第1話 私、ミカはこのゲームのような世界で強くなる!
「あ…」
さっき大きな声を出したせいで、人が集まってきた。…みんなが物珍しそうにこちらを見て来る。
気まずくなった私は立ち上がり、そのまま人目が少なそうなところまで走って逃げた。
「はあ…はあ…」
路地裏まで逃げ込んだ私は、壁に寄りかかり息を整える。
…おかしい。
全速力とはいえ、たった数秒しか走っていないのにもう息が乱れている。それに走る速さも遅くなっていた。明らかに前よりも体力が弱くなっている気がする。
…もしかして、あの神様私を騙したんじゃ…
『ボクは騙していないよー』
「ひぅっ!!!?!」
突然声が聞こえて、私は飛び上がってしまった。
きょろきょろと周りを確認しても、誰もいない。
『あははは!驚かせちゃったかな?ごめんごめん』
「この声は…」
子供特有の高い声とこの雰囲気…間違いなくライフだろう。
『そうそうボクだよライフだよー。実は君に言い忘れたことがあってね。』
「…何ですか?」
『君…自分のステータスって見た?』
「見てません…どうやって見るのですか?」
ステータスとは、ゲームとかではよくある能力値のこと。
ゲームならボタン1つで見ることができるけどここはゲームではない…はず。
自分のステータスなんてどうやって見るのだろうか?そう考えているとライフが指示を始めた。
『えっと…目を閉じて3秒くらいするとアイコンみたいなのが見えるから…そこに意識を集中させて…それから目を開けてね!』
私はライフの指示通りにした。
「-!!」
すると、ゲームでよく見るメニューウィンドウのようなものが目の前に現れた。
現実感の無いこの現状に若干の違和感を覚えたけど、それと同時にワクワクと胸が高く脈打ったのも実感した。
【ミカLv1】
頭 無し
上着 【普通のワンピース】
下着 【白いショーツ】
足 【安価な靴】
装飾品 無し
武器 無し
『できたようだね…じゃあ早速ステータスを確認して!』
「-。…。できた。」
表示された自分のステータスを確認する。
上から下へ段々と目線を下ろして、また上に登っていく。
それらの反復を繰り返して、私はある事に気が付いた。
【ミカLv1】
HP 5000
MP 10
器用値 5
速度 3
攻撃力 1
魔法攻撃力 0
魔法回復力 0
「-!?」
私は言葉を失った。
なぜなら、HP MP 器用値 速度 攻撃力 魔法攻撃力 魔法回復力の7つのステータスの中で、HPだけが異常に高く、なんと5000もある。
それなのに他のステータスはかなり低い状態だった。
「えっと…これはどういうこと?」
『ん?何が?』
「なんでHPだけがこんなに高くて、他のステータスが低いんですか!?全然強くなってないじゃないですか!」
頭に血が上り、私はライフに抗議する。
だけど、ライフはとぼけたような息を漏らした。
『え…ボクは強いと思うよ?』
「どこが!?」
『だって初期からHPが5000もあるんだよ?モンスターに襲われても簡単には死なない。充分強いでしょ!それに…ボクは君の願いを叶えてあげただけだよ?』
ライフが呆れたような声色で言った。
そして彼の何気なく出た発言に疑問を抱いた。
私は、そんなことを願っただろうか?…いや、そんなことを願った記憶は無い。
『はあ…話を戻すよ。いいかな?」
「…。」
正直まだ言いたいことはあったけど、これ以上ライフに問い詰めたとしてもライフは答えてくれそうにない。
私は素直にライフの話を聞くことにした。
『今、君にしてもらったことは、ステータスの見かた…本題ではないんだ。』
「…本題は何ですか?」
『…君には強くなってもらう。』
「どうして?」
『それは言えないね。君にはこれから仲間を作って、旅に出てもらうよ。そしてモンスター達を倒してレベルを上げたり、ダンジョンを攻略して財宝を手に入れたり…この世界を救ったりしてもらうよ!』
ゲームのシナリオのような内容の本題を聞いて、私は怒りを忘れて興奮する。
ステータスの件ではちょっと…いやかなり幻滅したが、この際水に流そう。
『言いたいことは言ったから…ボクはこの辺で失礼するよ。じゃあね!!』
声が聞こえなくなった後、私は周りを確認し、私はこれからのことを考えながら路地裏を後にした。
「…冒険でもしてみようかな。でも私一人では無理だから…誰か仲間になってくれないかな…」
「それなら…俺たちが仲間になってやるよ!」
「…え?!」
独り言をしていたら急に後ろのほうから男性の声が聞こえた。
振り返るとそこには2人の男女がいた。あ、男性と私の目が合った。…。
「よお!」
男性は金髪で背が高く、イケメンだ。
「…ちょっとダストくん!…勝手な事、言わないでよ…!」
女性の方は真っ赤な髪とモデルのような容姿が特徴的だ。
2人ともボロボロのマントを着ている。
「あの…あなた達は…」
「俺はダストだ!こっちはサディ…俺たちは見ての通り旅人だ。お前は?」
「え?えっと…私はミカって言います。…えと、よ…よろしく?」
初対面なのになんか凄い馴れ馴れしい。ちょっと引いたが、不思議と悪い人には見えない。
…もうちょっとだけ、会話を続けてみよう。
「よろしく!ところでさ、お前…さっき仲間が欲しいって言ってたよな?」
「は…はい!…それがどうかしましたか?」
「実はな…ちょうど俺たちもお前みたいな仲間を探してたんだ。あ~だから、もしよかったら俺たちの仲間にならないか?」
ダストの誘いに、私は少しドキッとした。
私は今まで、誰かに誘ってもらったことなどなかった。
まさかただ歩いていただけで誘われるとは思わなかったが、私は嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
…もしかしたら自分を変えることができるかもしれない。
今度こそ人生を楽しめるかもしれない。私の中で期待が膨らんだ。
「…よろしく…お願いします!!」
前の私では決して作ることができないほどの…とても明るい笑顔で私は答えてみせた。