第46話 壊滅。
ワンチャン修正するかも
びりびりと空気を震わしながら飛んでくる鉄球をマリアは、素早く横に跳んで岩も砕く一撃の直撃を避けた。…が、すぐに鉄球がメリーの方に引っ張られたかと思うと、再びマリアに向かって剛速球で飛んできた。
「…っ!?くっ!!」
何とかマリアは骨の槍を思いっきり振り、鉄球の軌道をずらして事なきを得た。けど、一呼吸の間に鉄球はまたマリアに向っていく。鉄球が地面などに叩きつけられるたびに轟音が響き、私は恐怖と地面の振動で震えた。マリアも槍を突いたり薙いだりして攻撃するが、変則的に動く鎖や鉄球によって全ての攻撃が阻まれてしまっている。
「やあ!!」
メリーは鎖を薙ぎ払った。光に反射して煌めく銀色の一閃はマリアの胴を確実にとらえていた。間一髪のところ槍で防いだが、衝撃に耐えきれず槍は折れマリアは鉄鎖に叩きつけられ、吹き飛ばされてしまった。
「やばいな…殺さないなんてきれいごと言ってられねえな…!」
危機感を抱いたようでアンリはどこからか弓を取り出し、矢を引き絞った。しっかり狙ってアンリは、風切り音とともに、メリーに向かって矢を放った。額に向かって真っすぐ推進する矢がメリーに襲い掛かった!だけど、信じられないことにメリーは何と左足で矢を下から蹴り上げて防いだ。
「なっ…!」
唖然とした表情で固まったがすぐに気を取り戻したアンリが再び矢を放った。今度は精密な狙い撃ちではなく、連続して乱れるように放った。普通なら全身に矢が刺さって死ぬ状況だ。
「きしぃぃぃ…っ!!」
けど、メリーは鎖を高速で振り、全ての矢を叩き落として見せた。そして、鉄球を投げ飛ばして反撃をする。アンリは横に向かって滑り込むようにして回避した。そして、再び弓を構えようとした。
「きゅぁあああああんんんんっ!!!!!」
刹那、メリーはまるで獣のように咆哮を上げながら四足で駆け抜けて、アンリとの距離を一気に詰め込んだ。
「なぁ!?」
「くだけちゃえぇえっ!!!!」
メリーは拳を突き出しながらそのまま体当たりをしてアンリに激突する。
アンリは咄嗟に、装備した盾を構えて防御態勢に入った。けど盾がハンマーで叩き割られるせんべいのように、簡単に砕け散った。そしてまるで車にはねられたかのような衝撃によって、そのままアンリは突き飛ばされてしまった。
「ぐぅぁ…っ!!…っくそ…化け物め…っ!」
そのまま宙を舞う中、アンリはいつの間にか持っていたクロスボウを撃って反撃を試みた。高速に放たれたボルトは真っ直ぐメリーの顔面に推進した。
「があうっ!!」
だが、メリーはアクロバティックに体をひねり、何とボルトを口で捕らえた。
「ぺっ…!」
吐き捨てられたボルトには横の部分に噛み跡が残っていた。本当に口で咥え取ったようだ。
「あがっ…!!」
地面に叩き付けられたアンリが必死に起き上がろうとする。だけど、メリーが振るった剛速球の鉄球が目前に迫っていた。
「あぶない…っ!」
私は震えながら、無意味に声を上げる。普通は、ファンタジー小説とかならきっと、勇気を奮い立たせて助けに入るところだ。でも…どうしよう…怖くて動けない。助けないといけないと心の底から思っているが、恐怖で足がすくむ。あんなのにぶつかったら、ぐちゃぐちゃのミンチだ。
恐怖で固まっていると、パラディンの相手をしていたコロロが、滑り込むようにアンリの助けに入った。
「(ハイパーインパクト)!」
コロロがアンリの前に立ち、手のひらから光の衝撃波を放って鉄球を弾き飛ばした。
「はぁっ!!」
更に、復帰したマリアが分厚い鉈を力いっぱい振り下ろして鎖を切断した。
鉄球はそのまま自由落下して地面にめり込んだ。
「ワタイのてっきゅうが…!」
「よくもアンリ様に傷を付けましたね?今度は…こっちの番です!」
鉈を地面に置いたマリアはサーベルを構え、大きく振りかぶりながら突撃する。メリーは腰に下げてあるメイスとパラディンが持っていたメイスを装備して迎え撃った。
金属と金属がぶつかり合う音が耳を劈いた。攻撃を受け止めたメリーは2本のメイスを振り回して猛撃をする。マリアは軽やかな足さばきで回避して、まるで針に糸を通すような突きを放った。
「きゃん!」
メリーのお腹の左端をサーベルの刃が貫いた。傷を負った部分は赤く染まり血が滴りだした。
「…っ!!やああ!!!」
けど、メリーは悲鳴を上げたが怯むことなく、強引に攻撃を放つ。姿勢を低くして何とか頭を砕かれずに済んだマリア。そのまま後ろに下がって距離を取ろうとした。
「…っ!…?!…抜けない!」
しかしメリーに刺さったサーベルは抜き取れず、つっかえてしまい下がれなかった。
まるで、強い力で掴まれて押さえられているかのようだった。…いや、もしかしたら本当に押さえられているのかもしれない。腹を刺されたとき力を入れて筋肉を圧迫させると刃物を押さえる事ができる。そんなことをどっかで聞いたことがある。なんにせよ、マリアは隙を見せてしまい、メリーの攻撃を受けてしまった。
「かは…っ!!」
胴を鈍器で殴りつけられたマリアは武器を手放し地面に沈んだ。意識は失ってないようで、苦しそうに悶えている。けど、隙だらけのこのタイミングをメリーは一切逃さなかった。
「………っ!!!っぁ……はぁっはぁっはぁ…きゅぅ……!!」
メリーは刺さったサーベルを無理やり引き抜き、遠くに投げ捨てた。
そして、メイスをマリアの頭目掛けて振り下ろした。その情景が嫌にゆっくり見えて世界が灰色になったように錯覚した。まるで、悪い夢で一番印象に残る場面をちょうど見ている気分だ。
このままだとマリアが殺されてしまう。そう考えた時、ようやく私は覚悟を決めた。
私は凍り付いたような体を強引に動かして、閉じた口を開かせた。
「やめて!!!(マジックアロー)!!」
私は悲鳴と共に反射的に魔のスペルを叫んだ。けど、詠唱をしていなかったため、魔法が放たれる事は無かった。……けど、メリーは警戒して後ろに下がり回避をした。そのおかげで、マリアから引き剝がすことができた。私は手を向けて魔法の詠唱を始める。
「内なる力よ、今一度私の為に具現化し、目の前の敵を貫く槍となれ!(マジックスピア)!」
コロロから貰った魔法を目の前の化け物に向かって放った。スペルを読み終えたと同時に淡い光の塊がメリーに向かって直進していく。けど、その弾速は少し遅く何なら槍のように鋭利なんかではなかった。メリーは避けることもなくメイスで叩き伏せた。そして、恐ろしい速度でこっちまで駆け抜けてきた。
「ひ…!」
私は恐怖のあまり目をつぶって、両腕で防御して固まってしまった。メリーはメイスで殴りかかることなく、足払いで私を打ち上げた。
「あぐぅ…!?」
地面にぶつかった私は苦悶の悲鳴を上げる。そのままメリーが馬乗りになって拳を振るい上げる。
「い…いや…!やめて…!お願い…お願い!」
「うまくぼこぼこにできないから、てーこうしないで!てーこうしたら、ぐちゃぐちゃのひきにくにするから!」
「どっちも同じ…いやだ…痛いのやめて…!!」
必死になって命乞いをするさまは、きっと惨めに思うだろう。でも…盾を拳で殴り壊した化け物に滅多打ちにされるかもしれないのだ。恐怖がない方がおかしい。お漏らししてないだけ私は立派だ。あ…でもちょっとだけ、チビった。でも羞恥心は今芽生えなかった。代わりに助かりたいという願いが強まった。
「お願い…何でもするから…。ど…奴隷みたいに足…舐めるから…痛いことしないで…!」
「あしがべちょべちょになるだけだからいらない!とりあえず、しずかになるまでなぐるから!」
命乞いをばっさり切り捨てたメリーは、無慈悲に私の顔に目掛けて拳を振り下ろした。たった一撃で頭が揺れて口の中に血の味が広がった。幸い歯がもげたりはまだしていない。けど、こんなの何回も耐えられない。拷問は経験したからと言っても、痛みになれたり耐性が付いたりしたわけではない。
「ぎゃぶ…!?!……っ!……ひぅ…ぐ…!やあ…!やだ!」
「てーこうしないで!」
メリーが容赦なく拳を一発ごとに力を込めて私の顔や頭に打ちつけていく。
「わるいやつは!かみの!なのもとに!つぶして!つぶして!ぐちゃぐちゃのにくかいにして!ころしてやる!」
顔が血と涙と唾液でぐちゃぐちゃになっているのがわかる。私は文字通りミンチにされてしまうのだろうと死を覚悟した。けど、覚悟はしても死の恐怖は消えなくそれどころか増幅していった。
死にたくない。
心の中で私は祈った。誰かが私をきっと助けてくれる。いや、絶対に助け出す救世主がいる。そうやって都合のいい幻想を抱く。けど、そんな妄想をしていても苦痛が現実に引き戻してくる。痛みと苦痛は絶えず続いている。メリーはまだ殴り続けている。もうやめてと言いたいけど、口を開いたら歯が折れてしまう。今は歯を食いしばって、この凄惨な暴力から耐えるしかない。
けど…もう限界かも。
体の感覚がない。手も動かないし目もよく見えない。うまく呼吸もできない。なのに、音だけは聞こえる。鈍い打撃音とメリーの言葉、誰かの悲鳴と騒々しい足音が聞こえ続けている。私はなんて、惨めなんだろう。……そこでふと、首に掛かったロザリオを思いだした。……そうだ、確かロザリオの加護は…《投石弾きの光波》は衝撃波を放つ加護だった。私は縋るようにロザリオを握り心の中で祈った。
「と…っ《投石弾きの光波》…!!」
「へぇ?…!きゃぁ!!?」
すると、白い光が私を中心に爆発し、馬乗りするメリーを吹き飛ばしてくれた。
メリーは空中で一回転して気絶したパラディンの上に着地した。
「ぐえ?!」
「あ、ごめんなさい…。…よくもやったね!!ワタイもう!てかげんしないから!ほんとにぺちゃんこにしてやる!」
メリーが激昂しメイスを握り直して跳びかかろうと態勢を作った。
「子犬く~ん。アタイと遊ばない~?」
コロロがメリーに向かって挑発をする。薄れる視界の中で確認してみると、パラディン達が全員静かに横たわっていた。私たちがメリーによって壊滅されている間にパラディン達を全て片付けていたようだ。
「…いいよ。じゃまするなら、ワタイがつぶしころしてやる!」
メリーがメイスを一本投げつけ、同時に恐ろしい速度で駆け抜けた。
「内なる力よ~今一度アタイの為に具現化し~敵を惑わす毒電波となれ~」
「くだけちゃえ!!」
投擲されたメイスを避け、メリーの特攻を舞うように回避してメリーに手のひらを向けた。
「(サイケデリックサージ)。」
「きゃ!?」
スペルを呟いたと同時に、手のひらから怪しげな電波みたいな波動が放たれ、メリーにしっかりと直撃した。
「うふふ…犬人は~感覚がすごいって聞いたから~とりあえず、一時的に狂わせてあげたよ~」
「きゃぅ…めがまわる…そこかー!」
メリーは見当違いな方向にメイスを叩きつける。
「残念~ハズレだよ~!えい!(スリープ)!」
「きゃぅ!やあ!えやあ!!」
我武者羅にメイスを振り回すメリーをコロロがまるで、猛獣をなだめる調教師のように余裕で手慣れた作法で魔法を当てていく。
「すごいでしょ~アタイこれでも大昔は~マギア魔術協会で幹部待遇の実力だったんだよ~?(スリープ)!」
「そこかー!…うう!どこだー!」
「まあもう、だいぶ落ちぶれちゃったけどね~。(スリープ)!…それでも、勇者程度の強さじゃアタイには勝てないよ~!えい(スリープ)!」
コロロがメリーの猛撃を余裕な顔で避けながら魔法を当てていく。その動作一つ一つが洗練されていてつい見とれてしまいそうになるほどだった。
しかし、メリーも強者だった。倒れることなく攻撃を一切やめない。
「きゅぁぁああああああああ!!!!!」
じれったくなったメリーは再び咆哮を上げコロロに跳びかかった。
守備を捨てたメリーはコロロを押し倒して、捕らえてしまった。
「わ…強引に捕らえたか…流石~犬人だね~…獣人類内じゃ~下っ端種族らしいけど~…他人類からだと~やっぱり化け物だね~」
「つぶして…つぶしてやるー!!」
疲労の濃い顔色のメリーが、拳を振り上げた。
その後ろでこそこそと何者かが笛のようなものをメリーに向けて吹いた。
「はっ………ふっっ!!」
「…きゃん!」
「けど、真っ直ぐすぎるね~。ちゃんと~周囲を警戒しなきゃね~?例え~ひ弱そうなゴブリンしかいなかったとしても~油断しちゃダメだよ~!」
いつの間にか、メリーの首筋に針のようなものが刺さっていた。
「あ…あ……ワタイ…しっぱいしちゃ…っ!…ラ…ラ…ハブさ…ま…」
メリーは軽く手で触れて確認した直後、糸が解けた人形のように力なく倒れた。
「シフたんよくやったね~後で頭撫でてあげる~♡」
「か…勘違いするなデス!お前がやられたら次の狙いはわたしになるから…!事前に防いだまでデス!」
どうやら、シフが吹き矢による不意討ちをしたことで、メリーの虚を突いたようだ。
勝利を確信した私はマリアの方まで駆けた。
「ぐぐぐ…か…神の……教会に…!!」
唐突に誰かに足をがっしりと掴まれ、私は転んでしまった。原因を確認しようと目を向けるとパラディンの銀のガントレットに包まれた手がしっかりと私の右足を捕らえていた。
「教会に…!聖都の平穏の為に…!器になれ!!教会に…栄光あれ!!!」
すごい力でパラディンに引きずり込まれていく。そして、パラディンの左手には十字架を模った短剣が握られていた。
「ヤバい!シフたん!早くミカたんを助けてあげて!!」
「え?わたしデス?!」
「アタイ今魔法尽きてるから!早く!」
二人は連携が取れておらず、もたついている。私は手を伸ばして助けを求めた。
「お願い…!誰でもいいから助けて…!!」
私は必死になって這い逃げようとした。けど、無情にも地面を搔きむしるだけで終わってしまった。
「やだ!!いやだ止めて!!!誰か!だれかぁ!!助けてぇ!!!!」
「私達の平穏の為に!!死んでくれ!!!!」
「っ…!!………あごっぅ!?…あ…あああああああ!!!」
私は刺されてしまった。わき腹を銀の短剣で深く突き刺されてしまった。
直後、刺されたところが灼熱のような激痛が走り、赤い液体が零れ流れていく。刺された記憶が蘇ってくる。あの冷たい死の恐怖が全身を駆け巡る。息が詰まっていき視界がどんどん曇っていく。私は救いを求め、虚空に向かって手を伸ばした。けど、空を切っただけだった。
ああ、誰か。誰か私を………私に救いを……。
2022/11/14 19:58 メリーの台詞の「足」を「あし」に修正しました。