第47話 初めまして、元青色信徒《ビショップ》のシルミア…です!
暗くて湿ったカタコンベからようやく脱出した私は、自宅まで直行しました。自宅にある大切なもの…主にお母さんの遺品を回収して、荷造りをしました。
飲料水が入った革袋に一切れの燻製肉、パン4つと聖化された薬草の束7つ、碧の聖水を2つと生命の信仰者の教典一冊、護身用に銀の燭台一台と銀の短剣1本、野宿用の薄い掛け布団と衣服二日分、読書用のメガネとロウソク6本、そして余った初級祈祷術のスクロール8枚程を鞄に詰め込みました。
銀貨が詰まった銀貨袋と手入れをしたメイスを腰にしっかりと縛り付けて、荷物が入ったカバンを背負いました。
そして…お母さんが付けていた天銀製の指輪を指にはめて、出発です!
私は表通りを避けて進み、裏路地の道を使っていきます。
どういう訳か警備の神聖騎士の方々が慌ただしく移動していました。
「もう脱走したことに気付かれたのでしょうか…」
私はこっそりと聞き耳を立てて、盗み聞きを試みました。
「器がこの聖都にいるらしい!早く捕らえねば…!今現在メリー青色信徒が交戦しているらしい!」
「あの≪鉄球投げの聖女≫様が!?ということは…あの≪冷たい光の聖女≫様も…?」
「いや、≪冷たい光の聖女≫様はカタコンベに向かっている。」
「それはどうして…」
「何でも、≪嘆きの乙女≫様が戻ってこないらしく…様子を見に行ったらしい。」
どうやら、会話の内容を推察するにまだ私の存在には気づいていないようです。私はほっと息を着きました。もし、脱走がバレて広まっていましたら大変どころではありません。
「私達も早く加勢しなければ…確か白木の馬宿でしたっけ?」
「ああ、そこに真っ白な人の少女がいる…そいつが器だ。」
白木の馬宿…確か観光に訪れた旅人様用の宿でしたっけ。そこでメリー青色信徒が白い少女と交戦しているようです?器と言う言葉も聞こえましたし、ちょっと見に行ってみましょうか。もしかしたら、その白い少女がミカだったりするかもしれませんから。そして、メリー青色信徒と戦える人たちであったら、仲間に入れてもらいましょう。もしも、悪人だったとしても、今この場を抜け出すために利用させてもらいます。そう意気込み、私は素早く走って目的の宿まで向かいました。
………。
………………。
白木の馬宿に辿り着いた私は陰から覗き込みました。まず、目に入ったのは地面を埋め尽くすほどに倒れた神聖騎士の方々です。その中にはメリー青色信徒が血だらけで倒れていました。そして、その中に混ざるように桃色の髪をしたおそらくは精人の少女がお腹を押さえてうずくまっていました。その隣には腕を押さえて苦悶の表情で座り込む橙色の髪の女子が、その近くに空色の装束を着た老人。そして、褐色の少女…ゴブリンロリータの方とみすぼらしい服を着た本物のゴブリンの女の子が白い少女を運んでいました。
あれが…器…普通の人にしか見えないです…?
私は少しだけ穴から身を乗り出して、白い少女を凝視しました。白い少女は顔が痣だらけで、脇腹のあたりを刺されていました。見たところ失血により意識が朦朧としているようです?早く回復を施してあげなければ死んでしまうでしょう。
「………。よし。シルミア行きます!」
私はゆっくりと建物の陰から現れて、白い少女に歩み寄りました。
当然予想してましたが、警戒されました。しかし、むやみに攻撃を仕掛けてこない辺り、慣れている…あるいは余裕がないのかもしれません。
「だ…だれデス!?ま…また敵デスか!?」
「安心してくださいです!…私は味方です!」
私が味方の宣言をしてみせると、ゴブリンロリータの方が私を一瞥しました。
恐らくは心を読んだのでしょう。
確か、ゴブリンロリータは異端の魔法使いの末裔だと聞きました。心を読む魔法を使うことができると…本に書かれていました。だから、こうして敢て堂々と歩み寄って、敵ではないと宣言すればきっと、警戒を解いてくれるはず。
「………。君~青色信徒だね~?もしかして~高位の祈祷術使えたりするかな~?」
「はいです!私ならある程度の怪我を癒すことができますです!」
「じゃあ~ミカたんを癒してほしいな~。ちょっと事情があってね~ミカたん刺されちゃって~やばいんだ~…。」
ゴブリンロリータの発言に私は強い衝撃を受けたのかのように錯覚しました。
なんと、この白い少女がミカでした。私は何とか冷静に振る舞って見せて悟られないようにしました。
とりあえず、恩を売って入れてもらいます。
「わかりましたです!えっと…一応怪我の状態を聞いてもいいでしょうかです?」
「顔面と頭部を犬人に何回も殴打されて、脇腹を深く刺されちゃってるね。少し止血したけどだいぶ流れちゃったのと、ミカたんが混乱しちゃってね~今気絶している状況だよ~」
私は白い少女ミカに近づいて、軽く手で触れました。
こんなにも小さな子に傷を負わせるとは、同じ生命の信仰者として悲しくなります。
私はこの哀れな少女の為に神様に祈ります。
「生命と救済の神よ、致死の傷を負った者の為に、この者に奇跡の癒しを施したまえ。(メディカルヒール)!」
まず、最高位の回復を施して、脇腹の傷を塞ぎ内傷を癒しました。
けど、彼女は失血をしております。そのため私は輸血の祈りを捧げ、神の奇跡を起こします。
「生命と救済の神よ、血を流されし者の為に、この者に血を恵みたまえ。(ミラクルブラッド)!」
輝く赤い光の粒子が白い少女を包み込みました。これで、ある程度は大丈夫だと思います。
「生命と救済の神よ、傷ついた者の為に、この者を癒したまえ。(ヒール)。」
更に、減少した彼女の生命力を回復させるため、初級祈祷術もかけます。
「そちらの方々も治療しますです!」
私は次に青いバンダナの少女に近づきました。この子はどうやら、腕を軽く折ってしまっていました。私が確かめるために軽く触れると、青いバンダナの少女は痛みを訴えてきました。
「生命と救済の神よ、骨を砕けた者の為に、この者の骨を補強したまえ。(パワフルボーン)!」
私は神への祈りを捧げ、折れた骨を修復させました。少女は手を何度も握る動作をして確認をしているようです。
「…助かったぜ。……どうやら、アンタは信用できそうだな。」
お礼を言われたので、私は軽く微笑んで無言の返答をしました。
そしてそのまま桃色髪の少女の様態を確認した私は、少しだけ動揺しました。
この少女…私は最初、精人だと思っていましたが違いました。
「この人…まさか妖精ですか…?でも…どうしてこんなところに…です?」
私はかなり動揺しましたが、すぐにその動揺を捨て去り、怪我人の治癒に集中します。見たところ、この妖精には目立った外傷は少なかったです。ですが、それにしては顔色が悪かったので、私は軽くお腹を押してみました。
「ぁう…っ!いたぃ……」
「す…すみませんでしたです…今楽にしてあげますです!」
どうやら、内臓に損傷があるみたいです。恐らくは戦いの最中、メイスで強く殴打されたのでしょう。生身で打撃を受ければこうはなります。けど、幸運なのは完全に破損していないところでしょう。もし、もっとひどかったら私では治せませんから。
「生命と救済の神よ、致死の傷を負った者の為に、この者に奇跡の癒しを施したまえ。(メディカルヒール)!…さらに!生命と救済の神よ、命消えかけた者の為に、この者に安らぎを与え続けたまえ。(キュアブレッシング)!」
二重の癒しにより、傷はもちろん、彼女を苛む苦痛も少しは和らいだはずです。(キュアブレッシング)は本来は生命力を一定時間だけ回復し続けるものですが、少しだけ苦しみを和らげる効果もあります。
「ありがとね~。…おじ様~!シフたん~!馬車持ってきて~!すぐにここから逃げるよ~!」
「わ…わかったのじゃ!」
「わかったデス!こんなところもう怖くて居れねーデス!」
ゴブリンロリータが手早く、老人とゴブリンの娘に指示を出しました。
やはり、この方たちがメリー青色信徒の交戦相手だったのでしょう。
とりあえず、私も入れるように頼もうと言葉を考えていると、ゴブリンロリータの方がそれを見透かしていました。
「………君も~…付いてくる?」
「……!」
なんと、私を誘ってくれたのです。
確かに私は回復を施しましたが、それでも生命の信仰者であり、この人たちにとって敵であります。
ですから、こんなあっさりと入れる事に喜びよりも動揺の感情が勝りました。
「なんか~事情があるっぽいね~?助けてくれたし~何よりも~青色信徒なら~碧の聖水を作れるでしょ~?ミカたん達は~碧の聖水を求めてここまで来たから、君を歓迎してくれるよ~!」
「なるほど…です。けど、私は生命の信仰者ですよ…?皆様方を襲った人達の仲間で…」
「仲間だったら~なんでここから逃げたいって思ってるの~?その荷物の量を見ればどう考えたって~逃げようとしてるでしょ~!」
さすがはゴブリンロリータです。まさかこんな短時間の間に私を分析できるとは、異端の魔法使いの末裔なだけあります。私にとっては好都合です。とりあえず私は頷いて、乗せてもらいました。
………。
………………。
馬車に揺れながら、私は白い少女達に自身の経緯を語りました。
ゲイル青色信徒に裏切られた事、カタコンベに何日も幽閉された事、キュアミュゥさんに教えられた神の器計画の事、そして…神の代行者に見せられた記憶の数々と…お母さんの言葉を…全て語りました。
「そ…れは……た…大変だった…ね…。」
白い少女が憐れむような目で、慰めてくれました。
同情はされるとうれしいですが、その言葉を都合よく受け止めてしまわないよう気お付けました。
私は白い少女の手を軽く握って見せました。
少女の手は小さくて、まるで繊細な花のように丁寧に扱うよう心掛けたくなるほどに、美しく柔らかくて暖かかったです。
「お母さんが聖都から逃げていいと言ってくれました。…そして…代行者さんが、貴女様に付いていくと良いって言いました。」
「………。」
「私には居場所がありません。故郷では私はもうただの灰色信徒ですから、殺されても誰の気にも止まりません…。一人では簡単に生きてもいけません。」
私は白い少女の目をしっかりと見つめました。少女の灰色の目の奥には何かの感情が渦巻いていました。きっとその感情は私と同じ…いや、それ以上の負の感情でしょう。私がミカに付いていく理由…。
きっと、この子を助けることが…私への試練なのかもしれません。
この試練を乗り越えれば、私は平穏に暮らすことができるはずです。
私は決意を抱き、少女の手を握りました。そして、神ではなくて、目の前の人の子に祈りました。
「初めまして、元青色信徒のシルミア=エレフィーレ…です!」
あなた方を救済する、神の代行者です。そう、私は傲慢に少女達に名乗りました。
白い少女は、最初は驚きましたが、すぐに微笑んでくれました。
その柔らかな慈しみある微笑みは、お母さんを思い出させました。
第二章は完結です。第三章は…個人的には盛り上がる…ようにしていきたいです!




