異常な7歳児と運命の出会いと再会
帝歴343年9月15日
「はぁあああ、何とか生き残ったな。流石に死んだかと思ったぞ…」
城の結界に飛び込んだケイは、何とか『龍の咆哮』から生き残ることができた。
ケイはまた地龍がケイを攻撃してくるんじゃないかと警戒していたが、あの『龍の咆哮』を放っただけで攻撃は終わった。
地龍が一度こちらを見て、いきなり地面を掘って潜ってしまったのだ。
何かの攻撃準備かと思ったが、いつになっても攻撃されなかった。
どうやら地面に帰ったようだ。
結局疑問を残したまま、初めての地龍の遭遇は終わりを迎えた。
何故ケイの『識色眼』で地龍を見つけられなかったのか。
何故地龍はケイを攻撃してきたのか。
そして何故あれほど憎悪で濁った目で、ケイを睨んできたのか。
わからないことだらけだ。
「まぁ、生き残っただけ儲けもんだ。普通なら絶対死んでるもんな」
呼吸を整えてから、自身の脚に『治癒』を使い治していった。
全力を出したため、魔力もすっからかんで『治癒』も上手く発動できずに困った。
しばらく時間もたち、十分動けるほど体力と魔力が回復したので、改めて現状を整理する。
これから今ケイの目の前にある巨大な白亜の城を探索する。
しかし時間をかけられない。
何故かと言うと、食料がないからだ。
もともとリュックに入れて持ってきた食料等は、地龍から逃げるうえで邪魔になるので、最初から置いてきたのだ。
例え、今からそのリュックを取りに行っても、多分『龍の咆哮』の余波でどっかに飛んでいっているだろう。
その上、もう一度地龍に攻撃されるかも知れない。
今度こそ100%死ぬ。
まぁそんなこと言ったら、この城から帰る時もどうしようって話だが…
「そんな場合を考えても仕方がないな。とりあえず、辛い現実から逃亡して、このの探索を始めよう」
城の巨大な正門から内部に入ろうと考えるが、あんな巨大な門開けられるか、と疑問に思ったが、立ち止まっていても意味ないので、とりあえず門まで向かってみることにした。
門は白亜の城と同様に真っ白であるが、壮大な彫刻がされており、厳かな雰囲気を醸し出している。
「この門、俺の力じゃ、いくら強化しても開けられそうにないぞ。どうしたものか…」
ケイが途方にくれていると、腰に挿していた黒桜がいきなり門の中央付近の空中に瞬間移動した。
何事かとケイが目を見張っていると、いきなり黒桜からどす黒い妖気が溢れだした。
その妖気が門に触れた瞬間、門の装飾が黒に染まり、白と黒の絶妙なコントラストを描いた。
まさに芸術的な門が徐々に開いていく。
「えーと…黒桜がこの門の鍵だったの?さっぱりわからんが、進めってことか」
ケイも突然のことで戸惑っていたが、いつの間にか腰に戻っている黒桜が、前に進めと言わんばかりに妖気をぶつけて来るので、警戒しながら城に入っていった。
城の中は外見同様に、いやそれ以上に芸術的だった。
真っ赤なカーペットがひかれ、天井には美しい絵画が描かれている。
壁には自身のひけらかさないほどの淡い青色や緑色が使われており、天井からのシャンデリアは黄金に輝いていた。
今までの殺風景な住居とは違い、ここは様々な一級品の家具やインテリアが、計画的に配置されている。
そのまま城の内部を探索してみる。
全体的に美しい。芸術に疎く、興味のないケイですらそう思った。
しかし、家具やインテリアが埃1つなく、人がいた痕跡が全くない。
まるで芸術作品としてこの城を作ったかのようだ。
宝の1つでもあるなら面白いが、全くある気配がしない。
数時間この城を探索したが、結局何もなかった。
最後にこの王の間が残った。
この空間に入るための扉は、どこよりも贅が尽くされており、いっそう美しかった。
意を決して扉を開けた。
すると、黄金と白銀に輝いた部屋が目に飛び込んできた。
そしてその中央には真っ黒なのにまるで輝いていたいるようにも見える玉座があった。
しかし、ケイが目を奪われたのは全く違うものだった。
「何で玉座の上に本で浮いているんだ?」
本はまるで重力を感じさせずに、宙を舞っている。
ケイは真っ先にその本を手に取ろうと、玉座に近づいていく。
すると本の方からケイの手元にやって来た。
その本は表紙は黒いカバーがされ黄金で文字が書かれていた。
その本を手に取ったとき、ケイは言葉にできないほどの懐かしさと哀愁で胸がいっぱいになった。
黒桜は嬉しそうに自身を震わせ、妖気を発していた。
ケイはその感情を振り払い、改めて表紙の文字を読んでみる。
「『葬送流剣術の秘伝書』。秘伝書!?」
秘伝書とは各流派の真髄と呼ばれる型がすべて記述されているものだ。
そのため秘伝書は門外不出で、その著者により魔術で封印がかけられるのが一般的だ。
秘伝書は選ばれたものしか開くことがないようにされているのだ。
その秘伝書がケイの手元にある。
その事にケイは驚愕してしまう。
そして、ケイは問題なく秘伝書を開いて、中身を読めてしまう。
「『葬送流剣術』なんて、聞いたこともない。でも、なんだろう。どうしてもこの剣術を覚えたいな…。ん?何だ手紙が入ってるぞ」
ケイが秘伝書を開いていくと、途中に手紙が挟まっていた。
宛先すら書かれていないものだったが、ケイは開き、読んでみた。
「これを読んでみたいるということは、『葬送流剣術』に適性があるということだ。『葬送流剣術』は他の剣術と違い、方向性が定まっておらず、いっそう難しいそうだ。まぁ私が作った流派だから、全くわからんが。私はこの剣術が大好きだ。この剣術で数多の強者と渡り合い、時には負け、時には共に切磋琢磨し、剣の道を極めんとした。この手紙を書き終わった後、私が武術の頂点に上り詰めたかどうかはわからないが、この手紙を読む君がいずれ頂きに至ることを望む。
ある名も無き剣士より未来ある君へ」
「結局名前が出てこなかったな。でもいいぜ。この剣術で武の頂きにたってやるよ。あんたが成し遂げたかどうかはわからんが、俺がその意思を継ぐ」
ケイはもともと『武神』に成りたいとは思っていたが、それは成れたらいいなと思う程度で、本格的な興味はなかった。
しかし、こうしてケイが秘伝書を手にいれ、この剣術を覚えたいと思い、そしてその著者から未来を託されたからには、その期待に応えたい。
何事にも興味のないケイが、心の底からそう思ったのだ。
「ならまずは、ここから生きて出ることが、頂きへの一歩目だな。むしろ0歩目か。それが難しい」
そうケイが思っていると、いきなり城全体が光だした。
城だけに収まらず、街そのものが光っている。
「何だ!?また何か出てくんのかよ」
ケイが警戒し、周りを見渡していると、いきなり輝きが強くなり、思わず目を閉じてしまう。
そして光が収まり、目を開けると、何もなかった。
自身がいた城も、地龍に追われた街も、周りにあるのは、広大な大地のみだった。
森が途切れ、存在する大きな広場の様相をしているだけだった。
「俺は夢でも見てたのか?」
しかし、ケイの手には秘伝書があり、その秘伝書がケイに夢ではなかったと教えてくれる。
「すべてなくなったってことは、多分地龍もいなくなったんだろ。結果として助かったが、何か釈然としない…」
ケイはそう思ったが、何はともあれ、生き残れたので、今日はもう帰ることにした。
持ってきた荷物も一緒に消滅してしまって、食べるものにも困ったのだ。
もう時間は夕飯時を過ぎているが、今から帰れば、朝方には帰れる。
明日はじっくり寝て、明後日からこの剣術を始めよう。
ケイは急いで家を目指した。