第6話 はじめての集団戦!!私だけ苦戦。…………え。
「ふああ…。寝みいな…。」
湿った土道を踏み鳴らしながら、ダストがあくびをして頭をポリポリと掻く。
「しっかりしてよね。私達が今どこにいるのか、わかっているの?」
「ああ!わかっているぜ!俺達は今、森の中だろ。」
そうダストが得意げな顔で言った。…ドヤァって擬音が聞こえてきそう。
「それくらい…周りを見れば誰でもわかりますよ。」
「はは。そうだな…」
そう。私達は今、森の中にいる。その経緯を思い出す。
…行水場を出た私とサディはダストを起こして、朝食を食べて……そうだ。
その時にダストが[暗黒樹海]と呼ばれる場所にあるダンジョンを攻略するって言っていた。
その後は…城下町を出てから結構な時間歩いて、私達は[暗黒樹海]に入った。
「それにしてもこの森…とても不気味ですね。」
私は周りを見渡しながら呟いた。
目に映るのは怪物のように不気味な黒っぽい樹木、怪しい色の草花と歪な形をしたキノコ、ごつごつした岩の塊の群生だ。
そして極めつけは、大量のモンスターの影だ。
…あのモンスター達はまだ私たちに気付いていないらしくふらふらと動き回っている。
「…何かいます。警戒したほうがいいですか?」
ダストがジーっとモンスター達を睨む。
「≪マージバイトボール≫と≪イビルトレント≫か…数が多いうえにレベルも高いな…」
「どうしますか?ダストさん。」
「ん~。そうだな。…俺が突っ込んでモンスターを倒す。サディと君は後方から魔法で支援を頼む。」
「わかったわ。」
「わかりました。」
ダストから指示を受けたサディと私は、迅速に戦闘態勢になる。
私はポーチから【MP増加の腕輪】を取り出し、ほっそりとした腕と手の間にはめ込む。
「-!」
装備した瞬間、頭がすっきりした。
私はアイコンに目を向ける。
【ミカ Lv3】
HP 5040/5040
MP 60/60
ちゃんと増えている…。
効果があるモノをくれたアンリに感謝の念が込み上がった。
「準備できました。」
「こっちもできたわ。」
「そうか!……よし!」
ダストは鞘から剣を取り出し、地面を蹴るように走る。
…早い!数十メートルもあるモンスター達との距離をあっという間に縮める。
「グルアアアアアア!!!!!」
ダストに一番近いイビルトレントが雄たけびを上げる。
見た目は周りに生えている黒い樹木の切り株で、絵本とかによく出て来るお化けのようなメルヘンで凶悪な顔を持っている。
イビルトレントはその凶悪な口を大きく開け、嚙みつこうとする。
「おりゃ!」
ダストは力いっぱい剣を突き出し、イビルトレントを貫く。
「ガアアアア!!!!」
だが…イビルトレントは、絶命することなく鋭い爪を持った腕で掴みかかろうとする。
ダストの頭に触れようとした、その瞬間!
「グポアアア?!!??」
イビルトレントが妙な声を上げ、ボロボロの木片になる。
「グア?!」
「え?」
周りにいるモンスターと私は驚愕の声を上げる。
ただ、サディは特に驚いた様子を見せずに「ああ…なるほどね。」と呟いた。
「えっと…何が起こったのですか?」
よくわからなかったので、私はサディに聞いてみた。
「ダスト君は属性ダメージを与えたのよ。」
「…と言いますと?」
「あの剣は銀製…銀製の武器は悪魔やアンデットに対して強力なダメージを与えることができるのよ。…イビルトレントは老いた樹に悪霊が憑きモンスター化したモノ…つまりアンデットよ。」
「なるほど。だから銀が弱点ということなんですね。」
私が納得してうなずいているとマージバイトボールが5体こちらに近づいてくる。
…サディの方には、イビルトレント10体とマージバイトボール5体が近づく。
マージバイトボールの見た目は体が空色で目が赤色バージョンのバイトボールで、一見するとイビルトレントより弱そう。
ただ、何か様子がおかしい。
「---、-------、----!!!!」
マージバイトボールがうめき声のような奇声を上げる。
…まるで呪文を詠唱しているような……。
「ー!くるわ。気を付けなさい。」
サディが私に警告する。
「(------)!」
マージバイトボールが高らかに魔のスペルを宣言した。
次の瞬間、光の矢が私に向かって放たれる。
ヒシュン!と甲高い音が私の頬を掠る。
15と赤い数字が表示され、頬の傷から鮮血がこぼれ落ちる。ピリッと痛みが走る。
「「「「「---、-」」」」」
マージバイトボールが再び詠唱を開始する。
しかも、今度は5体全てが息ぴったりに詠唱をしている。
…これは危険。早く対処しなくては!
私はそう考え、詠唱を始める。
「内なる力よ、今一度私の為に具現化し、」
私も対抗するべく、魔法の呪文を歌う。
しかし、相手の方が精度が高いように聞こえて、自分の詠唱がまるで猿真似のように感じた。
HPが高いから、くらっても大丈夫。
不意に頭の中の自分が語りかける。
「確かに」と、一瞬だけ納得した。
…が、私はここに着く前にサディから聞いた話を思い出してその考えを捨てた。
サディから聞いた内容は致死性ダメージについてだ。
これは簡単に説明すると、どんなにHPが高くても、頭などの急所に矢が刺さったりすれば即死又は深刻な怪我を負ってしまうということだ。
サディは前に「HPという概念が存在しているモノであれば致死性ダメージを受ければほぼ確実に死ぬ。」と冷徹に断言した。
死。
それは、私がミカになる前に体験した生の終焉。
全ての生きとし生けるモノが最も恐れる恐怖の象徴。
…怖い。
もしここで死んでしまったら、ダストとサディを困らせてしまう。
…2人は、私に失望してしまう。
もちろん私は、2人のことは信頼しているからそんなことはないと思っている。
でも…万が一の可能性が当たってしまったら…。
……それだけは嫌…。
ここで死ぬわけには行けない。
私は意識を現実に戻して、詠唱を言い終える。
「目の前の敵を貫け。(マジックアロー)!」
「「「「「----!(------)!!!」」」」」
私の光の矢が放たれると同時にマージバイトボール達の光の矢も放たれる。
光の矢は互いにすれ違い、私の光の矢は1体のマージバイトボールに直撃し、マージバイトボール達の光の矢は、少し掠って後ろにいたイビルトレントに直撃する。…5本放たれたうちの4本が。
「---っ!!!?!!」
左肩に激痛が雷のごとく走り、熱い血液が肩から指先まで垂れる。
150と赤い数字で表示される。
…痛い。痛い痛い痛い!!!
痛みのあまり、私は気絶しそうになる。
だけど、それを寸前のところで持ちこたえる。
こんな序盤の序盤で殺されてたまるものか!
私は、歯を食いしばってマージバイトボール4体を睨みつける。
マージバイトボール達はもう詠唱が、最終段階に突入していた。
「「「「(------)!!」」」」
4本の光の矢が、私に襲い掛かる。
「そう何度も当たらないんだから!」
私は右側に飛び込むように避け、すぐさま詠唱を始める。
「内なる力よ、今一度私の為に具現化し、目の前の敵を貫け!(マジックアロー)!」
青白い光の矢が、マージバイトボールを1体貫く。
「マキュウア!」
攻撃を受けたマージバイトボールが息絶えた。
「残り…3体。」
私は再び詠唱する。
「内なる力よ、今一度私の為に具現化し、目の前の敵を貫け…!」
「(マジックアロー)!!!」
マージバイトボールを光の矢が貫く。
一瞬のスキを与えない。
与えてしまったら最後、私があの光の矢で貫かれてしまう…!
「内なる力よ、今一度私の為に具現化し、目の前敵を貫け。」
「(マジックアロー)!」
また、マージバイトボール貫く。
こんなにもスムーズに動ける自分に、我ながら驚いた。
きっと、ひりつく死の恐怖が私を追い立てて覚醒させているのだろう。
「あと……1体…!」
私はふらつく足取りで姿勢を整える。
「クウウウウウ…!」
残ったマージバイトボールが唸り声をあげて威嚇をする。
「お前で最後だ…内なる力よ…」
「---、-------------。」
私とマージバイトボールが詠唱を同時に始める。
「今一度私の為に具現化し、目の前の敵を貫け…!」
私は最後の呪文を力いっぱい言う。
「(マジックアロー)!!!」
マージバイトボールに向けて放たれた魔法の光の矢が当たる…その瞬間。
「(---)!」
マージバイトボールが魔法を使用し、高く飛び跳ねて光の矢を避ける。
「な…!」
…行動パターンが変わった!?
マージバイトボールはピョンピョンと、まるでおもちゃのゴムボールのように飛び跳ねて私にとびかかってきた。
…どうする!このまま避ける?
…無理。もう目の前。
避けずによけずに迎え撃つ?どうやって?
私は高速に能をフル稼働させて考える。
…そうだ。
マージバイトボールは名前の通り魔法に特化したバイトボールの上位種か亜種。
よくあるゲームだと、こう言った魔法特化の敵は他のステータスが低く設定されているものだ。
だったら…!
私はマージバイトボールが落下するであろう場所に左腕を突き出した。
…予想通り。マージバイトボールは鋭い牙をむき出しにして嚙みついた。
ダメージは…6!
「思った通り!」
私は腕に嚙みつくマージバイトボールを引き剥がし、右手で押さえつける。そして…
「内なる力よ、今一度私の為に具現化し、目の前の敵を貫け!」
「キシャアアアアアア!!!!!」
「(マジックアロー)!!!!!」
0距離で光の矢を放った。
最後のマージバイトボールはこの世のすべてを恨むかのような絶叫を上げて、私の魔法によってその意思も肉体も打ち砕かれた。
……………。
……。
「…勝った!勝ちました!勝ちましたよ!」
私は激戦の末に生き残ってモンスターを倒した。
優越の感情が頭の中を巡った。
「ダストさん!サディさん!」
私は近くにいるであろうダストとサディの名前を呼んだ。
「…あれ?」
私はあたりを見渡した。
周りには、大量のモンスターの死骸と折れた銀製の剣が転がっている。
……ダストとサディがいない!?
いったいどうして?まさか…モンスターに倒された?
「ま…まさか…。ダストさん隠れていないで出てきてくださいよ!」
……。
「サディさんも私に意地悪するのはやめてくださいよ!」
…………。
「ねえ…誰か返事してくださいよ…。」
私の声は届かない。
まさか…本当に…。
「知らせなきゃ…。」
私は来た道を早足で戻る。
走って…走って…全速力で走って。
やっと[暗黒樹海]を抜けた。
そこで私は驚きの光景を目の当たりにする。
なんと、サディとダストがいた。
しかも、後ろに鎧を着た集団がいた。
身なりからして騎士か何かだろう。
でもそんなことはどうでもよかった。
だって、2人が無事なんだから。
2人がいなかったのはきっと後ろにいる騎士達を呼ぶためだったんだ。
私達だけじゃ勝てないと思って。
でもそれだったら私に一声かけてほしかったな…。
とりあえずいろいろ聞こう。
「ダストさん!サディさん!無事だったんですね!?」
「「……。」」
「よかった。2人共無事で…。ところでその人達は?」
「「…………。」」
「…?ど…どうしたんですか?」
私は2人から…いや、ここにいる人たち全員から違和感を感じた。
重たいような、暗いような…怒っているような、とにかく心がモヤモヤする。
……この感じ…どこかで感じたことがあるような………。
「おい!お前がミカか?」
騎士の一人がぶっきらぼうに私に向かって訪ねてきた。
「は…はい。そうですけど…」
「どうかしましたか?」と言おうとした瞬間。
鎧が一番豪華な騎士が大きな声で遮った。
「犯罪者ミカ!サディ=インモラルシス殿下とその従者ダスト殿を騙し、命を奪おうとした罪で貴様を連行する!!!」
……………………。
………え?