第54話 どうしてもチャペルに住みたい聖女様…。
遅くなってしまい申し訳ございません。
仕事が始まってすごく忙しかったのです…。
なおこの話は4050字程度あります。
それぞれ自己紹介を終えて簡単な状況を話し合った私達は夕食を取るべく、ダイニングルームに移動してそれぞれ椅子に腰かけた。
食事はみぃとマリアが用意するんだけど、ハローとシルミアが料理を手伝いたいと願い出た。
「いいの?待ってても大丈夫だけど…」
みぃが訊くと、ハローは少しムカつくような表情で口を開いた。
「料理など、儂に勝てるものなどおらんのじゃ。儂なら普通処分するであろう野菜の皮すら残さずに調理できる。疑うのならマリアに聞いてみると良いのじゃ。」
自信満々に宣言したハローは、腕を組み何とも言えないムカつく笑みを浮かべて見せた。
「ハロー様の技術は確かです。やらせても問題ないでしょう。万が一にも何かやらかしましても、わたくしが手を加えます。」
不遜なハローの言葉をマリアがフォローした。
実際、ハローの料理は食べたけど確かに実力は本物だった。
すごい辛かったけど、マリアが手心を加えるみたいだから、きっと心配はない。
それよりもシルミアの方だ。まだ会ったばかりで料理の実力を把握できていない。
「簡単な物なら作れますです!それに、私は皆さまのお役に立ちたいのです!」
腕をまくって、清潔な二の腕を見せつける。顔も少し自信ありげでちょっと可愛い。
二人ともやる気いっぱいで、断るのも野暮のだ。それは恐らくみぃも同じ考えなのだろう。
「そっか、わかった!じゃあよろしく!」
みぃは快く承諾して、そのままみぃ達は台所に入っていった。
ダイリングルームと調理場は壁一つで隔たれており、そのため彼女たちが具体的にどうしているのかを見ることができない。
「して…何を作りたいのじゃ?」
しかし、よく耳を澄ましてみると、うっすらとだけど声や音が聞こえる。
「えっと、実は特に考えてなかった…これが一応今回使う予定だった食材だよ!」
「ふむ…なるほど。これなら、そうじゃな。とりあえずまずは、お湯を用意しようか。鍋に水を入れるのじゃ。」
「わかった!」
「ああ違う。もっと大きい鍋を使え!人数分作るのじゃ。こんなちっぽけな鍋じゃせいぜい3人分しかできないのじゃ。」
「わかった!…わっ…水がいきなり足りなくなったね…私汲んでくるね!」
掛け合いの後、台所からバケツを持ったみぃが飛び出してきた。
エプロン姿でよく見たら私たちと同じくメイド姿になっていた。
みぃのスカート姿を見れて私は満足だ。
「さて、おい聖女殿。これとこれを自由に使ってよいぞ。」
「わかりましたです!期待に応えて見せますです!」
ハローとシルミアの会話も聞こえてきた。
けどやっぱりどんな作業をしているのかわからない。
暇だし、大人しく私は本でも読んで待とう。
………。
………………。
しばらく本を読んで待っていると、濃厚で美味しそうな匂いとともに料理が運ばれてきた。
私は本をしまって、並べられる料理を眺めながらつばを飲み込んだ。
濃厚な香りを放つスープとみずみずしい野菜とハムが挟まったパン、そしてこれは…目玉焼き?
夕食っぽくないと感じるのは、きっと文化の違いだろう。
「神よ、敬虔なる信徒の為に、生命のお恵みを感謝します。今日を生きる私の生を実感し、供物となった物の死に嘆き、生態系を管理する神に感謝します。ではもう一度…お恵みに感謝。です!」
シルミアは手を組んでロザリオを握り、滑らかな口調で祈り食事を始めた。
長ったらしいけど、要はいただきますをしているだけだ。
私も手を組んで祈ってから、食事を始めた。
まずはサンドイッチのような物を手に取り、盛大に齧り付いた。
シャキシャキとした野菜の食感と少し固めのハムの食感が丁度よいバランスになっていて、少し濃いめの塩漬けの薬草が野菜とパンでこれまた丁度よく味が調節され、咀嚼が止まらなくなる程美味しかった。
「美味しい…美味しいです!」
次に私はスープに手を付けた。
とろみのあるスープには野菜と小さな肉片が細かくされており、歯の弱い人でも美味しく食べられそうだ。私はスプーンで掬って、チビチビと舌を付けた。
私の予想通りスープはとても熱く、あのまま飲んでいたら火傷していた。
「ぁっ…!けど、美味しい…。」
次は目玉焼きに目を向けた。見た目は…シンプルであんまり特徴がないような気がする。
ただよく見ると粉上のハーブで三又の何かの絵が描かれていた。
試しに一口サイズに切り分けた。そこで始めて私は、これがただの目玉焼きではないことに気づいた。
そう、目玉焼きのした部分に良く焼けたベーコンが敷かれていたのだ。半熟の目玉焼きとカリカリのベーコンそして香りの良いハーブが全て絶妙に支え合っている。
それはまるでお互いが支え合うように、合理的に計算されて出来た一つの建築物のようだ。
「はむっ…。んぅ~!美味しい…!」
そんな詩的な表現や語彙力もこうやって美味しいモノを頬張っていると、自然とトロけるように消失していった。
考え事をしようと思っていたが、結局そんな事をするために頭を動かすことはなかった。
私はただただ、みんなと一緒に食事を楽しんだ。
………。
………………。
「さて、みんなのお部屋なんだけど…マリアが案内してくれるから!もし、何かあったら、マリアに聞いてね!」
料理を終えてシルミア達は部屋に案内されることになった。
「この屋敷は広く、空き部屋も多いですので、お望みであればどのお部屋を希望しても問題ありません。」
食器の片づけを手早く終えたマリアは、シルミア達に目を配らせながらそう言った。
「なるほどの。正直儂はどの部屋でもよい。…最低限の広さと利便性があれば文句は無いのじゃ。なので、マリア殿に任せるのじゃ。」
「わ…わたしは…任せるデス」
ハローとシフはどうやらマリアに委託するようで、それぞれ理由を述べたり意思表示をした。
「アタイは~自分で選んでもいいかな?もちろん大丈夫か確認して良いよ~」
「私も自分で選んでみたいです!きっとこの先ずっとここでお世話になるでしょうし、後悔しない選択をしたいのです!」
コロロとシルミアは自分で選びたいと要望を出したので、マリアは軽く「わかりました。」とうなずいて容認した。
それにしても、いきなり4人も人数が増えたにもかかわらず、まだ人が棲める空き部屋があることに正直驚いた。
やはり異世界ってすごいなと、みんなに付いて行きながら静かに感心した。
………。
………………。
数分かけてようやくそれぞれの部屋に案内されたハローとシフは、荷物を持って自室となった部屋に入っていった。
コロロはマリアに許可を取り、部屋を見定めるためふらふらとした足取りで、一人で屋敷内を捜索し始めて行ったようだ。
ただシルミアだけはまだ部屋を決めれておらず、私達と一緒に廊下を歩きながらきょろきょろしている。
「このまま付いて行っても、私達は自室に戻るだけだから、早く決めた方がいいよ?」とシルミアに伝えようかと思ったが、それよりも早くシルミアが声を上げた。
「あら?ここは……も…もしかして、礼拝所でしょうか!?」
一つの部屋を指さしながら私達に聞いてきた。
その部屋はどうやら小さな礼拝所のようで、隣には告解室もある。
ドアノブに少し埃が被っているところを察するに、あまり使われていないのであろう。
「凄いです!礼拝場まであるのですね!…私ここがいいです!ここに住まわせてくださいです!!」
チャペルの前に立ってシルミアはおねだりした。
私は無信仰者だからわからないけど、お祈りができる場所ってのは宗教信仰者にとって大切な物なのだろう。だからと言って、そこに住みこもうという発想になるのは少し変な気もする。
「…ここはあくまでも礼拝場ですよ。間違っても人が棲むような場所ではありません。空き部屋はありますし、ここも定期的に貸し出しますので、わざわざ住み込むことは…。」
しかしチャペルに住みこむという彼女の要望は、さすがにどうかと思ったようで、マリアがやんわりと他の部屋を推奨した。
「いえ!私シルミア=エレフィーレはここを自室にしたいのです!ここなら24時間ずっとお祈りをすることができますです!私は拝読したり聖なる儀式をしたりするのですが、それが結構騒音になったりして迷惑になってしまうと思うのです。ここは近くに他の部屋がなさそうですし、きっと迷惑を掛けなくて済みますです!それに…碧の聖水を作るには神聖な場所でなければいけません!ここなら24時間ずっと聖化出来ますので、ここを独占したいのです!」
「でしたら、儀式や祈祷の時だけこの部屋をお使いになられては…。」
やんわりと提案するマリアにシルミアは頭を下げてまでお願いをした。
「………わかりました。ですが一応、シルミア様の為にお部屋を一つ開けておきます。気が向いたらお使いください。」
なんだかちょっと強引だった気がするけど、わざわざ詮索するのは失礼だと考えたのか、マリアは承認した。しかも親切にマリアは、一応シルミアのために一番近い場所の部屋も開けておくと伝えた。
「ー!ありがとうございますです!ふふ、お祈り!お祈りができますです!」
少し浮かれた素振りで礼拝室に荷物を運びこむシルミアを置いて、私達はそのまま自室へと向かっていった。
こうして部屋割りを終えた私達もそのまま自分の部屋にそれぞれ帰っていった。
「それではおやすみなさいませ。何かあれば、わたくしのお部屋までお申し付けください。…寝ていましたら、出来ればそっとしておいてくださるとありがたいです。」
ハローとシフ、コロロやシルミアにも言った言葉を残してマリアはそのまま自室へと姿を消した。
私とアンリも眠そうな声でおやすみを言い合ってから、自分の部屋の扉に手をかけて、そのまま中に入っていった。
…しかし、私はまだ寝る事は無かった。
何故なら…私にはしなければいけない事があったから。




