がある僅かな人だけだ。

 両親たちは、その『学院』にカナリアとカルナを入学させたいと思い、優秀な魔術師であるフェリルを講師として雇ったという背景もある。

 ちなみにケイは『学院』云々の話は全くされていない。

 ケイを『学院』に入学させるという選択肢は初めから無いようだ。

 今回の講師にもケイに魔術を教えるようには一切頼んでいなかった。

 相変わらずのケイへのネグレクトと双子への依怙贔屓である。

 ケイが一般的な子供なら不満に思うか、親の冷たさを悲しんでいたかもしれない。

 しかし、ケイは例外的な子供なので、全く気にしておらず、早くこの紹介も終わんねぇかなと思っていた。


「よろしくお願いします、フェリルさん!私はカナリア!好きなことは、魔術と外で遊ぶことです!」

「私はカナリアの双子の妹のカルナです。本を読むことと魔術が好きなので、どうぞ御指南よろしくお願いたします」

「はい!2人ともよろしくね」


 最後にケイが挨拶する番になった。

 両親と双子からは、さっさと済ませろと言わんばかりに冷たい目で見られたが、ケイは動じずに挨拶した。

 

「俺はケイ。双子のような魔術の才能もないし、森で遊び呆けているから関わることはないけど、よろしくお願いしますよ。あと、部屋に案内するからついてきてください」


 そうぶっきらぼうに言ってフェリルの返答を聞く前に歩き出した。

 こんな所に家族と一緒にいたくなかったし、せっかくの休暇を全力で楽しみたかったのだ。


「おっ、おい待て、ケイ!何だその態度は!フェリルに無礼だろう!謝れ!」


 久しぶりにヴェインがケイに口をきいたと思えば、そんな説教じみたことだった。

 ケイは面倒くさそうにヴェインの方を向き、呆れたように口を開いた。


「あのね、父さん。俺はさっさと書庫で本を読みたいんだよ。こんなところで時間取られたくないの。わかる?それにカナリアやカルナにも早く修行を付けてあげたいんでしょ。なら、さっさと部屋に案内してあげればいいじゃん。何か問題でも?」

「お前!それが父親に対する態度か!?」

「いやぁ今さら父親と言われても。父親ぶりたいなら、相応の態度を俺に見せるこったな。じゃあフェリルさん。改めてついてきて」

「はっ、はい」


 ケイとヴェインの会話に呆気にとられていたフェリルが慌てて言葉を発した。


「じゃ、じゃあ、部屋に荷物を置いたら、カナリアちゃんとカルナちゃんに早速魔術の修行をつけるね。外で待ってて!」

 

 それだけ言い残すと、先に進んでいるケイに小走りで追い付いていく。

 ケイとフェリルがいなくなった玄関では、ヴェインが青筋を立て怒っていた。


「くっそ、なんなんだ。俺を嘗めやがって!」

「まぁまぁ落ち着いて、ヴェイン。ケイのことはほっとけって、あなたが言っていたんじゃない。そんなあなたが怒ってどうするのよ。ほらほら気にしない」

「そうだよ、お父さん。ケイのことはいいから。一緒に外で待ってよ」

「そうですよ。そうせケイは書庫にこもって当分出てきません。そんな人のこと気にしないで、もっと私たちに構ってください」

「おぉごめんよ、超絶かわいい娘たちよ。あんなくそ生意気なガキはどうでもいいな!さてカペラも一緒に外で待っていよう」

「そうね、行きましょう」


 ケイがいなくなった途端言いたい放題である。

 ヴェインはケイへの嫉妬に狂い、カペラはヴェインの言うことに絶対順守。

 カナリアとカルナは、ケイの才能に全く気付かず、自分たちの方が優れていると思いケイを見下すのみ。

 まさに愚かな家族だ。




「ここがフェリルさんの部屋。部屋は自由に使っていいですよ。あとわかんないことがあったら、俺以外に聞いてくださいな。じゃあ、後は頑張って」


 ケイがそそくさと離れようとしたところ、フェリルに呼び止められた。


「待って!ケイ君って家族と仲悪いの?」

 

 なんて単純なことを聞いてくるんだろう。


「仲は悪いですよ。というよりは俺以外が俺を見下しているから、仲良くなるなんてあり得ないんですよ」


 肩を竦めながらケイが答えると、仲が悪いことはわかったがまさかそんな答えが返ってくると思わなかったのか、フェリルが驚愕した顔で固まっている。


「何吃驚してるんですか?別に他の家族のことなんだし、フェリルさんが気にすることじゃないですよ」

「そうは言っても…かわいそうな子のことは放っておけないよ」

「かわいそう?はは、俺がかわいそうってか。面白いね、フェリルさん」


 ケイが面白いそうに笑うと、フェリルはまた驚愕した顔で固まった。


「そんな家族関係、悲しくないの?私だったら悲しいよ」

「悲しいわけないですよ。だって俺、あいつらのこと、全く興味無いですから。俺をどう思っていようと、心は揺るがない」

「…」


 フェリルは言葉を失っていた。


(ケイ君、君普通じゃないよ。まだ9歳でしょ。そんな子供がそんな達観してるなんておかしいよ。まだまだ親に甘えたい年頃なのに、ケイ君はそんなこと一切思ってない。普通の子供じゃない。異常だよ)


 フェリルはケイの言動に不気味さを感じた。

 強がりで言っているだけなら、慰め力になってあげようとしただろうが、ケイは全く強がってない。

 むしろケイは興味無いと言い捨てた。

 それはきっと心からの言葉であり、本当に興味が無いんだろうと、ケイの光を通さないほど暗い目がフェリルにそう感じさせた。

 大人すぎるその態度に少し恐れを感じる。

 ケイはそんなフェリルの感情を『眼』で理解していた。

 

(あらら、フェリルに引かれちゃった。まぁどうでも良いが。それよりもフェリルはお節介が過ぎるな。他者の家族間に踏み込んでくるとは。優しいのは美徳だが、優しすぎるのは逆に毒になりかねない。そこに漬け込まれなければいいけどね。やっぱり、よく『冒険者』が勤まるね)


 ケイはそんなことを思いながら、フェリルに一言別れを告げ、自身の部屋に戻った。

 こうして住人が一人増えたのだった。

 危険な火種を残しつつ…

 



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