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嫌われ者の自分が、HP5000の美少女に転生した。  作者: 御狐
第二章 蒼白なる聖女
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第37話 早朝の水浴び。

 意識がぼんやりとする。眠気と言う泥沼から這い上がり、私は目覚めた。

頭を鈍器で殴られた後のような鈍い痛みと振動を感じながら、私は目を動かして周りを確認する。

まず目に入ったのは、布で出来た荷台の天井だった。

次に、私は体に布が布団のように掛けられている事に気づいた。

そして、丁度私の頭側にハローとアンリが小さくいびきを掻きながら爆睡していた。


あれ…私…さっきまでご飯を食べてたはずなのに…なんで…?


どうやら、私はいつの間にか寝てしまっていたようだ。

もしかして、食事中に寝てしまったのだろうか?

そうだとしたら、かなり行儀が悪い。私は心の中で自分をしっせきした。


頭がぼーっとするし…とりあえず、風に当たりたいな…


私は頭痛と眠気で顔をしかめながら、布団から這い出ようとした。


モゾッ モゾッ


今、何かが動いた気がした。しかも感覚的に、多分その何かは私の体に密着している。

「……?」

何だろう?感触的に夢とかではないからもしかしたら、眠っている間にモンスターが忍び込んできたのかもしれない。バイトボールみたいなモノだったらまだよいけど…危険なモンスターだったりしたらどうしよう。


まさかこの前、夢で見たあの不気味なナニカだったりしないよね?


心音がバクバクと耳元で鳴り響く。私は警戒しながら掛かっている布団を思い切って剥がした。

「…っ!?」

私は声をあげそうになり慌てて口を抑えた。モンスターやあの不気味なナニカがいたからではない。

なんと……コロロとマリアが私に抱きついて眠っていた。

右側にはマリアが小さく寝息を立てていた。桃色の髪を下ろしていて、エプロンも脱いでいるようだ。頭のホワイトブリムも外しているから、一瞬だけ誰かわからなかった。だけどキリッとしたかっこいい寝顔を見ると、マリアだと簡単に認識できた。

左側にいるのはコロロだった。淡い金色の髪と褐色の肌が目に留まる。相変わらず露出度の高い姿をしていて目のやり場に困ってしまう。

こんな格好で寝れるなんていったいどういう神経しているのだろうか。もし寝込みを襲われたりしたら…大変なのに。でも、この幸せそうな寝顔を見ると、そういった事とかに無縁そうに感じる。

気持ち悪い例えになるけど、二人の美少女が、まるで私を取り合うかのように抱き着いていた。

余りの予想外の状況に、私は驚いてびくりと飛び上がりそうになった。

コロロの張りのある肌の感触、マリアの温かい体温、そして二人の柔らかな胸、全てが刺激的過ぎた。

動揺のあまり、少し動いてしまった。そのせいでコロロが眠たそうに小さな腕で目をこすりながら、起き上がった。

「……ん。…リリィ様………?……あ。起きたんだね。ミカたんごきげんよう~。」

一瞬だけ寝ぼけていたが、すぐに目を覚まして緩いトーンで私に挨拶をした。

「あ……え…お…おはよう…ございます…!」

「ん~…?今3時くらいかな~…?ミカたん、時間分かってたりする~?」

「え…えっと…ごめんなさい…時間…わかりません…」

「ん~そっか。まあ…まだ5時ではないかな?……ミカたん、マリアとアンリ君を起こしてくれないかな~?」

時間の返答はあまり期待してなかったようで、コロロは軽く返した。そして、どういう訳かマリアとアンリを起こすように指示を出してきた。

「え…?ど…どうして…ですか?」

軽く困惑する私を見て、コロロが簡潔に理由を話す。

「外で~水浴びするからだよ~」

水浴び…なんでこんな朝っぱらから、どうしてそんな事をしないといけないのかと、私は頭の中でぼやいたが、前にサディが女は朝に体を洗う習慣があるって言っていたことを思い出した。


そうだった…この世界には早朝に体を洗う風習があるんだった…。


「わ…わかりました…。」

私はすぐに納得して、私は早速行動を開始した。

まずは私の右下半身に引っ付いているマリアを起こすべく、目を向けた。

「すぅ……すぅ……」

小さく寝息を立てながら眠っている所を起こすのは少し罪悪感を覚えるが、言われたから仕方がない。

私はそう言い聞かせて、マリアの体を少し揺すってみた。

「すぅ……ん…」

しかしマリアは目を覚ますことなく寝息を立て続けている。

「マリアさん…!起きてください…!」

私は少しだけ乱暴に体を揺すって、語気を強めて囁いた。

「んん…むぅ……ん…なんですかぁ…?」

すると、マリアは眠そうな少し籠ったような声を出して起き上がった。

「えっと…朝の水浴びを…するみたいです…」

「水浴び…?…行水の事ですか?」

「多分そうだと…思います。外でするから、2人を起こしてって…」

「…そうですか…わかりました。では…わたくしは皆様のお着換えを用意しますね。それと、体を拭く布も準備します。」

すぐにあのクールな淑女になり、キリッとした顔で荷物をあさりだした。

私はそのままアンリをマリアと同じように起こした。

「アンリさん…!起きてください…!朝ですよ…!」

最初っから語気を強くして、少し強めに体を揺すった。

「んん…あと、10分…だけ…」

「ダメです…!今すぐ起きてくれないと…困る…のです…!」

起きようとしないアンリを、私はさらに強く揺すって目覚めさせた。

「んん~…ふぁぁぁ…あっ…。…ん…………アリサ?どうしてアタシのうちに…?……今日…学校は…休みだったんじゃ…」

アンリはとても眠そうな声で私に確認をしてきた。

だけど、名前を間違えているし、発する声から眠気を感じる。どうやら、寝ぼけているようだ。

私は困惑しながらも名前を訂正させた。

「何を言っているのですか…。私は…ミカです…よ。」

「ん…?あれ?……あ。そうか…そうだったな…。」

「………?」

「ああ…ミカ、おはようだぜ!…こんな時間にどうしたんだ?…トイレか?それとも寝付けないのか?」

「違います…コロロちゃんが、外で水浴び…するからみんなを起こしてって…」

「なるほど~そうか。…少し早すぎる気もするんだが…まあ、外で全裸になるもんな。確かに暗い方が良いか…」

アンリは小さく独り言をつぶやいたと思うと、勝手に納得したようで、「わかったぜ!」と明るい返事と一緒にウィンクを返した。


さて…全員起こしたし…外に出るか。


私は音を立てずに荷台から出た。そのあとすぐに、服やタオルを抱えたマリアと着替えを持ったアンリが出てきた。

ちなみに、ハローは起こしていない。起こせとも言われていないし、何より男だからだ。今からうら若き女子達が裸で水浴びをするのだから、ハローにはもう少し眠ってもらおう。

…なんか護衛対象なのに扱いがぞんざいすぎる気がするけど、まあ…仕方ないよね!

………。

………………。

時計がないから時間はわからないが、少なくてもまだ朝ではない、夜に近い時間だとすぐにわかる。

視界が夜の闇によって殆ど塗りつぶされており、全然見えない。ただ、完全に真っ暗と言うことでは無く時間がたてば目が慣れてきてある程度は見えるようになる。それくらいの暗さだ。

少し風が吹いていて、日光がないからちょっと肌寒い。こんな中で服を脱がなくちゃいけないのは、正直ちょっと抵抗がある。だが…

「ひぇ~ちょっと寒いな…つか…本当に周り誰もいないんだよな…?」

「うん~大丈夫だよ~。アタイら以外だ~れもいないよ~!だから~恥ずかしがらなくても~大丈夫だからね~♡」

「……そ…そうなんかだぜ!ちなみに聞くんだが…どうして言い切れるんだぜ?」

「ん~それはね~ゴブリンロリータの力を使って~この辺りを調べたからだよ~!」

「へぇ~それはすげーな!詳しく教えてくれないか?教えてくれたらいいもんあげるぜ?」

もうすでに二人の美少女が暗闇で一糸纏わない姿で駄弁っている。

いくら真っ暗だからとはいえ、外で裸になれる勇気がすごい。そう思っているとマリアが肩を叩いた。

「ミカ様…わたくし達も行きましょう。」

「え…えっと…先に行ってていいですよ…?」

「………!すみません…!大変失礼を承知で言います…!………ひとりで行くの恥ずかしい…です…!」

モジモジと恥ずかしそうに俯きながら、震えた声で言った。

良く見えないけど、顔が赤くなっているのがなんとなくわかる。

「そ…そうですね……」

「ですから…一緒にいきましょう…お願いします!」

「わかった…です。」

私は手を軽くつないで、二人そろって出た。

なんか、前世の学校にいたある女子2人組を思い出した。その女子達は常に二人で行動していた。

きっと、その子たちも今の私達みたいに一人じゃ恥ずかしいから一緒に行動していたのだろう。

当時の私は理解できなかったが、今になってなんとなく理解できた。

そんなことを考えていると、コロロがニヤニヤとしながらからかってきた。

「ん~ミカたん可愛いよ~♡スラッとしていて~まだちょっとぺったんこだけど~すっごい愛おしい~♡」

コロロに茶化されて、私は顔を赤くした。

「あっはは~初々しい反応が見れて幸せだよ~♡」

「ぅぅ…」

私をからかってからコロロが両手を掲げて、魔法の呪文を詠みだした。

「じゃ、行くよ~!魔の水よ~今一度アタイの為に具現化し~大いなる雨を降らせ~(ヘビーレイン)~」

すると、私達の真上にネオンブルーの大きな魔法陣のようなものが浮かび上がる。

そしてすぐに魔法陣から、少し大きな粒の雨が降り注いだ。

「ひゃ!?」

雨水の冷たさに私は小さく悲鳴を上げた。思っていた以上に冷たかった。

「さぁ~急いで洗ってね~魔法の効果時間は3分だよ~」

私達は各自で体を洗い始めた。みんな、雨水の冷たさに様々な声と反応を示す。静かに洗っていると…

「えい~♡(ウォータースプラッシュ)~」

コロロがアンリに水の塊を放ってぶつけた。パシャンと身体に当たったアンリが、「きゃぁ」とちょっと予想外な悲鳴を上げた。

「やったな~?お返しだぜ!それ!(ウォータースプラッシュ)だぜ!」

アンリが指で銃の形を作って、コロロに水の塊を放った。

「わっ!冷た~い。(ウォータースプラッシュ)~」

「…楽しそうですね。」

「そうです…ね。」

私とマリアは楽しそうに水遊びする二人を達観した。楽しそうに遊ぶ二人を横目に私とマリアは静かに体を洗った。もちろん、お互いに顔を合わさずに洗った。やっぱり同性とはいえ恥ずかしいのだろう。マリアは下を向きながら恥ずかしそうに洗っていた。マリアの気持を読み取って、私も見ないようにした。

雨が止むまで、アンリとコロロの二人は楽しそうに水遊びをして、私とマリアは気まずい空気で静かに体を洗い流した。

………。

………………。

水浴びを終えて、ハローを起こした私達は荷台で待機した。

10分程経って、ハローが水浴びを終えて戻ってきた。そして、固い黒パンを頬張りながら、ハローとアンリが馬車を走らせた。まだ暗いのに出発したが、これはコロロがハローに通常よりも早くアルブに向かうように頼んでくれたからだ。マリアから聞いた話だと、私が寝落ちした後にコロロに事情を話したという。私達の為に行動を合わせてくれるなんて…嬉しいけど、不甲斐ないとも思った。

お礼を言ったらコロロが「いいよいいよ~」と可愛らしい笑顔で返してくれた。

そしてそのまま軽い雑談をして、2時間程経った。

もう話すネタが無くなって、静かに本を読んでいた。

「………。ねえミカたん~」

「はい…?」

唐突にコロロが少し神妙な声色で訪ねてきた。

「ミカたんって~どんな武器を使って戦えるの~?」

いきなりの質問だったが、私は何となく答えた。

「私…武器は使えないです…ただ、魔法は使えるから…魔法を使って戦えます。」

「ん~?武器を使えないって~?縛りか何か~?それとも…本当に使えないの~?」

「はい…何故か使おうとすると弾かれてしまいます…何か、不思議な力によって…」

返ってきた言葉にコロロが訝しんだ。

「それって~生まれつき~?それとも~烙印でも押された~?」

「それは…ごめんなさい……私も…わからない…です」

実際に原因は全くわからない。この体はライフから与えられたものだろうから、どうしてこのようなことがあるのかは自分では解らない。

ただこれだけはわかる。きっとライフが変な縛りを貸せたのだろう。なんで縛りと考えたのかは、簡単だ。こんなモンスターが普通にいる世界で、武器を使えなくされるなんて縛り以外の何物でもないからだ。

だけど、魔法だけは使えるのは救いだ。魔法すら使えなかったら、私は本当に役立たずだからだ。

「ん~…噓の感情は見えないから~本当のこと言っているね~?」

少し困惑しているような声で、コロロが確認をする。

「はい…噓じゃないです。」

「そっか~。…じゃあお願いをするね~」

「何ですか…?」

「今から何が起こっても慌てないで、アタイの近くに居てね~。そして~できる限りアタイの指示に~従ってね~」

唐突に、コロロが妙なことを言い出した。「どうして?」と聞こうと口を開こうとした次の瞬間!

「来た!伏せて!」

そう言ってコロロが私とマリアの手を引っ張って、強引に下に伏せさせた。

「…っ!コロロ様…何を…」

瞬間、私たちの頭上を何かが通り過ぎて行った。シュバババっと軽快な風を切る音がいくつか聞こえたと同時に、前方から馬の悲鳴とハローの慌てる声が聞こえてきた。何となく上を見てみると、布に穴がいくつも空いていることに気が付いた。

「わ…わわ…!」

ガタゴトと物凄く揺れる。積められた物が揺れに合わせて転がり、荷台の中が軽くミキサー状態になっている。たった数秒しか経っていないのに10分以上続いたように錯覚した。だが外から聞こえた風を切る音と馬とアンリの悲鳴と同時に、揺れは終わりを迎えた。

揺れが収まって周りを見渡すと、酷い有様だった。荷物がぐちゃぐちゃに散乱しており中には壊れたり破けたりしているものもあった。そして…外から二人であろう声と何者かの声も聞こえた。

「…27。27の悪意を感じる~。」

「27の…悪意ですか?」

「うん。周りを囲むように分散しているから~間違いなく襲撃されているね~。あ~あと、これは~二人とも人質にされたね~二人に密接する感じに悪意を3つ感じる~」

冷静にコロロが状況を判断した。私はこっそりと頭を上げて開いた穴から覗こうとした。

「ダメだよ~。」

コロロが私の頭を、上から軽く押して下げさせた。

小さな声で一言注意をして、マリアの耳元に口を近づけた。

「マリア~今持ってる武器、全部教えて欲しいな~。あ、もちろん小声でお願い~」

「……。今持っていますのは、この【鉄製のシミター】と【牛飼の鞭】、【仕込み短剣】が12本ほどですね。あと、【神霊樹の枝】も持っております。一応、わたくしの鞄の中にもいくつか武器は入っておりますが…手持ちの物はこれで全てです。」

「わ~凄い持ってるね~。さすがメイドだね~。………じゃあ…作戦を言うね。絶対に相手に聞こえないように小さく言うから、ちゃんと聞いてね。」

コロロがさらに小さく、マリアの耳元で囁いた。近くに居るのに私には全然聞こえなかった。

「なんて言ったのですか?」

「しぃ~。…とりあえずミカたんはアタイに合わせてね~。絶対に余計なことしちゃだめだからね~?」

「わ…わかり…ました。」

「じゃあ~マリア~、君の腕に期待するよ~」

「はい。お任せください。…しかし本当に大丈夫なのですか?もしコロロ様の想定通りの配置では無かったら…」

「大丈夫~そうなってもいいように~アタイがうまい感じの場所にいるからね~。マリアはただ、左と右の2体を狙えばいいから~その事に集中してね。」

コロロは手を握って私の目を見て言った。その目は真剣だ。きっと私にも作戦を与えるのだろう。何を言われてもいいように私は心の準備をした。

「じゃあミカたん~。アタイと一緒に人質になろっか~」

そう言ったコロロはとても清々しい笑顔だった。

考える間も与えられず、私は手をがっちりと掴まれて外に連れられて行った。

次回はお久しぶりの戦闘です!

お楽しみに…!

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え?人質? 随分と奇抜な作戦~
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