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嫌われ者の自分が、HP5000の美少女に転生した。  作者: 御狐
第四章 葬送と惜別の聖戦
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第70話 芽生える罪の芽と…これまでのあらすじ。

 試練を終えて疲れた私達はお互いに安否を確認してから、各自それぞれの時間に戻った。

私は重い足取りでトボトボと部屋に入り、鬱蒼とした溜め息を零しながらカーテンを閉めた。

短くなった蝋燭の火を濡れ布で揉み消して、薄暗い部屋でベットに飛び込んで熟睡に走った。


…ただ、何もしたくなくて眠りたかった。


そうして夢の中に入った私は、いつしか見たあの透き通るような世界に辿り着いたんだ。


あの…アドリーと出会った…心情風景あそこだ。


私が少し嫌な気分でそこを散策していると、アドリーを見つけた。

赤髪の冷たい青年はガラスの破片のような窓を虚ろな目で見つめていた。


そこには、私が…前世の私の過去が映し出されていた。


まだ男子学生であった、灰色の世界を生きていた頃の私だった。

両親からは期待外れだと…まるで他人の子供を見るような目で見られ続けて、学校では私はただの背景だった。

先生も、同級生も、後輩も、先輩も、誰も私に目を向けなかった。

それなのに、性格の悪い不良グループからはちょうど良いイジメの標的とされて、ただただ辛い学校生活だった。

そうして中学校を卒業して、あの高校に入った。

結局、高校でも同じだと考えた私は、全てが陰鬱でただ生きているだけでも溜め息が止まらなかった。

いつの間にか、私は溜め息を吐くのが癖になっていたんだ。

そうしてつまらない高校生活も、あの通り魔によって終わらされたんだ。

それから、新しいチャンスを与えられて、私は少女ミカとしてもっとキラキラと輝くような人生を送れると思って期待していたのに、それも結局は期待通りには行かなかったんだ。

あのサディとは仲良くなれるとは思っていなかったけど、まさか裏切られて拷問までされるなんて、流石にそんな結末までは考えても無かった。

あの時はショックだったけど、今思えば自分がどれだけ脳天気で箱入りなバカだったのか、思い出すだけでも羞恥心に苛まれる。


人は何時だって邪悪なんだから、期待するべきじゃ無かったんだ。


ここも例外では無く悪人ばかりだったけど、それでも優しくて愛おしい人だっていた。

みぃ達がその優しい人だ。


…私のことを気遣って、私に手を差し伸べてくれた仲間達がとても愛おしくて、同時にとても妬ましかったんだ。


一方的に厚意を受ける立場がこのような“嫉妬”を抱くのは、とんでもなく愚かで恥知らずな所業だと理解している。


…けど、人はいつだって相手から厚意を一方的に求めて、要らなくなったら無責任に吐き出すんだ。


“暴食”で恥知らずな自分が嫌になるけど、同時にそれがとても安心するんだ。

求めるだけ求めて、要らなくなったら切り捨てる。

利己的だけど、結局はそれがみんなの本音だ。


…それなのに私は、誰かに依存して、誰かに守られるのが大好きなんだ。


“怠惰”かもしれないけど、それがとても居心地が良い。

けれど、そんな私の心を満たしてくれる物はいつだって都合良くいかないものだ。

試練の脅威や生命の信仰者の謀略、サディの悪意にアドリーの嫌悪、どれも私の心を傷付けるだけで邪魔なんだ。


…これらさえ存在しなければ、私はこんなにも苛立つ事は無いんだ。


“憤怒”を知らずに、平穏に生きていけたんだ。

…前世から、今の今までの映像と私の内に秘めていた本音を見終わったアドリーが、退屈そうな目でこちらを見つめた。


「…記憶を…本心を覗かせて貰った。ああ、なかなか面白かったよ。今世も前世も、対して変わっていないからな?」


アドリーは悪意を持って、私の人格と過去を批評した。

まるで、自分の全て否定されたような気分だった。


「前世でも、先ほどの試練でもそうだったが、お前は随分と捻じ曲がった性根をしているようだ。」


彼は溜め息を陰鬱に吐き出して、何処からかコーヒーの入れられたカップを取り出した。

そしてそのまま飲みながら、再び話し出した。


「お前は対して行動をせずに、ただただ他人を羨み、勝手な審判を下している。相手が自分よりも優位であれば醜い嫉妬と憎悪で拒絶して、相手が自分よりも下であったら、今度は傲慢な慰めと歪んだ同情心で歩み寄ろうとしているな?」


鏡の床を踏み割りながら、私の周りを巻き付けるように廻っている。

侮蔑的な眼光で刺し、私をその場に釘付けにさせていた。

絶対に逃がさないと言う意志を感じさせる。


「そして、認めずにそれを仕方が無いと正当化する。…俺はそこが気に食わない。」


ガラスの破片が飛び散る中で、彼の怨恨に満ちた視線と悪口は私に強く突き刺さった。

ガラスの破片よりも鋭いと思えるその悪意は、ジワジワと血が滲むように私の心を傷つけていく。


「お前は女々しくて恨み深い醜いガキだ。」


一際鋭い軽蔑が深く、私の心を貫いて抉り出す。

プツリと胸の中で、何かの紐が切れたような音が聞こえた気がした。

そして口と瞼を怒りに震わせて、彼に近付いた。

堪忍袋の緒が切れたんだ。

私は彼の細い首に手を伸ばして、力強く締め付けた。


「ぐ…!……お前は…!」


私の軽い体重によって押し倒された彼と上にのし掛かる私は、砕けたガラス片の海に落ちたんだ。

全身を突き刺すような痛みは殆ど感じなかった。

感じるのは、目の前にいる気に食わないクソ野郎への激しい怒りだった。


「都合が…っ悪くなったら……今度は暴力で…黙らそうとするか…。ハッ!滑稽だな?」


「うるさい!うるさい!うるさい!!うるさいぃ!!!お前なんかに…!何が…私の何が解るって言うの!?私のことを勝手に言って、勝手に推し量って、私に意味も無く期待して!!!」


こんな状態でも一切の態度を改めない彼に、私は出る限りの怒声を間近でぶつけたんだ。

唾と共に吐き出される憎悪は、自分でも震えるほどに鋭くて扱いに困る代物だった。

だからこそ、この忌々しい悪感情を彼に押し付けるんだ。


「私が醜い…?女々しい…?恨み深い…?クソガキだって?…勝手なことを言っているけど…!みんな…同じなんだよ…!みんな!私と同じ本心を抱いているんだよ!!私のことを特別醜悪だと罵倒するなら…じゃあ!そう言うお前は潔白だって言えるのかな!?私のことを一方的に決め付けるのなら、なら、お前は違うんだよね?」


「……。ああ、違う。お前とは、俺は、全く違う。」


意地悪に訪ねるとアドリーは軽蔑的な視線を向けると同時に自らの意思を開示した。

その目は私と彼を同等と思われた事への嫌悪感が籠もっていた。

自分が特別であり、見下すべき私と対等であると考える事すら、悍ましい間違いだと言わんばかりだった。

その彼の回答に私は更に苛立たせる事となった。


「はっ!違う?笑えるよ…!お前も私と同じじゃん!私と同じように、周りを身勝手な偏見で軽蔑して!私と同じように!自分の悪性を他人に押し付けているよ!それのどこに違いがあるっての!?」


「違う…俺は…ぐぅっ!…俺には…信念がある…!お前みたいな…空っぽな中身では無い!俺には…確かな中身がある!何も無いお前と!!崇高なる俺を!!一緒にするな!!!」


首を絞める力が強くなった。

歯をギリギリ軋り、眼球が飛び出る程に凝視した。

こんなにも感情を剥き出しにしたのは初めてだった。

前世でも、何ならサディに拷問されていた時ですら、ここまで激情したことは無かったんだ。

小さな火種だったのに、それが何か別の要因で焚き付けられ大きく燃え上がっている。

その要因は、目の前の男だ。

アドリーが私を焚き付けたから、こうなったんだ。

私のせいじゃ無い、全部コイツのせいなんだ。

不意に首を絞める指に奇妙な感覚があった。

何か、細くて固い紐に締められたような、指に食い込む感覚があった。

紐に指を締め付けられるほど、私の怒りはより焚き付けられている事に気が付いた。

けれど、ちょうど良かった。

私の怒りをコレのせいに出来ると考えたからだ。

私はこの暴力行為に正当性を持たせるために、更に紐をキツく締め付けようと指を伸ばした。


「やめてください!!」


けれど、誰かが私を後ろから押さえ付けて、アドリーと強引に引き剥がしたんだ。

同時に紐は指から解け、空中で薄れて霧散した。

私は身体を動かして抵抗したけど、相手の方が力があって無意味だった。


「こんな事しても何もなりませんよ!?落ち着いてください!!」


その声質と真面目そうな口調は、間違いなくシルミアの物だった。

けれど、ここは私の心の中、他人であるシルミアがいるはずが無かった。


「邪魔しないでよ!!私はこのクソ野郎に仕返しをしたいんだよ!!」


けど、声の主なんて誰でも良かった。

誰だろうと私のこの暴力を寸止めされるのは、極めて不愉快であり不完全燃焼でわだかまりが燻るのだ。

ただでさえ苛立っているのに、これ以上悪化させられると、私は本当に止められなくなる。


「暴れないで…このぉ、落ち着いて!!」

「…へ?」


唐突に浮遊感を感じたと思ったら、シルミアの息遣いが耳元に近付けられた。

そのまま状況を把握できないまま、私は地面に向かって落とされる。


「くださいぃ!!!!!」


背中に激しい衝撃を受けて、ようやく私は彼女に背負い投げをされた事に気が付いた。

シルミアはそのまま私の上にダイブして、全身の体重を私に押し当てて動きを封じてきた。


「はぁ!はぁ!どうですか!?少しは落ち着きましたか!?」


私の上に乗り上げながら、シルミアは息を荒げていた。

他人事なのに自分事のような言い草で、私の怒りを抑圧させたのだ。

傲慢だと、私は彼女を軽蔑した。

けれど、同時に自分がどれだけ惨めで、どれだけ醜い器を持っているのかにも気付かされて、私は急に怒りと血の気が引いていくのを実感した。


「はぁ…!はぁ…!ぅぅ…っ!」


気が付いたら私は咽び泣いていた。

自分が情け無い事に対して、取り返しの付かない事をしてしまった事に対して、そんな私を厳しく怒ってくれた彼女の愛おしさに対して、私はただ泣くしか出来なかった。

言い訳も、罵倒の言葉も思い付かなかった。


「怒りに飲まれてはいけないです!感情的になって相手を傷付けても、ただ虚しいだけですよ!?苦しいだけですよ!?」


私を押さえ付け叱責するシルミアの顔は、とても辛そうだった。

震えた声で私を厳しくも優しく諭すシルミアは、私の昂りが治まるまで拘束を一切緩めることは無かった。

数秒過ぎて、その場には荒く浅い息遣いだけが響いていた。


「はぁ…ですからね、一旦、一呼吸置いて、気持ちを落ち着かせてください!深呼吸してください!そして、もうこんな事をしないと誓ってくださいね!…わかりましたね。」


押さえ込みながら、彼女は空いた手で私の背中をポンポンと優しく叩いてくれた。

慈しみのある手付きで背中をさすりながら、私の涙で濡れた顔をシルミアは自身の胸で優しく包み込んだ。

更に涙が止まらなくなった。

情け無い泣き声を上げて、涙と唾液でぐしゃぐしゃになった顔を彼女の身で必死に隠そうとした。


「フフフっ、お姉さま、さっきのは流石にやり過ぎでしたよ?せっかくの同居人ですから、もう少し仲良くしてみてはどうでしょう。」


アドリーの前にはいつの間にか、淡いピンク色の髪をした小さな少女が佇んでいた。

直接喋った事は無いけど、その声と雰囲気には覚えがあった。

アドリーと共に私に取り憑いていて、いつの間にか離れていた儚い印象の少女、ニイュだった。

けれど、一度離れたはずなのに、どうして彼女がまたここに居るのだろう。

それはアドリーも知らなそうだった。


「げほっ…どうして…ここに来た?」


「フフっ…締められていたと言うのに、もう動けるとは、流石は私達のお姉さまですね。…伝えたい情報があるのですよ。」


アドリーが立ち上がると、ニイュはそのまま彼の手を引いて、私達の前まで歩み寄った。

その二人の姿からは、長年共に生きてきたような雰囲気を感じさせた。


「…聖シルミアさんの持っていた情報を纏めてみたんですけど、恐らくは教会は…生命の信仰者はミカさんを狙ってここに襲撃してくると思います。」


そう言ったニイュの口調はとても淡々としていた。

事務的に吐き出された言葉のようで一瞬自分とは関係ないと思ってしまったが、その内容はどう足掻いても関係しか無くて到底無視することの出来ない物だった。


「……そう…なの…?」


「あくまで聖シルミアさんの印象でしか無いですが、あの教皇の性格と今の光の使者を見る限り、強硬手段を行使する可能性が充分にあります。フフっ、何せ、生命の信仰者は大昔からミカさんのような器をずっと求めていましたから。」


ニイュは唇に指を咥えて、私と目を合わせながら朗らかにはにかんだ。

話し方や雰囲気が大人びていて、彼女から子供っぽさを感じられなかったけど、こう言う年相応な仕草を観ると、その偏見はすぐに納まった。


「…ニイュさん、その癖は一体…確かそれはレイの癖だったはず…なのにどうして…?」


けど、自然に行われた彼女の癖を見ていたアドリーが、唐突に声をかけ動揺した目を向けていた。

その様子から見るに、彼から見て彼女の癖が不自然な行為だったのだろう。

もっとも、驚いているのは本人も同じようだった。


「あ…あれぇ…?そ…そうですよね?一体私は…私…わた…し…?」


話している最中に、ニイュは頭を抱えだした。

目線は完全に私達を捕らえておらず、先程まで紡がれていた知的さは消え失せていた。

その様子にアドリーもハラハラとした様子で眺めていた。

けど、その表情には動揺よりも不安感が強く、まるでその事を知っていたようにも感じ取れた。


「…いえ、今は関係の無い事ですね。…フ…フフっ、とにかく注意するべきですよ。そして、覚悟するべきですね。生命の信仰者が私達と完全な敵対状態になる事を。そして、これが聖戦に繋がる事を。」


ニイュがそう告げると、一歩ずつシルミアに近付いた。

シルミアは見上げる形で、ニイュの顔を静かに見つめている。

まるで、何を言おうとしているのが既にわかっているかのように、彼女は先に口を開いた。


「…わかってます。私も…ミカさんについて行くと決めた時から…覚悟していましたから…。」


そう言って、彼女は真っ直ぐと先を見据えた。

彼女にとって、生命の信仰者は同胞であり、家族や友人のような関係だろう。

彼女が去った聖都には、恋人のような大切な人が残っているかも知れない。

そんな親しかった仲間とこれから殺し合いをする事になるかも知らないのだから、彼女の心労は私ではとても計り知れないし、わかった気になる事自体が不敬である。


「フフっ。そうでしたか。それなら、わざわざ私が言う事は無いですね。では、現実に戻りましょう。」


彼女の覚悟を確かめたニイュが優しく笑いながら、シルミアの手を引いて身体を起こさせた。


「ありがと…」

「えいっ!」


お礼を言いかけたシルミアを置いて、ニイュは突然彼女を突き飛ばした。

訳もわからないと言った表情で、床に仰向けで倒れたシルミアに、ニイュは怪しげに微笑みながら彼女に跨がった。

下半身に騎乗する姿は、なんだかあんまりよろしく無さそうな光景で、私はついつい目を背けてしまった。

そして、視線を戻した時には既に二人の姿は見えなくなっていた。


「げほっ…二人は先に戻ったようだ。…お前もさっさと現実に戻ったらどうだ?」


「…うん、そうさせて…貰うよ。……言われなくたって。」


意趣返しのつもりでサバサバした返しをしたつもりだったけど、別に彼は苛立つ様子を見せなかった。

それよりも気になった事でもあるのだろうか、不意に彼は私の方を凝視した。


「…誰だ。」


けれど彼の吐いた言葉とその視線は私に対してでは無く、私の後ろに向けられたものだった。

釣られて後ろを振り返ったけど、そこには何も見えなかった。

さっきの取っ組み合いで生じた、大量の鏡の破片が飛び散っているだけだ。


「からかって…いるの…?ヒドい悪口か…つまらない冗談しか…言えないんだね。」


「違う。…確かに今、誰かが干渉していた。ニイュさんでも、聖シルミアでも無い…誰かが…。」


「…?何を言って……」


「まあクソニートには関係の無い事だ。…さっさと戻ったらどうだ?都合の良いお仲間に守られた自分の現実に。」


素っ気なく突っぱねる彼の態度を見て、もう彼には会話の意思がないと判断した。

もうここにいる理由が無い私は、さっさと目覚める為に目を閉じた。

しばらくすれば、夢から覚めていると期待して待ったのだ。


「……。…あれ?」


でも、目を開けてもそこは変わらず鏡のような世界だった。

何度も目を開けたり閉めたりしても、現実に帰れなかったんだ。

その様子を見ていた彼が、冷めた溜め息と共にこちらに歩み寄って来た。


「ああ…そうだった。…そう言えば言ってなかったな。この明晰夢から目覚めるには、明確な手順がある。そして、それはお前のような甲斐性無しな臆病者では到底出来ないだろう。」


「…目覚める方法を…知っているの…?」


嫌みったらしく語る彼は虚ろな目で答えた。

どんな方法なのかは知らないけど、こんな所から出られると言うのならなんだって良かった。


「………さっさとして。」


そっぽ向きながら委ねると、彼は舌打ちと共に承諾した。

そして、一瞬の間にほっそりとした両手を伸ばし、私の細い首を力強く締め上げた。


「っ…!?…!!……!?」


持ち上がった足をバタバタさせながら、窒息する苦しみと唐突に襲われた恐怖で動揺する。

声を上げようと口を動かしても、擦れた嗚咽だけが情け無く囀られる。


「…聖シルミアは“刹那的な快楽”が肉体と魂の繋がりだった。…だが、お前の場合は“苦痛と喪失”こそが繋がりなんだ。」


訳の分からない事を言いながら、首を更に強く締め上げていく。

目の前が段々と霞みながらも、必死になって生きようと足掻こうとする。


「…お前はどのような運命を得ようと、与えられようと、苦痛と喪失からは逃れられない。……人間にはそれぞれ宿命と言うモノが必ずあるんだ。それは…俺もお前も決して例外では無い。」


ミシミシと脊椎が軋む音と隙間風よりも小さくか細い呼吸音を聞きながら、私は怨みがましく彼を睨んだ。

けれど、彼の目には私は映っていなかった。

いや、最初から映っていなかったのだろう。

彼は、始めから虚空を見つめているから。

…私では無い、誰かに目を奪われていたのだから。


「…最後に、一つヒントをやろう。もしお前が俺の興味を惹きたいのならば、お前も味わうのだな。……全てを燃やしても、決して鎮まる事の無い怒りを……灰燼すらも焼き尽くす…業火の如き憤怒を…」


最後に伝えた言葉を私は理解できなかった。

けれど、確かなのは彼の虚ろな眼窩の中には、確かに揺らめくモノがあると言う事だ。

そしてそれは、今の私には理解する事の出来ない感情だ。

…けど、いつかは私にも理解出来る時が来るのだろう。


そんな事を…私は消えゆく意識の中で静かに悟った。

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