第4話 はじめての協力狩り!…私…要る意味ある?
パーティ登録をして10分後…
「内なる力よ、今一度私の為に具現化し、敵を貫く矢の雨を降らせ!(マジックシャワー)!」
サディが魔法の詠唱を終えると同時にモンスター達の真上に魔法陣が出現し、そこから光の矢が降り注いだ。
「「「「キュウ!!!」」」」
光の矢を前進にまんべんなく浴びたバイトボール達が一斉に亡骸へと変わり果てた。
さらに、たくさんの経験値が一斉に集まった。
「わあ…。す…凄いですね!これは何の魔法ですか?」
「(マジックシャワー)。(マジックアロー)を持っている状態で(マジックシャワー)のスクロールを使用することで使えるようになる中級魔法よ。」
「へえ…私も使ってみたいな…」
「…この魔法は消費MPがマジックアローよりも高いのよ…。私くらいのステータスがないと扱えないわ。それに…はっきり言って、今のアンタじゃ無理ね。」
私の呟きをサディが否定する。
うう…心に突き刺さる。
実際、サディと私のステータスを比べると、天と地の差がある。
ちなみにサディのステータスと、今の私のステータスはこんな感じだ。
【サディ Lv28】
HP 650
MP 1015
器用値 25
速度 10
攻撃力 50
魔法攻撃力 650
魔法回復力 15
【防御力 345】
【ミカ Lv3】
HP 5040
MP 10
器用値 5
速度 3
攻撃力 1
魔法攻撃力 0
魔法回復力 0
【防御力 10】
HP以外のステータスとレベルが圧倒的に差がある。
しかも、サディ曰く、「HP以外の全てが、平均より下。」
この最悪の事実を告げられた時、私は気を失いそうになった。
気を失わなかったのは、私のステータスを見ても態度を変えずに接してくれたのと、装備やアイテムを使うことでステータスの欠点を埋めることができるということを聞いたからだ。
この時に、装備についての説明をダストがしてくれた。どうやら、装備品を装備…つまり身に着けることによって防御力やステータス補助の効果を受けることができるらしい。
ちなみに防御力というのは、数値の分だけダメージと痛みをカットする効果があるらしい。
わかりやすく言うと、【防御力 10】の者が、1~10と言った防御力と同じかそれ以下のダメージを受けた場合、被ダメージは1になり、11と言った防御力を1上回るダメージを受けたら、2になる。
あと、どうやら防御力が3桁以上になった場合、1桁の物理的なダメージを完全に遮断するらしい。
…本当に、ゲームみたいな世界なんだな。
と…私は、今更実感した。
「あの…サディさん…何をしているのですか?」
私はサディに尋ねる。
サディは今、バイトボールの亡骸を集めている。
なんでそんなことをしているのか、私は気になった。
「倒したモンスターの素材を集めているのよ。私達旅人はモンスターの素材や珍しいアイテムを売って、路銀を稼ぐのよ。」
「へえ…なるほど。」
「ちなみにこの素材…【バイトボールの肉片】はバケツ一杯分で、銅貨5枚。【バイトボールの牙】は5本程で、聖銅貨1枚よ。わかった?」
「はい!わかりました。」
「そう。わかったのなら集めるの手伝って。」
そう言うとサディが大きな革袋を私に投げ渡す。
「は…はい!」
私はそそくさと、文句を言わずに素材を集める。そうしないと冷たい視線を向けられてしまうからだ。
「それにしても…この素材達は何で売れるのですかね?」
【バイトボールの肉片】を集めながら呟いた。
物が売れるということは使い道があるという事。
だけど、こんな粘土みたいな物なんかがどうして需要があるのだろうか。
私の疑問をサディが説明してくれた。
「…私が知っている事だと、【絵の具】とかの材料になるらしいわ。」
「そうなのですか。」
「あとは…そうね。【彫刻石】なんかにもなるわ。」
「【彫刻石】?」
聞いたこともない単語を聞いて私は首をかしげる。
「いろいろと使い道がある加工資材よ。一般的には【子供用玩具】や【鑑賞人形】なんかの材料ね。」
「【鑑賞人形】?」
「…よろず屋の棚に妙に完成度の高い人形があったでしょ。あれのことよ。」
「ああ!あれのことですね!」
妙に完成度の高い人形と聞いて、私は思い出した。
店に入ってすぐ左の棚に鎧を着た兵士のフィギュアみたいな物がたくさん飾ってあった。
…ということは、【彫刻石】はおそらくプラスチックか何かだろうか?
「まあ、とにかくこの素材もそれなりに需要があるのよ。需要があるからこの素材は売れる。そしてそれらを集めて売ることが、私達旅人の仕事の一つでもあるのよ。」
「なるほど。とりあえず売れるものには価値があるということですね…勉強になりました。」
「そう。ならいいわ。」
私達が話しながらバイトボールの素材を集めていると、ダストが声をかけてきた。
「どうしたの?ダスト君。」
「今日はこのくらいにして、街に戻らないか?その子も疲れているようだし…」
「ん~。そうね、ちょうど素材を売りたかったから。そうしましょう。」
「まあ…実際疲れましたし、今日はこの辺にします。」
私達は城下町に戻ることにした。
城下町に着いた私達はよろず屋[旅人の通り道]に集めた素材を売りに向かった。
「いらっしゃいませー!」
店に入るとアンリが営業スマイルで出迎えてくれた。
「お!アンタか!さっきぶりだな!また来てくれたってことは…こいつを買ってくれる気になったんだな!」
私の存在に気付いたアンリが嬉々として一つ金貨3枚ほどもする金色のペンダントを取り出す。
「い…いえ、違います!私達は集めたモンスターの素材を売りに来ただけです。なので買い物はしません。」
「ええーーー。そんなこと言わずにさあなんか買ってってくれよ。」
「買いません!今回は買いません!」
「何でさ!」
「そ…それは…お…お金がないから…。」
なかなか引き下がらないアンリに私の切実な悩みの一つを告げた。
そう。私はお金がないのだ。
転生して最初に持っていた所持金は銀貨15枚…前世のように言うと1500円ぐらいしかなかった。
それをさっきここで銀貨を9枚ほど消費してしまい今では銀貨6枚しかない。
それを知ったダストから「お前そんな金で良く生きてこれたな!」と言われ、「俺と同じように苦労したんだな…。」と勝手に共感されてしまったほど。
「な…なるほどな。それなら仕方ないんだぜ。…さすがのアタシでも、無一文の友人から金をふんだくるような真似はしないぜ。」
「いえ。別に無一文ってわけじゃ…。」
「…ん?アンタ…無一文で通じるのか?」
「え?いや…それぐらいは分かりますよ!」
「……………。」
「え?どうしたんですか?いきなり黙って…。」
私が心配をしていると。アンリが何かひらめいたような、納得したような表情を見せる。
「あ…いや…その…何でもないんだぜ!」
「…?そ…そうですか?」
本当にどうしたのだろうか?何かが引っかかる。
「そんなことより。アンタら、素材を売りに来たんだろ?見せてくれないか?」
「あ はい。えっとこれです。」
モヤモヤする気持ちを切り替えて、私達は集めた素材を店内に運び込んだ。
「うお!これはすごい量だな…頑張ったんだな!アンタ達!」
アンリは素材を素早くそして丁寧に並べていく。
「【バイトボールの肉片】が13。【バイトボールの牙】が10本。【バイトボールの核結晶】が1つか………。…聖銀1枚と聖銅8枚、銅5枚だぜ!」
金額を聞いて私は少し驚いた。
聖銀貨が1枚…もしかして【バイトボールの核結晶】って結構珍しいのかな?
「あと、これはおまけだぜ。」
アンリが代金と一緒に緑色の腕輪を渡した。
「え?えっと…これは何ですか?」
「これは【MP増加の腕輪】身に着けるとMPが50増加する装備品だぜ!」
「え?!い…いいんですか?もらっても。」
「ああ!良いぜ!こいつはアタシからのサービスだぜ!」
「…ありがとうございます!」
嬉しくて飛び上がりそうなこの感情を抑え、私はお金と装備品を受け取った。
「用事は終わったから店を出るわね。」
「わかったぜ。ありがとーございましたー!」
素材を売り終えた私達は店を出る。
…次来た時、お金に余裕が合ったらあのペンダントを買ってあげよう。
そう思いながら私は、夕暮れ時の城下町を歩く。
私達は宿屋で泊まることにした。
一部屋で一泊するのに、銀貨5枚掛かり、今日稼いだお金を半分程使った。
夕食を早く終えた私は、すぐに寝ることにした。ベットは二段ベットになっていて、私は下の方のベットに入り、布団を頭まで被る。
ゆっくりと目を閉じて今日起こったことを思い返す。
嫌われ者の自分が通り魔に刺され、神様に出会ってHPが5000もある代わりに他のステータスが低い美少女としてゲームのような世界に転生し、信頼できる仲間たちと出会って…
「……。」
小説みたいな展開で現実感がない。まるで夢のようだ。
…本当に夢だったりして。
目が覚めたら自分の部屋にいて、またあの悪夢のような毎日を送るのかな?
親から虐待され、周りの人から必要に嫌がらせを受ける。あの毎日を…。
…嫌だ。夢であってほしくない!お願い…神様!
私は…この世界で生きていきたい。だってこの世界なら、苦しみがないのだから…。
「ふあ…。」
なんだか眠くなってきた。そういえば明日はダンジョンを攻略するってダストが言っていた。
早く寝て早く起きよう…。