第21話 桃色の淑女、マリア。(挿絵アリ)
2023/4/1 挿絵を追加しました。
「ふぃ~食った食った~のぜ!いいものを食べれて、気分も良いんだぜ!」
最後にアンリが食べ終えた事で、朝食の時間は終わりを迎えた。
マリアは食器をすべてワゴンに乗せてせっせと洗いに行ったようだ。
「さて…お腹いっぱいになったことだし、食後の運動にでも行こうぜ!」
「そうだね!マリアが戻ってきたら、外に行ってモンスターを倒そう!」
アンリは右腕を回す仕草をしてやる気満々のようだ。
そしてみぃも使命に燃えた目をしている。
「しかし森なんだろ~?獣共を見つけるのが少し大変そうだな…。」
その発言は少し怠惰だったが、アンリの言う事はもっともだ。
この見渡す限りの森でモンスターを見つけるのはちょっと大変だと思う。
前にサディ達と来た時は結構簡単に遭遇したけど、今回もそうだとは限らない。
「だったら、それぞれ分かれるってのはどうかな?そうすれば、効率良く見つけて倒せると思う。」
みぃの提案を聞いたアンリは少し考えこんだ。
みぃの提案は悪くないと思う。
ただ、どういう風に分かれるのだろう?一人一人別れるとかは…さすがに無理があるかも……。
そう考えていると、アンリが口を開いた。
「なるほど…いいと思うぜ!じゃあ…二手に分かれて、獣共を…モンスターを狩るか?」
アンリもどうやらみぃの案に乗っているようだ。
二手に分かれる…私達は全員で4人だから確かに理にかなってる。
なら、私は誰とペアになるのかな?
…やっぱりみぃかな?
「そうだね!じゃあ…私とアンリちゃんの二人組と、ミカちゃんとマリアの二人組で分かれるのは…どうかな?」
みぃの考えた組み分けを聞いて、かなり失礼だけど…心の中で軽く舌打ちをしてしまった。
みぃと一緒がよかった……。
見当違いな嫉妬で、みぃとペアになったアンリに羨望のまなざしを一瞬だけ向けた。
…一瞬だけ目が合いそうになって、すぐに逸らしたけど。
「なるほどな~みぃはてっきりミカと一緒にするのかと思ってたぜ。」
「うーんと…ミカちゃんとは、前に一緒になって戦った事があるけど…アンリちゃんと一緒に戦った事は無いから今日はアンリちゃんと一緒に組みたいな!」
そう、みぃは無垢な子供のような笑顔で理由を言ってくれた。
そうだ、私は既にみぃと共にした事がある。
試練に挑むため、みぃは全員の実力を把握する目的を持っているのに対し、私はピクニック気分でいた事を気付かされた。
「うう…みぃちゃんが…まぶしいぃ………」
「なるほど、アタシはそんなにだけど…良いのか?」
アンリがみぃに訊いた。
…みぃの顔は変わらない。
多分だけど、良いってことなのだろう。
「………。そっか!じゃあ頼らせてもらうぜ!みぃ!」
アンリも同じように捉えたようで、ニカッと裏表のない笑顔になった。
「……二人とも……笑顔が似合うな…。」
「ええ。そうですね。」
自分の隣にいつの間にかマリアが立っていた。
無関心そうな表情をしているけど、その目は柔らかく二人を眺めているようだ。
「あ。マリア、聞いていたんだ!」
「はい。聞いていましたよ。森でミカ様とわたくしが、魔物を狩れば良いのですね。」
マリアが自身の役目を確認をする。
それに対して、みぃは頷いて応えたようだ。
「…承知しました。それでは…早速行きましょう。」
「うん!行こう!」
「くぅ~腕が鳴るぜ!」
そうして、それぞれの相方を確認しあった後、私達は簡単な装備を用意して玄関を出る。
私達は気を引き締めて、それぞれの方面の森に向かった。
………。
………………。
外に出た私達は、二手に分かれた。
マリアと私は徘徊するモンスターを探して森の中を歩いている。
ただアンリの懸念通り、なかなかモンスターが現れなくて、20分くらいずっと歩き続けている。
その間、ずっと無言で謎に緊張した。
何か話しかけるべきなんだろうけど、話す内容が思いつかない。
それでも何か話すべきだと思い、私は勇気を振り絞って言葉を紡いだ。
「あ…あの………マリアさんって…その…つ…強いのですか……?……っぁ!」
言い切った後に私は、慌てて自分の口を抑えた。
バカ!バカ!私のバカ!
ほぼ初対面の方に、訊くようなことじゃないのに。私は何を言っている!?
失礼すぎた。
怒られると思った私は、マリアの反応をびくびくしながら窺った。
「……経験とレベルの多さなら、皆様よりも上だと自負します。ただ、強さは皆様の方が上になられるかと、思います。」
ただ予想に反してマリアの反応は、強いと言う肯定にも否定にも取れるあやふやな物だった。
「へ?……えと…どういう…意味……?」
ちょっと予想外すぎる言葉に私は理解が追い付かなかった。
「フフッ…つまり、わたくしがどんなに強くても、これから成長する皆様の方がわたくしよりも強くなるってことですよ。」
「えっと…それはどうして……ですか?」
マリアは少し考え込む。
「それは…」
何かを言いかけたその時、周りから不気味な声が聞こえた。
耳障りの悪く、聞いてるだけで敵意を感じ取れるような悪意に塗れた獣の叫び声だ。
「キシャアアアアアア!!」
真っ赤な色のバスケットボールのようなモンスター…ワイルドバイトボールと色違いの亜種、マージバイトボール。
そして灰色の毛をしたクマとオオカミの中間の姿をした大型の獣、名前は≪グラトニービースト≫って言うらしい。
ジーと見てたら名前が見えた。
とにかく、沢山のモンスターに囲まれたようだ。
「あ…あわ…ど…どうしよう…!」
「大丈夫です。…ここはわたくしにお任せを。」
慌てる私に対してマリアはいたって冷静だった。
マリアはスカートをたくし上げて武器を取り出した。
マリアが取り出した武器は、中世でおなじみと言っても良いほどポピュラーな武器、メイスだった。
「グルルルル…」
「キシャアアア…」
「………。」
モンスターとマリアは互いに睨み合っている。
「キシャアアアアアア!!!」
一匹のワイルドバイトボールがマリアに襲い掛かったがマリアはそれを避けず、なんと持っているメイスで叩き落とした。
「グギュア!?!」
鈍い音と叩き落とされたワイルドバイトボールの短い断末魔を皮切りに、他のモンスター達もマリアに襲い掛かった。
「やっ!はっ!」
マリアは飛びかかるワイルドバイトボールを一匹一匹叩き落としていき、詠唱中のマージバイトボールに近づいて、容赦なくメイスを振り下ろしていく。
「グルアアアアア!!」
「くっ……!」
グラトニービーストが牙をむき、マリアを押し倒した。
マリアは、メイスを猿ぐつわのように噛ませて防御した。
グラトニービーストのお腹辺りを思いっきり蹴り上げた。
倒れたグラトニービーストの頭に目掛け、勢い良くメイスを振り下ろした。
グシャア
生々しい肉と骨が砕け散る音を最後に、グラトニービーストは動かなくなってしまった。
「「グルオオオオオオ!!!」」
同胞を殺されたグラトニービーストらは怒りの雄たけびを上げながら、マリアに飛びかかる。
だがマリアは顔色を変えることなく飛びかかってきた敵をメイスで確実に屠っていく。
沢山いたモンスターの群れは確実にその数を減らしていった。
16体目を超えたころ、マリアの持っているメイスは真っ赤に染まっていて肉片やらがこびり付いていた。
「…これはもうだめですね。」
マリアはそう吐き捨て、メイスを思いっきり遠くに投げ飛ばした。
「ムキュアッ?!!」
投げた先にいたマージバイトボールは悲鳴をあげながら砕け散った。
「「「キャシャアアア!!!」」」
けれどマリアの武器がなくなったのを良い事に、ワイルドバイトボールが一斉に跳びかかった。
「マリアさん…!!」
「大丈夫です。」
冷静な声音で私を制したマリアは再びスカートを弄って、中から鞭を取り出し素早く振り回した。
「「「ギャ!!」」」
鞭が当たったワイルドバイトボールがぼとぼとと落ちていく。
ただ、鞭ではとどめを刺しきれなかったようだ。
ワイルドバイトボールらが跳びかかろうと構える。
「………。」
マリアは鞭を捨てまたスカートから何かを取り出した。
「あれは………木の…枝?」
白銀色の木の枝のようなものをマリアはモンスター達に向けた。
「魔の雷よ、今一度わたくしの為に具現化し、敵を一掃する雷となれ!(サンダーアーク)!」
バチンッと音とともに枝の先から青白い電気が放たれ、正面にいたモンスター達を黒焦げにした。
この魔法って、サディが私に使っていた魔法だ…。確か、中級魔法ってやつだ。
中級魔法は取得が大変な魔法だったはず……それなのに使えるということは、マリアはただ者じゃない。
私はマリアのステータスを確認した。
【マリア Lv106】
HP 1008/1010
MP 616/650
器用値 100
速度 37
攻撃力 365
魔法攻撃力 470
魔法回復力 150
【防御力 34】
「ふぇ……?」
あまりのレベルの高さについ声を漏らした。レベル106?ちょっと高過ぎじゃない?
マリアの装備も気になって、私は確認した。ずらーっとたくさん表示されて、目が痛くなった。
【マリア Lv106】
頭 【メイド長のホワイトブリム】
上着 【紺色のドレス】【女給用エプロン】
下着 【イチゴ柄のショーツ】【イチゴ柄のブラ】
足 【真っ白なニーソックス】【小さな淑女の靴】
装飾品 【脚に着けるナイフホルダー】【殺し屋の手袋】
武器 【神霊樹の枝】
【メイド長のホワイトブリム】(防御力 5)(器用値 20)
【紺色のドレス】(防御力 10)(魔法回復力 10)
【女給用エプロン】(防御力 6)(速度 3)
【イチゴ柄のショーツ】(防御力 1)(HP 5)(魔法回復力 20)
【イチゴ柄のブラ】(防御力 1)(HP 5)(魔法回復力 20)
【真っ白なニーソックス】(防御力 2)
【小さな淑女の靴】(防御力 5)(MP 10)
【脚に着けるナイフホルダー】(防御力 3)(器用値 10)
【殺し屋の手袋】(防御力 6)(攻撃力 15)(器用値 20)
【神霊樹の枝】(攻撃威力 5)(魔法威力 300)(魔法攻撃力 240)(魔法回復力 50)
「あ…!………。……うん…」
マリアの着ている下着を知ってしまい、ちょっと申し訳ない気持ちになってきた。
イチゴ柄なんだ……何というか、可愛らしいセンスだね…。
ただ、人のファッションセンスに文句言うのは良くない。
それに、ただ性能が良くて着ているだけかもしれない。
そんなどうでもよい事を頭に思い浮かべていると、マリアが鬼気迫る表情で振り向いた。
「……危ない!」
「キシャアアアアアア!!!」
一匹のワイルドバイトボールが、私に向かって飛びついてきた。
「………っ!?……ぅ!!」
私はとっさに左腕で攻撃を受けた。
犬に嚙まれたような痛みと衝撃で、つい声を出してしまった。
危なかった…もし判断が遅かったら、首を嚙みちぎられていた…!
私は嚙みつくワイルドバイトボールを引き剝がして地面に叩きつけた。
「内なる力よ、今一度私の為に具現化し、目の前の敵を貫け。(マジックアロー)…!」
すぐさま詠唱した私はゼロ距離で魔法を当てた。
「グギャァ!!」
光る矢で貫かれたワイルドバイトボールはそのままぶち撒かれて物言わぬ肉塊になった。
「「「「グルオオオオオオ!!!!」」」」
今度はグラトニービーストが4体、私に目掛けて突撃してきた。
「避けてください!!…魔の炎よ、今一度わたくしの為に具現化し、敵を燃やす波となれ!(ブレイズウェーブ)!」
マリアが詠唱し終えると、マリアの前に炎の壁が生まれた。
炎の壁はまるで津波のようにモンスター達に押し寄せて容赦なく飲み込んだ。
「「「「グルアアアアアアアアアアア!!??!」」」」
モンスター達は燃えながら転げまわり、消火しようとする。
そこでマリアはジャンプして、燃えるグラトニービーストのお腹に着地した。
踏まれたグラトニービーストが動かなくなったのを確認したら、転げまわるモンスター達を一匹一匹踏みつけていく。
う……ちょっとかわいそう………。
相手がモンスターとは言え、やっていることがえぐい。
ただ、私達は最初からモンスターを倒しにここに来た。
強くなるため、モンスター達にはかわいそうだけど、私達の糧になってもらおう。
考えているうちに、残りのモンスターが一匹になった。
「キシャアアアアアア!!」
最後に残ったのはマージバイトボールだ。
「ーーー。ーーーーーーーーーー。ーーーー。ーー。」
マージバイトボールは何かの魔法を詠唱している。
ただ、一匹だし大丈夫だろう。
そう思いながらマリアを見た。
けれど私の楽観的な予想とは裏腹に……マリアはかなり焦ったような顔をしている。
モンスターの大群に一騎当千で戦っていたのにどうしたのだろう?
「これは…!ミカ様!!早く木の陰に隠れてください!!」
私に言ったのと同時に、マリアはマージバイトボールを思いっきり蹴り飛ばした。
「(ーーーーーーーー)!!」
宙を舞うマージバイトボールの体が光った。
次の瞬間、なんとマージバイトボールが爆発四散した。
「わ…!!」
「……っ!!!」
私とマリアは爆発に巻き込まれ、吹き飛ばされてしまった。
「あぐぅ…!!?……ぐぅぅ………!」
私は木に激突して倒れた。
強烈な痛みと衝撃に頭がくらくらする。
それでも私は何とか立ち上がり、辺りを見渡した。
…マリアが地面に倒れていた。
「……!!マリア……さん…!」
私は慌ててマリアのもとに駆け寄った。
「うぅ……」
マリアは青い顔で右足の太股のあたりを押さえている。
服もボロボロになっていて、所々肌が露出している。
人によってはドキッとする姿だけど、今はそれどころじゃない。
「ど……どうし…いやちがう…!………だ…大丈夫…ですか……!?」
「…………ぃ………いたい…いたいぃ……」
マリアは目に涙を浮かべ、痛みを訴えている。
右足を押さえている様子を察するに、爆発によって怪我を負ったのだろう。
「マリアさん…!怪我…をしたところを…見せて……!!」
「………。」
マリアは押さえていた手をどかして、怪我を見せてくれた。
「………っ!」
怪我のありさまに、私は顔をしかめた。
右足の太股には何かの破片が深く刺さっていた。
そしてこの破片には見覚えがあった。
これは、マージバイトボールの牙だ。
おそらくは自爆した拍子に肉片がばらばらに吹き飛んで、それがたまたまマリアの足に刺さったのだろう。
しかも、よりにもよって一番大きくて鋭い牙だ。
そう言えば、マージバイトボールの牙には微弱な呪いがかかっていると前にサディから聞いたっけ?
……このまま放っておくのは危険な気がする。
私は自分のポーチから【治癒のポーション】と【ボロボロの囚人服】、そして【護身用短剣】を取り出した。
「…マリアさん…痛いけど、我慢して…ください………!!」
「………??…?」
私は刺さっているマージバイトボールの牙をしっかり掴んだ。
「行くよ……3…2……1………。……っ!!」
思いっきり力を込めて、刺さっている牙を引き抜いた。
「…っ!!?!!ああああああ!!!!!」
マリアは痛みによって悲鳴を上げた。
焦りで自分の鼓動が早くなっているのを実感しながら、私は急いで行動をした。
まず、私は【護身用短剣】を使い【ボロボロの囚人服】の裾の部分を切り取り、包帯のようなものを作った。
その包帯に【治癒のポーション】を染みこませて、マリアの太股に巻き付けた。
「うぅ…!ああ…いたいいたい…!」
「マリアさん、これを飲んで…ください!」
私はマリアに【治癒のポーション】を見せつけたが、マリアはそれどころではないようだ。
仕方が無いから私は【治癒のポーション】を、無理矢理マリアに飲ませた。
「んぐっ……ん…げほっ…がほっ…ん……。はぁ…!……はっ…はっ……」
強引に飲まされたマリアはゲホゲホとむせて涙目になった。
けど、その顔はとても安静の色が濃かった。
きっと、これで怪我は大丈夫…なはず。
「ゆっくり………飲んで……ください……ね。………。……はぁ……ふぅ…」
緊張が解けた私は脱力して座った。
まさかこんな事になるとは思わなかった。
けど、最悪の展開にならなくて…良かったのかな。
「みぃちゃんや…アンリちゃんは………大丈夫…かなぁ……?」
そう小さく呟きながら私は空を見た。
空は嫌というほど快晴で、雲一つなかった。
2022/7/24/2:20 設定の変更をしました。
【神霊樹の枝】の攻撃力を攻撃威力に変更して、新たに魔法威力を追加しました。