第48話 想定外の異常事態と白銀信徒の仕事。(挿絵アリ)
この話は3500字程度あります。
2023/4/1 挿絵を追加しました。
光の使者の御接待をしたアタシ、ヒューリーは地下の行水所で汚れを流し身を清めた。
あのおっさんは相も変わらず、毎年お盛んで、実はアナウサギなのかと疑いたくなる。
「この調子じゃあ、いつか枯れ果てるだろうな!ッハハ!!あ~うける。」
さてと、だいぶ体を流したし、そろそろ出よう。
アタシは軽く体を布で拭き、血で彩られた修道服に身を包んだ。ああ、ちなみにこの血のシミはおしゃれだ。血ってなんか興奮するよな?特にバカな奴を切り裂いたときに浴びるあの温かくて独特な匂いがする感覚が最高だ!この血が滾る感じが忘れられなくて、服に付いた血を洗うことができないんだ。まあ、最初はお偉いさん達から引かれてしまったが、ちゃんと敵の戦意を削るためって適当な理由を付けたら、誰も気にしなくなった。
…ああ、一人だけは気にしてたな。
いっつも嘆いているコーフリクト家のお坊ちゃん、問題を対処できるほど力もないのに行動力だけは一人前、口だけで勇気なんてもんは持って無い未熟で臆病なガキ、その名は…。
「キュアミュゥ!もう少しよ!もう少しで休ませてあげれるから!」
考え事をしながら歩いていると、前から二人の人影が現れた。
一人は顔を白銀のヴェールで隠した白銀の装束で身を包んだ精人の女子だ。
「ぅぅ……哀れな……神よ……我ら……をお許し…ください…」
もう一人はアタシと同じ特級聖女の修道服を着た薄幸な雰囲気の少女…キュアミュゥだった。
どうやら調子が悪いようで、≪冷たい光の聖女≫に背中に乗せられて運ばれている。
「これはこれは、≪冷たい光の聖女≫のラハブ=ラストお嬢様じゃありませんかっ。そんなに慌てていったいどうなさったのですかっ?」
まるで何かから逃げるようにこちらに向かってきたラスト家のお嬢様に、アタシは声をかけ確認をする。
≪冷たい光の聖女≫ラハブ=ラスト…こいつがこんな慌てるって事は、なんかあったんだろうな。
ラハブは光の使者の地位でありながら自分から遠征や遺跡の調査に参加して、数々の実績を作り続けている英雄クラスの術者だ。強さはアタシの次であり、並の神聖騎士程度なら素手でも簡単に返り討ちにできるくらいの実力はある。
ちなみにアタシ≪教会の剣≫は英雄クラスでは上位であり、生命の信仰者の中では二番目に強い。
ああ、ちなみに一番目の奴は、はっきり言って化け物だ。強さはなんと災害クラスの頂点だ。
本気のアタシでも1秒も持たないくらいには強さの差があるな。多分、世界最強なんじゃないか?
…まあ、今はそんなことを考えている状況じゃなさそうだ。
さて、このラハブは何かから逃げてきているのは間違いなさそうだ。
方向から察するにカタコンベで何かがあったのだろう。一瞬の間で息を整えたラハブが急ぎで説明する。
「ヒューリー!大変よ!カタコンベが穢れたわ!!黒星の眷属が…それと上位アンデットもいたわ!!何体かはうちが処理したけど…キュアミュゥを庇っていて完全な処理はできなかったわ。…今うちらの後ろに≪シンフォールスケルトン≫が追ってきている。悪いけど、後は頼むわ!」
「なるほどっ。かしこまりっました~。」
ラハブは相変わらず強い口調でアタシに指示を出した。
そして、予想通り面倒なことが起こっていて、気分が清々しいな。
ああ、清々しいてのは皮肉だからな?
片づけるのはアタシだし、正直言ってめんどくさい。
けど、こういった面倒なことを処理するのが白銀信徒の仕事だ。
アタシは気分を休憩から仕事に変えた。
そして状況を把握したアタシは、軽く体を動かしてから大鎌を構えて走り出した。
…黒みがかった青いスケルトン4体を視認した。
上位のスケルトンであるシンフォールスケルトンは攻撃を受けると体をバラバラに崩した状態となるのだが、この状態だとこちらの攻撃が当てづらくなり逆に相手の攻撃が避けずらくなる。
まともに戦うのがバカなので、こちらを察知される前に一気に処理する。
アタシは大鎌を大振りで首を刎ね飛ばして、4体のシンフォールスケルトンを屠ってやった。
「(辻収穫)っと!」
大鎌の戦技名を呟きながら、カタコンベまで駆け抜けていく。
………。
………………。
カタコンベに最速でたどり着いたアタシは、標的を視認した。
あれは、≪名前を知らぬ者≫か。黒星の眷属の中では弱い部類の奴で強さで勇者クラスだ。
つまり、英雄クラスの一つ下だ。まあ、頭の弱い光の使者でも分かるように説明すると、あの≪鉄球投げの聖女≫と同等かそれ以下だ。
しかも、よく見るとあいつは凍傷を引き起こしているな。
どうやら、お嬢様がある程度削ってくれたようだな。
さすがは≪冷たい光の聖女≫様だな。英雄クラスは伊達じゃない。
生まれつき氷の魔法をすべて完全に強化された状態で取得しているだけでなく、氷の魔法の威力も上昇する加護を持っているだけはある。ああ後、武器も強いんだったな。
正直、あの臆病野郎がここで寝てなかったら、あいつ一人で片付けれただろうな。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
「うるせえな。今からその腹搔っ捌いてやるから、さっさとに神にでも祈っておきな!」
眷属が4本の黒い剛腕を振るって、アタシを粉砕しようとしてきた。が、アタシはもう既に後ろに回り込んでおり、アタシはそのまま(袈裟斬り)をしてやった。
「おらよっと!きたねえ血だな?これだから、眷属を倒すのは好きじゃねえんだ。」
まあ、こいつが流すのは厳密には血じゃなくて、気化した黒星の穢れなんだがな。
ちなみに少しでもかかったら面倒なので、しっかりと返り血は回避する。
「アアアア!!アア!!!」
怒れる眷属が絶叫のような鳴き声を響かせながら、腕を振り回す。こいつの咆哮は精神を汚染して、相手を恐慌状態にする効果がある。だが、アタシはそのまま攻撃を続ける。恐怖の感情がアタシを苛むが、感情程度でアタシの攻撃や動きを阻害することはできない。そのまま大鎌をバッテン型の軌道で振り、眷属の胸を刻んでやった。更に、アタシは左手を向けて、詠唱短縮で祈祷術を行使した。
「(ディバインアロー)…!」
極太の神聖な矢を眷属の傷口にねじ込むように放ち、アタシは後ろに下がった。下がった先にシンフォールスケルトンが数体居たので、舞うような動きで大鎌を振り回して一掃してやった。
アタシは碧の聖水を3本取り出して中身を全て足元にぶちまけた。そして、大鎌を構えて振り払い加護を発動させる。
「《水刃》。」
聖水で作られた飛来する斬撃が、眷属の腹を切り裂いた。眷属が絶叫を上げて虫けらのように仰向けでのたうち回る。そのままアタシは加速して、開けていた距離を一気に詰めた。
「(斬切断絶ち)。神の慈悲に感謝しな!」
大鎌を真っ直ぐ叩きつけ、真っ二つにしてやった。
黒星の眷属はその呪われた運命から解放されて、パンドラの箱を残して消失した。
「さてと、何が出るかな?」
アタシは箱に触れ戦利品を確認する。
出てきたのは、【ドゥームダガー】だった。宿っている加護は、《フェイントステップ》だ。
この加護は宣言する事で戦技の動きが補助されて、英雄の戦技が雑兵クラスのザコでも再現できるようになる。
つまり、素人ではないアタシには不要の加護であり、こいつはハズレって事だ。
「さてと…処理は完了したし、戻るか。」
アタシは現場をそのままに放置して、元来た道を戻っていく。
ざっと確認したところ、この場所で囚われていた青色信徒…いや、灰色信徒がいなかったのと、檻が朽ち果てていた事と、何故かインモラルシス王国の茨騎士団の紋章が描かれた空き瓶が捨てられていた事が分かった。とりあえず、二人からいろいろ聞いてみることにした。
ついでに、役立たずだったあの臆病野郎を慈悲深いアタシが慰めてやろう。
あの精神童貞には充分なお仕置きになるだろうな!
そんなことを考えながらアタシは戻り、詳しい事情をキュアミュゥとラハブから聞かされた。
そして、その内容が結構重大だったので、アタシは教皇らに報告に行く前にキュアミュゥにお仕置きとして少しだけイジめてやった。もちろん、ラハブお嬢様の目の前でな!
具体的にはあえて語らないが…軽く指でつっついてやったらイイ声で鳴いたとだけ言おう。




