第7話 悪意に満ちた下劣な罠。
「い…いったい何の冗談ですか?」
私が…犯罪者?それにサディ=インモラルシス殿下って…サディのこと?殿下って確か王族のことだよね?それだけならまだわかる。
だけど…騙して命を奪おうとした?
意味が分からない…。
私の脳内は困惑と疑念で塗りつぶされる。
「おい!何をしている!早くこいつを捕らえろ!」
豪華な鎧を着た騎士が大声で怒鳴る。
周りの騎士たちが私を押さえつけて手錠をかける。
…これは冗談じゃない…彼らは本気だ!本気で私を連行しようとしている!
「や…やめてください!」
私は身をよじり抵抗する。
「抵抗するな!!!」
豪華な騎士が舌打ちをして、私の顔を思いっきりビンタする。
あまりにも強い衝撃で私は倒れた。
ツーーと唇から血が零れる。
豪華な騎士の暴行はそれだけに止まらず、倒れる私に蹴りを入れる。
「がは…。…い…痛い!痛い!や…やめてください!」
私は悲鳴をあげる。
やめて欲しいと懸命に抗議した。
だけど、豪華な騎士は蹴るのをやめない。
「オラァ!!」
豪華な騎士が思いっきり蹴り飛ばす。
「うあ………う…」
吹き飛ばされた私は呻く。
「……痛い…体中が…痛い!」
口の中が血の味がする。
豪華な騎士がズカズカと大きな足取りで近づいてくる。
豪華な騎士の姿と振る舞いが、かつて私に虐待をし続けた父と重なる。
トラウマが…かつての自分が受けた……恐怖がよみがえる。
「やえ…やえて……い…うこ…と聞くから…。」
痛みと苦痛に耐えきれず私は抵抗をやめる。
「ふん。やっとおとなしくなったか。手こずらせやがって……よし…こいつを檻に入れろ!」
豪華な騎士が毒づき、他の騎士たちに命令する。
「「「「はっ!」」」」
騎士たちが私を乱暴に檻まで引き連れる。
「さあ…早く入れ。」
刺々しい鎧を着た騎士達がが檻の扉を開け、私の背中を粗雑に押し込んだ。
「…はい。」
私は素直に檻の中に入った。
……入るしか道は無かった。
「副騎士団長殿!…只今ミカの拘束が完了しました!」
騎士の一人が豪華な騎士に報告をする。
「よし。では次の命令だ!お前も檻に入って奴を見張れ!」
「はっ!」
豪華な騎士の…騎士団長の命令を受けその騎士は檻の中に入った。
……また殴られる!
「ひ…」
私は悲鳴を上げ、距離を取る為に後ろに下がる。
「安心しろ。危害は加えない。」
小柄な騎士はそう言って床に座った。
「只今より、王都へ帰還する!」
騎士団長の声が聞こえると同時に、馬の鳴き声がして景色が横にスクロールする。
………………。
…………………………。
………檻に入れられてから数分後。
私はだいぶ落ち着いて、今の状況を頭の中で整理する。
なんで私が檻に入っているのか?…犯罪を犯したから?
では、どんな犯罪か?…サディとダストを騙して、殺そうとした?
私は…2人にそんなことをした?………いや、そんなことはしていない!断言できる。
じゃあ何で私は捕まった?…わからない。
…もしかして………2人が…私を裏切った?
…………。
……いや…違う。絶対に違う!だって…2人は私の仲間だ!
2人は、1人じゃ何もできない私の仲間になってくれた。
何もわからない私にいろいろと教えてくれた。パーティにもなった。
私達には信頼がある。だから…2人が裏切るなんて…絶対にない!
そう…信じないと…私は…………私は何を信じればいいの?
「……。」
騎士が私のことを見ている。
ジーと見られるのは好きじゃないけど…騎士の眼が違う。
私を陥れるときのあの目とは違う。…まるで私のことを見定めるかのような…。
なんにせよ、見られる理由が知りたい。私は騎士と会話を試みた。
「あの…何で私のことを見るんですか?」
「…すまない。お前の姿が奇抜で少し気になっただけだ。」
「あ、そうだったんですか…」
「…ああ。」
会話ができる事に一瞬の安堵を覚えた。
…私は呼吸を整え、ある質問をする。
「あの…何で私は捕まったんですか?」
「………。…お前は……嵌められた……。俺は命令されたから、従ったまでだ。」
騎士は耳を澄まさなければ聞こえない程小さく、そして…憐みを含ませたような声音で呟いた。
「……嵌められた?私が?…い……いったい誰に…。」
私は考える。
誰がどんな理由で私を嵌めたのか…。
ぐるぐると頭の中にある記憶をかき混ぜるように思い出す。
私と出会った人物。そして…私が嵌められる要因。
……。一つ……候補がある。
ダストとサディが私を嵌めた。
正直なところこれが一番有力で現実的、……辻褄も合う。
だけど…これはあくまで私の予想、決してこうとは限らない。
それに、騎士団長は2人は王族的な人だという内容の言葉を言っていた。
王族がそんなことをして何のメリットがある?…無い。
……そうであって欲しい。だって私は…2人を信頼している。
…こんな目にあった今でも…私は信頼できる程、私は2人に感謝しているから…。
「おい…着いたぞ。」
私を見張っていた騎士が私に声をかける。
「着いたって…いったいどこにですか?」
私は外を見る。
何か建物が見える。石造りの教会のような大きな建物だ。
大きな門の前に鎧を着た騎士達が、きれいに整列している。
「[インモラルシス王国最高裁判所]だ。ついてこい。」
「イ…インモラルシス…王国最高裁判所?」
とても名前が長い場所だ。
裁判所ということは、私は裁判にかけられるのか。
裁判なんて初めて受けるから、不安だ。
でもこれはチャンスだ!…ここで私の無実を証明出来る。
それが出来なければ私は本当に犯罪者になってしまう。
そうなったら私はどうなってしまうのだろうか?処刑されてしまうのだろうか?
………負けて……負けてたまるものか!!
私は決心して檻から出る。
ここで無実を証明できた暁には、私を嵌めた黒幕と騎士団長に罪を償ってもらう。
そして…また3人で冒険の続きをしよう!
2人が王族的な人だったことには驚いたけど、そんなの関係ない!
「……よし!」
私は意気込んで1歩、また1歩と踏み出して進んだ。
ギゴゴゴゴゴゴゴゴと門が重々しく憂鬱な音を立てて開かれる。
法廷は全体的に暗く、恐ろしいまでに静寂に包まれている。
「…!」
私は固唾を呑んだ。
手で小さく拳を作りざわつく心を無理やり抑え込む。
そして…陰鬱とした法廷に足を踏み入れる。
…………これから、私の命運を賭けた戦いが始まる。