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嫌われ者の自分が、HP5000の美少女に転生した。  作者: 御狐
第一章 新しい人生の始まり
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第14話 ドゥーム

 ミカちゃんが小さな寝息を立て始めた。

私はミカちゃんの頭を撫で続ける。

撫でるとミカちゃんはとても安心した顔になるから。


「頑張ったね。ゆっくり休んでいいからね。」


私はポケットからハンカチを取り出して、ミカちゃんの体を拭いた。

…ミカちゃんの姿はとても痛々しかった。

両腕が折れていて、お腹には青痣がたくさんできている。

この傷は私が付けたも同然だ。

私が居眠りをしなければ、ミカちゃんは傷つかなかった。

もっと早く助けることが出来たら、怖い思いをしなかった。


…今度こそ守って見せる。それがご主人様の信念だから。…私の贖罪だから。


私とミカちゃんはさっきの戦いでレベルが上がった。ステータスを確認したい。

まずは自分のステータスを確認する。


【みぃ Lv25】

HP 102/720

MP 24/340

器用値 20

速度 66

攻撃力 361

魔法攻撃力 123

魔法回復力 65



速度が1つ、攻撃力が5つ上がっている。

次にミカちゃんのステータスを見る。


「ミカちゃん少しだけ見させてね。」


私はメンバー覧にあるミカちゃんのアイコンに意識を集中させてステータスを確認する。


【ミカ Lv6】

HP 2453/5100

MP 31/60

器用値 5

速度 3

攻撃力 1

魔法攻撃力 0

魔法回復力 0



HPが60も上がっている。

ただし、そのほかのステータスが全く変わっていない。

これは一体どういうことなのだろう。

…まず、HPがこんなに高い事と他ステータスがここまで低い時点でミカちゃんは変わっているのに、レベルが上がっても、HPしか増えない。


……ミカちゃんはいったい何者なんだろう?


一人で考えていてもわからない。

ミカちゃんが目を覚ましたら聞いてみよう。

…いや、こんな事を聞くのは流石に失礼かな。


「そろそろ行くよ。ミカちゃん。」


私はミカちゃんを背中に乗っけて立ち上がった。

そこで私は気が付いた。

名前を知らぬ者を倒した場所に不思議な箱が置いてあったからだ。

それは緑色の不気味な目が埋め込まれていて、ミミズみたいな文字が側面に書かれている。

両手に乗るほど小さな箱だ。


なんだろう?


私は警戒しながらその箱に触れると、その箱が開き、何かが飛び出してきた。


「ー!?」


私はびっくりして尻尾を逆立てた。

恐る恐るそれを確認した。


「………!!!これって!」


私は驚いた。

何故ならその箱から出てきたものは剣だったからだ。その剣は極めてシンプルだった。

刃はそれなりに長く、持ち手が黒く緑色の水晶のようなものが一つ埋め込まれている。

ただそれだけなのに、何故かすごく気になる。

私はその剣を手に取り性能を確認した。


【ドゥームソード】(攻撃威力 500)(速度 15)

(《遠吠え一閃》 相手との間合いを一気に縮め、剣で斬りつける技。使うと疲労する。技名を口にすれば発動する。)


「え…ええええ!!!?!!」


私は驚きなあまり剣を落としてしまった。

かなり性能が高い。それに加護付きの剣だ。

剣がどうやって箱の中に入っていたか気になるが、そんなことがどうでもよくなった。


この剣があれば…試練に対抗できるかもしれない。


そう思えるほどこの剣は強い。

私はとりあえず剣を鞘に納め腰に付けた。

これで、もうこの場所には用がない。

この場を後にしようと足を前に動かした。


「アアア…アアアア…」


後ろから聞こえた声と物騒な殺意を感じて、私は足を止めた。

ボロボロの服を着て、錆びた剣や弓を持っている青白い影。≪ストレンジピープル≫がどこからともなく現れ、私達を取り囲む。

弓を待っているストレンジピープル達は、挨拶も無しに矢を放った。

私は鞘から剣を抜いた。

…そうだ!せっかくだしこの技を使ってみよう。


「《遠吠え一閃》!」


気付いたら、私は自分でも驚くほど素早く走り出して、狙った敵に斬りかかっていた。


「グエ!?!!」


斬られたストレンジピープルは断末魔を上げて消えていく。

強い!まさか一撃で倒せるなんて思わなかった。

ストレンジピープル達が次々と向かってくる。

私はストレンジピープル達が放つ攻撃を避けていき、1体1体、撃退していく。

たくさんいたストレンジピープル達がほんの数秒で数がだいぶ減った。

残りは2体のストレンジピープルと、黒色に近い緑色のボロボロのローブ姿の影、≪ロストメイジ≫だけだ。


「もう一回!《遠吠え一閃》!!」


技を使って一気に距離を詰め、ストレンジピープルの首を跳ね飛ばす。

隣にいたストレンジピープルが剣を振り上げた。

剣で攻撃を受け止めて、思いっきりお腹を蹴った。

蹴られたストレンジピープルはよろめき、私はその隙に剣を振り下ろし、真っ二つに叩き切った。


「…(フロストアロー)」


感情がこもっていない声と冷気を帯びた矢が私の体をかすめた。

ロストメイジの魔法だ。

私は急いで振り向きロストメイジに注目する。

ロストメイジはすでに詠唱を始めていた。早い。


「…………。(フロストアロー)」

「《遠吠え一閃》!」


敵の魔法が放たれると同時に、技を使って突っ込む。真正面まで近づいた私は斬った。

与えたダメージは、611だ。

勝利を確信した。しかし…


「ガアアアアアアアア!!!!!」

「がっ!!?!」


ロストメイジは両手を伸ばし、私の首を絞める。

不意を突かれて反撃を食らってしまった。

私を絞める手はとてもしわしわで非力そうなのに、いくら頑張っても振りほどけない。


…こんな所で……負けたくない!


私は思考をめぐらす。

どうすればいいのか。


蹴ってみる?…ダメだ。力が出ない。

剣で攻撃する?…無い!いつの間にか剣を落としてしまっている。

助けを呼ぶ?…誰もいない。それに声だって出ない。…いや。声は出る。だけど誰にも聞こえない。


……!!!そうだ!魔法!魔法を使えばいいんだ。


私は右手をロストメイジの顔に向けて詠唱を始めた。


「魔の炎よ、……今一度………私の為に具現…化し、目の前の敵を……貫け…(フレイム…アロー)!!」


赤く燃え盛る炎の矢がロストメイジの顔に直撃した。


「-----!!!?!!」


ロストメイジは全身に火が回り、数秒のたうち回ったのち焼失した。

私は剣を鞘にしまい、【治癒のポーション】を2本飲む。HPが300も回復した。


「ふあ?疲れたあ…。」


ぺたんと地面に座り込んだ。

辺りは静寂に包まれていてモンスターの気配はない。少し疲れた。私は頭に着けてある装飾品に触れる。


「ありがとう…。」


私は、ぽつりとつぶやいた。

この飾りはご主人様が他界する前に渡してくれた物で、名前は【理解の賢眼】。

一見するとただの目のような緑色の紋章だけど、この飾りは装備した者の察知能力を上げる効果がついている。

さっき、ストレンジピープルの存在に気付くことができたのはこの飾りのおかげだ。

これのおかげで私は戦える。


だから…これからもよろしく!


私は立ち上がる為に地面に手を付けた。

そのおかげで気づくことができた。

そこにはなんと!ロストメイジが着ていたローブがあった。

ロストメイジは影だから、倒しても死体どころか着ている服すら残らない。

だけどご主人様が言っていた。「装備を着ているモンスターは低確率でその装備を落とす。」って。

私はすかさず性能を確認した。


【隠者のローブ】(防御力 15)(魔法攻撃力 50)

(《認識阻害》 相手から認識されなくなるが、名前と外見と特徴を知っている者にはあまり効果を発揮しない。フードを被ることによって発動する。)


私はミカちゃんを降ろしてこの装備を着せる。

ミカちゃんはボロボロになった服一枚しか着ていない。

正直、防御力が心もとないし…この加護があればミカちゃんを守ることができるはずだ。


………最初に出会った時から気づいていた。ミカちゃんは脱走者だ。


ミカちゃんが着ていた囚人服にインモラルシス王国の紋章が描かれていた。

おそらくミカちゃんは何か良くないことに巻き込まれて狙われている。

出会った時からミカちゃんは傷だらけだった。

……考えたくはないけど…拷問をされていたのだろう。誰も信じようとしなかったのは、悪い人に騙されたからかもしれない。


もしもミカちゃんがまた捕まったら…もっとひどい目に合ってしまう。


だから、この装備品は今のミカちゃんに必要だ。

少なくとも…安全な場所に着くまでは着させておいたほうがいい。

私はミカちゃんにフードを被せ、《認識阻害》を発動させた。

一瞬だけ誰だかわからなくなったけど、すぐにミカちゃんだと気づいた。


「…よいしょ……と。」


私はミカちゃんを担ぎ、この廃村を後にした。

………。

………………。

…廃村を出てからしばらくして、私は慌てておいて行ってしまった荷物を拾いに戻ってきた。

…が。ここで気づいてしまった。

私は今、ミカちゃんを背中に背負っている。

そして荷物はリュック…つまり背負って運ぶ物。


「……どうしよう。」


私は悩む。

リュックを前に担ぐのも手だけど、モンスターと遭遇したときの対処が大変。ミカちゃんと一緒に背中に担ぐのもありかと思ったけど…それだとバランスが悪くなって移動がとても大変。

ミカちゃんに起きてらう…………のは流石に可哀想かな。


「ううーん。どうしようかなぁ。」


悩んでいても仕方がない。

しょうがないから前に担ごう。

そう思ってリュックに近づいた。


「…。-っ!!!」


少し先の方から、がさりと音が聞こえた。

私は剣に手を添えて、構える。


「誰かいるの!?」


音を立てた何かに向かって言った。

すると木の陰に隠れていた者がヒョコっと姿を現した。


「こんばんはだぜ!狐のお姉さん。…とりあえず落ち着くんだぜ。アタシは凶悪なモンスターでも、悪い盗賊でもない!ただの商人だぜ!」


商人と自称する少女が両手を上げて、手に何も持っていないとジェスチャーをした。

少女はオレンジ色の髪でミカちゃんと同じくらいの背の高さ。

スカートの丈が長いフリルの着いた黄色の服の上に、同じくフリルの着いた純白のエプロンを着ている。

頭には青色のバンダナを付けていて、背中にはかなりの大きさのリュックを背負っている。


世間知らずな私でも、旅をして物を売ったり買ったりする行商人は知っている。


けど…こんな時間に、モンスターがたくさんいる危険な森の奥で、小さな女の子の行商人が私の荷物の近くに隠れているなんて事…普通ではない。


怪しい…けど、ここでずっと固まっているわけにはいかない。


私は会話を試みることにした。


「あなたは誰?なんでこんなところにいるの?」


「アタシはアンリ!評判のよろず屋[旅人の通り道]の店主の娘だぜ!…ちょっと訳があってこの森に入ってうろうろしてたら、たまたまここにたどり着いたんだぜ。……狐のお姉さんこそ、こんなところで何をしているんだぜ?」


アンリという名前の少女は私の質問に答えて、同時に質問を返した。


「私はモンスターを倒して、レベル上げをしていた。今ちょうど終わって、お家に帰るところ。荷物を取りに戻ってきたら、あなたがいたの。」


「そうなのか?この荷物は狐のお姉さんのだったのか…それなら疑われるような事をして悪かったのぜ。アタシはこの荷物に指一本触れてない。そしてアタシは狐のお姉さんに危害を加えるつもりもない。」


私はアンリのガラスのように綺麗な青い目を見る。

…嘘はついていないようだ。

警戒を解き、近くの倒木に腰を掛けた。


「疑ってごめんね。………。……ねえ。アンリちゃん、折角だからちょっとお話ししない?」


アンリは目を丸くした。

動揺しているようだ。

それもそうだ…急にお話をしようなんてなれなれしすぎるからね。


「え?…別に良いぜ!それで…何の話をしたいんだ?狐のお姉さん。」


「…みぃ!狐のお姉さんじゃなくて、みぃって呼んでほしいな!」


「わかったんだぜ!じゃあみぃは何の話をしたいんだぜ?」


何を話そうか考える。……。そうだ!


「ねえ。アンリちゃんは確か、[旅人の通り道]の店員さんだよね。どうしてここにいるの?」


「…………。それには深いわけがあるんだぜ。…聞きたいか?」


「うん!聞きたい!」


「…わかったぜ!」


アンリちゃんは金色のペンダントを構いながら話し始めた。


「実は、アタシがいたインモラルシス王国で試練が起こることになったんだぜ。」


「試練…。」


「知っているみたいだな!それなら話が速い。それで【宿命ノ砂時計】の砂が赤色になっていたんだぜ。…言っている意味が分かるよな?」


その言葉の意味に気付いて、ぞわりと悪寒を感じた。


「砂が赤色になっているってことはつまり…。」


「そう。あの国は試練に負ける。だからアタシは逃げてきたんだぜ。」


試練には種類がある。

砂が白ければ、数十人程度の人数でも対処ができる量のモンスターが出現する。

砂が黒ければ、【宿命ノ砂時計】を絶対に死守しなければならない。私はこれだった。

そして砂が赤かったら…ほかの試練の5倍の量のモンスターが襲撃してくるため、大規模な軍隊でも対処が不可能と言われている。

だから、アンリちゃんは試練が起こる前に荷物をまとめて離れたということだ。

正しい判断かもしれない。けど…それってつまり…。


「アンリちゃんは、これからどうするの?」


「そう…だな。試練が終わるまでの間、のんびり一人旅でもするつもりだぜ。」


アンリちゃんは少し遠くの空を見ながら答えた。

…やっぱり、帰るところがないのだろう。

何とかして助けてあげたい。

けど…どうすればいいのだろう。私にできることは…。


………そうだ!


「ねえ。よかったらだけど…私のお家に来ない?」


「ん?えっと…どうしてだぜ?」


「えっとね…私の家は広いから、アンリちゃんを匿うことができる。それに…」

「それに?」


「アンリちゃんがいると…みんなが喜ぶ……と思う。」


理由になっていない。みんなが喜ぶ保証もない。

そしてアンリちゃんを匿う余裕があるわけでもない。

けど…困っている人を助けることに明確な理由なんているだろうか?

ご主人様はいつも困っている人がいたら助けていた。

何の利益にもならなくても…。私はご主人様に憧れている。ご主人様のようになりたいと思っている。

だから…だから、私も!

ご主人様のように人助けをする!


「………そうか…ならお言葉に甘えて!今後ともよろしくな!」


アンリちゃんは太陽のように輝いている笑顔で、私の手を取り握手をした。


「アンリちゃん…ありがとう!よろしくね!」


「それはこっちのセリフだぜ!」


アンリちゃんは握手をし終わると、パーティ加入の申請を送ってきた。私はすぐさま承認した。するとパーティメンバーの一覧にアンリちゃんが追加された。アンリちゃんは満足そうに頷いてもう一度明るい笑顔になった。


ご主人様……私…頑張るから。いつかご主人様みたいな立派な人になって見せる!

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