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嫌われ者の自分が、HP5000の美少女に転生した。  作者: 御狐
第一章 新しい人生の始まり
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第23話 北風の亡国のレディ、ペコラ=シノウーニャ

 「やあぁ!!」

私はペコラとの距離を一気に詰めて、剣を素早く突いた。

「ふん…遅い。」

ペコラは華麗に避けて、レイピアで斬りかかってきた。

剣を使い、攻撃を受け止める。甲高い音が耳をつんざき、重い衝撃が剣伝いに私に届く。


こんな力で斬ってきているのに、なんであの剣は折れるどころか刃が欠けないのだろう?


とても気になるけど、今はそんなことを考える余裕はないかな。

私はペコラのレイピアが剣に当たった瞬間に、思いっきりはじいた。

バランスを崩して、ペコラは隙を見せた。

「く……小癪な…!」

「うやぁ!!」

私はペコラの顔に蹴りを入れた。そして畳みかけるように連続で斬りつけた。ご主人様がよく使っていた技、《八重斬り》という技だ。10秒間、計八回の斬撃を与えて私は距離を開けた。

荒くなっている呼吸を落ち着かせながら、倒れたペコラの様子をうかがう。


魔法で強化された剣であんなに斬られたら、普通は死ぬはず。


でも、私は油断を一切せずペコラに注視する。なんとなく、死んでいない気がする。

「く……ぐ…う……!」

ペコラは起き上がり、鋭い目で私を睨みつけた。どうやら、私の勘は当たったようだ。

「この…!獣風情が…!!この妾を怒らせた事を後悔させてやる!!」

ペコラは赤い液体の入った瓶を取り出し、左手で握りつぶした。

ツンとする嫌な臭いで、私はその液体の正体に気付いてしまった。


あれは…間違いなく人の血液だ…。


なんで人の血液が入った瓶を割ったのかわからない。けど、ペコラにとっては意味があるのだろう。ペコラの気配が重々しいものになったのがわかる。私は剣を構え防御する。

「魔の風よ、今一度妾の為に具現化し…」

ペコラの詠唱に私は困惑した。何故なら、詠唱している魔法が風の魔法だからだ。風の魔法は攻撃力が極めて低く、完全に強化した最上級の魔法ですら、まともな攻撃にならないからだ。せいぜい、浅い切り傷をちょっとつける程度の火力しかない。そんな風の魔法をわざわざ使うなんて、一体どういうつもりなのだろう?

「…敵を切り裂く刃となれ!!(ウィンドエッジ)!!」

ペコラは詠唱を終えたと同時に、左手を横に振った。

何も起こらない?…と思った次の瞬間!

「ーっ!!?な…なに?」

剣に重い衝撃が走り、後ろに倒れそうになった。後ろには倒れなかったものの隙を見せてしまった。

ペコラは一瞬の隙をつき、赤いレイピアで私の右肩を深く突いた。

「ーっ!!…うやあ!!!」

私はペコラを蹴り飛ばし、肩に刺さったレイピアを抜き取った。

抜き取ったレイピアはどういう訳か、灰のようにボロボロになって崩れてしまった。

私は歯を食いしばって痛みに耐える。刺された右肩が異様に痛む。


ズキズキして、泣きたくなるほどにひどい痛みだ。


でも今は泣いてる場合じゃない。私は剣を両手で持って、構えた。

「フフフ…痛そうだな?これ以上抵抗をしなければ、楽にしてやっても良い。」

ペコラは偉そうな態度で私に提案をした。

「これくらい…へっちゃらだよ…!わざわざ心配してくれるなんて、優しいね!」

「…ふむ。…気が変わった。おまえはできる限り苦しめて殺してやる。」

私の返答を聞いて、不快になったのだろう。

ペコラは赤くぎらついた目で私を睨みながら、私に向かってきた。

ペコラは爪を立てて引っ掻いた。たったそれだけなのに、服が切り裂かれ体に無数の傷跡ができた。

私は急いで後ろに下がり距離をとろうとした。だが、ペコラは跳びかかって私を押し倒した。

ペコラは怪しい目で私を見ながら、何故か舌なめずりをしている。ペコラは大きく口を開けて、なんと私の右肩に齧り付いた。

「………。………………。うむ。獣のくせになかなか美味いな。おまえさては裕福な生まれだな?」

ペコラは、私の耳元で囁くように訊いてきた。ペコラの小さな息遣いが聞こえるほど距離が近い。

私は身をよじって拘束から逃れようとした。だけどそんな私をペコラは嘲笑うように囁いた。

「また気が変わった。おまえを我が主の献上品にしてやる。なに、心配するな…殺しはしない。ただ……まあそうだな…抵抗できぬように、腕と脚を切り落とすとしよう…。」

ペコラは恐ろしい事を言いながら、私の右肩をゆっくり舐める。傷口から血がにじむたびに、ペコラは口を付けて私の血を吸う。


どうしよう…絶体絶命だ……。


私は必死に考える。

むちゃくちゃに暴れる?…両腕が押さえつけられていて、暴れれない…!

魔法を使う?…そんな事をしたら舌を抜き取られそう。

説得をしてみる?……絶対に無理かな…。

どの考えも今の私では実現ができない。


…ここは素直に諦めるしかないのかな?


私は力を抜いて、抵抗を止めた。ペコラは私が力を抜いた事に気が付いたらしく、顔をにやけさせて高笑いをし始めた。

「カッハッハッハッハッハッハッハッーー!!!そうだ!最初っからそうすれば良いのだ!この妾に勝てるなどと愚考をしたのが間違いなのだ!!嗚呼…我が主よ!妾は…妾は我が主のお役に立てる事を心から感謝をする!!」

ペコラは今、きっと良い気分になっているだろう。私もご主人様がいたから、ペコラの気持ちがよくわかる。そして…私はこの瞬間を待っていた。私は全力で暴れて両腕の拘束を解いた。

「な…!?お…おまえ…!!!」

「…ごめんね!」

私はペコラを押して拘束から逃れた。ズキリと右肩が痛む。


右手は……今は使えなさそうかな?


私は左手で剣を構え、ペコラに注目する。

「おまえ…妾を騙したのか?妾の我が主への純情を…コケにしたのか??」

ペコラはわなわなと体を震えさせ、信じられないものでも見たかのような目で私を見つめる。

どうやらペコラは完全に狼狽しているようだ。私はここで飛び切りの暴言を言ってやった。

「あれ?さっきわらわは騙されない!って言ってなかったっけ?それなのになんで騙されたのかな?…ペコちゃんはもしかして……おバカさん?」

プツン…とペコラから血管が切れた音が聞こえた気がする。ギリギリと歯ぎしりの音と呻く声が聞こえ始めた。相当悔しそうな顔で、私に指をさした。

「この家畜風情が!!!妾を愚弄してただで済むと思うな!!!その舌!その腕!その脚!そしてその尻尾を!妾の魔法で斬り飛ばしてくれる!!!!」

ペコラは怒って我を忘れている。この隙に私は目を集中させた。

「魔の風よ!今一度妾の為に具現化し!敵を切り裂く刃となれ!!(ウィンドエッジ)!!!」

詠唱をして、手を横に振った瞬間。半透明の刃のようなものが、恐ろしい速さでこっちに向かってきた。目の感覚を強くしたおかげで、見ることができた。さっき剣に来た謎の衝撃は、これだったようだ。

私はペコラに向かって走り出した。ギリギリでジャンプをして、風の刃を避けた。すると、ペコラは顔をしかめて、再び詠唱をする。

「魔の風よ、今一度妾の為に具現化し、敵を切り裂く刃となれ!(ウィンドエッジ)!!」

ペコラは縦に手を振り真空の刃を放つ。私は横に避け、真空の刃をかわした。

「ちぃ…!!ちょこまかと…!なら、これはどうだ!?(ウィンドエッジ)!(ウィンドエッジ)!!」

今度は少し斜めの真空の刃と、横の真空の刃を同時に飛ばしてきた。しかも、詠唱を省略してだ。

これは、《詠唱短縮》と言う高度な技術で、威力を犠牲にする代わりに詠唱を極限まで短くする技らしい。

魔法を使いながら戦う魔法騎士と言われる人たちがこの技を使うってご主人様が教えてくれた。

威力が落ちているとは言え、直撃して良いものではない。私は身をひるがえして、真空の刃を避けた。

「な…何故避けられる?!おまえ…何をした!!!」

「何もしてないよ!ただ目で見て、避けているだけ!」

私の返答を聞いたペコラはさっき騙された時よりも、動揺した表情になった。

「ありえない!!風の刃を見るなんて…そんな事、我が主でも出来ぬというのに…!!おまえ…!!本当にただの獣人か!?………な!」

ペコラとの距離を一気に縮めた。私は剣先をペコラの心臓部分に合わせ勢い良く突いた。


ご主人様が一番得意だった技、《一点突き》だ。


剣を持っている手が左手で、しかも怪我をしている。そのうえ、目に意識を集中させているせいで、威力は弱い。


…けど、心臓を突けば、致命傷になるはず…!


剣先がペコラの胸に埋まっていく。深く行けば行くほど、ペコラの気配が若干弱まっていく。

「ぐぅぅ………!!!おのれ…!!下等…生物が!!!!!」

「やああああああああああああああああ!!!!!」

私の左手と剣の鍔にペコラの胸が当たる。剣が完全に体を貫いた。

ペコラは口から血を吐き出し、よろめいた。

私は剣をグリッと捻り、ペコラを思いっきり蹴り飛ばした。

「がはっ………はぁ……………はぁ……………はぁ………くっ!!」

胸を押さえながら、青い顔で私を睨む。ただその顔は、さっきまでの怒りとは別に悔しそうな表情だった。

「こ…この妾が……下等生物一匹に……ここまで苦戦するとは………うぐぅぅぅぅ………!!」

ペコラは唇を嚙みながら、私に指をさした。警戒して身構えていると、わなわなと震える唇を動かした。

「い………いいか!?…今回は妾の負けとしよう!!次こそは…おまえを殺してやるからな!!!」

情けない声でそう言い残して、ペコラは真っ黒な影のようなモヤになって姿を消した。

それと同時に、この場を満たしていた重苦しい圧も消失した。

「………。……はあぁ~…疲れたぁ…。」

私はぺたんと、地面に座り込んだ。

怪我をしているのに、無理に体を動かしたせいで体中が痛い。


右肩が特に痛いかな…血がさっきからずっと出ている。


私はズタズタになった革の鎧を脱ぎ捨てた。そして破れた服を脱ぎ、右肩に包帯のように巻き付けた。

「止血は…これでいいや。」

私は背負っている鞄から、【治癒のポーション】を3本ほど取り出して、一気に飲み干した。


これで、全回復した…のかな?


傷が塞がらないのがちょっと不安だけど、屋敷に行けば多分、回復アイテムがあるはず。

「一旦、戻ったほうが良いかな?………アンリちゃん~!一旦、お家に戻ろう~!」

私は座ったまま大声でアンリちゃんに伝えた。

「よし………あと7体!……あ!みぃか!そっちは終わったぽいな…こっちもすぐ終わらせるからちょっと待っててくれだぜ~!」

どうやら、アンリちゃんは笑う死体と戦っている最中のようだ。笑う死体の数はだいぶ減っていて、アンリちゃんの足元に大量の亡骸が転がっている。矢が刺さっている亡骸が半分以上あり、おそらく私がペコラと奮闘している間、ずっと石弓で戦っていたのだろう。


あれ?でも、今のアンリちゃんは石弓を持っていないみたい。


武器を変えたのかな。アンリちゃんは石弓の代わりに、左手に短剣を握っている。

よく見ると…その短剣は石で出来ているようで、苔のようなものがいっぱい生えている。

「グガアアアアアア!!!」

ボロボロの鎌を持った死体がアンリちゃんに襲い掛かった。

アンリちゃんはかがんで攻撃を避け、死体の懐に潜り込み、苔の生えた短剣を突き立てた。

「ガ…ガポッ………」

「…おやすみなんだぜ。」

刺された死体は、濁った血を吐き出しながら崩れるように倒れた。

アンリちゃんに死体が次々と襲い掛かってくるが、アンリちゃんは最低限の身のこなしで避け、的確に急所を刺していく。一気に数が減り、最後の一体になった。

「グオオオオオオオ!!!!!」

最後に残った死体は、錆びついた鎧に身を包む屈強な男の人の死体だ。身なりからしておそらくは騎士だった者だろう。鎧を着た死体は鎖でつながれた鉄球をぶんぶん振り回し、アンリちゃんを威嚇しているようだ。アンリちゃんはジッと敵を注視する。

「………厄介なのが最後に残ったか…」

「グオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

鎧を着た死体は鉄球を飛ばした。アンリちゃんはギリギリで避け、鎧を着た死体に向かって走り出した。

「……こいつはサービスだぜ…!」

アンリちゃんはジャンプをして、鎧を着た死体の顔にまたがった。視界を遮られた死体はむちゃくちゃに鉄球を振り回して暴れた。アンリちゃんは苔の生えた短剣で、兜の上から滅多刺しにする。

「ガアアアアアアアア!!!!!ガオアアアアアアア!!!!!!」

死体が動かなくなるまで、アンリちゃんは手を止めなかった。死体は13回刺され、ようやく動かなくなった。

「よいしょ…と。ふぅ…緊張したぜ…!」

額に滲んだ汗を拭いながら、アンリちゃんは私の所まで来てくれた。

「お疲れさま!アンリちゃんすごかったよ!途中からしか見れなかったけど、かっこよかった!」

アンリちゃんは頭を搔く仕草をしながら明るく笑った。

「そうか…にへへ!ありがとな!みぃがアイツと戦ってくれていたから、こっちに集中できたんだぜ!つまり、アタシはみぃのおかげで勝てたんだぜ!」

アンリちゃんは親指を立てて、私を褒めてくれた。嬉しくなった私は尻尾を振った。

「私も、アンリちゃんがラフィンコープス達の相手をしてくれたから、ペコラとの戦いに集中できたんだ!だからね…アンリちゃんありがとう!!」

私はアンリちゃんを褒め返す。アンリちゃんは顔を赤くして照れた。

「にへへへへ…あ…ありがとな!…よし!一旦、みぃの家に帰って一休みしようぜ!」

「うん…!そうだね!先に帰ってミカちゃんたちを待とう!」

私とアンリちゃんは手をつなぎながら、屋敷まで歩いた。

途中、傷が痛んで歩く速さが遅くなったりしたけど、アンリちゃんは私の歩幅に合わせて歩いてくれた。

アンリちゃんの優しさと気遣いの上手さに、私は再び驚かされた。

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