第2話 路地裏のよろず屋でお買い物。
2人の男女と仲間になった私は今、路地裏の奧にある店の前にいる。
扉には、歪んだ鉄製の盾がかけられていて[旅人の通り道]と綺麗な文字で店名が書かれている。
「えっと…ここは?」
「ここは、よろず屋。いろいろな物を売ったり、買取なんかをしてくれる場所よ。」
「なるほど…」
「…とりあえず、ここでアンタの装備を揃えるわよ。モンスターと遭遇して何も抵抗できなかったら、すぐ死んでしまうからね。」
「は…はあ…あの、ちょっといいですか?」
「…何?」
サディが私を軽く睨む。軽く睨まれただけなのに、背筋がぞっとした。
「ひ…えっと…モンスターってどういうところにいるのですか?」
「…アンタそんなことも知らないの?!はぁ…そんなのそこら辺にいるわよ。わざわざ説明したくないわ。面倒くさい。」
サディがすごく不機嫌そうにため息をする…この人とはあんまり関わらないようにしようかな。
「ま…そんなことより早く済ましてレベル上げしようぜ!」
私達のやり取りを見ていないのか特に気にした様子もなく、ダストは大げさに扉を開け店に入った。カランカランと小さな鐘の音と、「いらっしゃいませー!」と店員さんの元気な声が響いた。
店の中は思っていたよりも広く、見た感じ品ぞろいも良さそうだ。
私達はそれぞれが欲しいもの見て回ることにした。
「これは何だろう…?」
私は能動的に、羊皮紙の巻物を手に取った。
「それは【マジックスクロール】だぜ!お客さん!」
そう言いながら店の奥から青いバンダナをしたオレンジ色の髪の少女が出てきた。
出てきたところと私をお客さんと呼んだから、この店の店員さんだろう。その店員さんは「ニシシッ!」と笑いながら巻物の説明を始めた。
「【魔術紙】とも呼ばれているぜ。これは開くと特定の魔法が使えるようになる非常に便利な代物だぜ!」
店員さんの言葉の中にあった一つの単語を聞いて、心が躍った。
どうやら、この世界には魔法があるらしい。ステータスの時点で、思っていたことだが、本当に異世界に来ているんだと実感する。
「へえーそんなものがあるんですね!ちなみに、これは何の魔法が使えるようになるんですか?」
「ああ、それは(マジックアロー)のスクロールだぜ!誰でも使えて、消費MPもそんな高くないマジック系初級攻撃魔法だ!一般的には自衛用って認識だな!」
「そうなんですか!…買います!」
消費MPが少ないと聞いて、私はすぐに買うことを決意した。
「よし!お代は銀3枚だぜ!」
「わかりました…はい!」
私は小さな革袋から銀貨を3枚取り出して、店員さんに渡した。
どうやらこの世界ではお金は、銅貨、聖銅貨、銀貨 聖銀貨、金貨となっているらしく、聖がつくものはデザインが豪華で違いが判る。
一番価値が低いのは銅貨で、聖銅貨1枚は銅貨10枚ぶんで、銀貨1枚は聖銅貨10枚ぶん、聖銀貨1枚は銀貨10枚ぶん、そして金貨は聖銀貨10枚の価値になっている。
この事はダストが「常識がわからなそうな奴だから!」といって説明してくれた。
ちなみに私の所持金は銀貨15枚だった。
「で…どうすればいいですか?」
「スクロールを開けば使えるようになるぜ。」
私はスクロールを開いた。
何か書いてあるが読めない。じっと見つめていると視界にウィンドウが表示された。
ウィンドウには(マジックアロー)を習得しますか?…と書いてあった。私は習得すると強く念じた。すると突然、頭の中に奇妙な言葉が思い浮かび上がり無意識のうちに呪文を口ずさんだ。
「内なる力よ、この魔法を私の魂に刻み込め。」
瞬間、スクロールが激しく光り、書かれていた文字が宙に浮かび私の胸に吸い込まれた。
そして視界に再びウィンドウが表示された。習得完了、と書かれていた。
「これで使えるようになったはずだぜ。ああ、試し撃ちをするんだったら町の外でやってくれよ!じゃないと捕まるぜ!」
「はい!あ…あとこれください!」
私は近くにあった短剣とポーチを店員さんに渡した。魔法が衝撃的過ぎて忘れていたが、私達は装備を買いに来たのだ。魔法だけじゃなく武器も買わなくては…
「【護身用短剣】と【アドベンチャーポーチ】…合わせて、銀6枚だぜ!」
「はい」
私は銀貨を6枚渡した。
一気に半分くらい無くなって、少し寂しくなった気がする…。
「おお…お客さん…太っ腹だな!気に入ったぜ!アンタ、名前なんて言う?」
「え?!ミ…ミカです。」
「ミカか!覚えたぜ。アタシはアンリ![旅人の通り道]の店主の娘だぜ!よろしくな!」
アンリが握手をしながら「これは友情の証だ。買ってくれ。」と言いながら怪しげなペンダントを渡してきた。
「えっと…これはなに?」
「これは運がよくなるといわれている魔法のペンダントだ。こいつは古い遺跡から持ち帰られた遺物なんだぜ。普通なら恐ろしく高いんだが…アンタはアタシの友人だ!おまけして金3枚で売ってやるぜ!」
「え…遠慮します。」
流石に要らないので私は断った。だが、アンリがどんどん売りつけて来る。
…この流れは非常にまずい。
私は押し売りに弱いから、このままでは必要ない物も買わされてしまう。
この状況をどう打開するか…
「そろそろ行くぞ!」
悩んでいるとダストが私に声をかけてきた。ナイスタイミング!
「じゃ…じゃあ私たちはこれで…」
私はそそくさと逃げるようにして店を後にした。
アンリが「またのご来店お待ちしてますぜ~!」と、手を振って笑顔で見送ってくれたが…私は気付くことなく、そのまま歩いて行った。