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嫌われ者の自分が、HP5000の美少女に転生した。  作者: 御狐
第一章 新しい人生の始まり
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第13話 名前を知らぬ者。

 「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


身の毛がよだつような絶叫とともに、名前を知らぬ者がこっちに向かって前進した。


「………!」


「やぁああああああ!!!!!」


みぃも雄叫びとともにソレに向かって走る。

怪物がみぃに殴りかかる!

空気も震える漆黒の拳をみぃは跳躍して避けた。

そして着地と同時にみぃは、怪物の背中を斬り付ける。


「アアアアアアア!!!?!!」


斬られた怪物は悲鳴を上げた。

傷口から血ではなく、赤紫色のオーラのようなものが溢れ出る。


「やあああ!!!」


みぃは剣をめちゃくちゃに振り、怪物の体に次々と傷をつけていく。


「アアアアアアアアアアア!!!!!!」


怪物も4本の手でみぃを捕らえようと、素早く振るうが、みぃは剣を使い攻撃を受け流す。

鋭い洞察でみぃは、絶好の機会を捉えて怪物の腹部に蹴りを入れた。

怪物は吐しゃ物をぶちまけながら仰け反った。

この隙にみぃはさらぬ攻撃を加える。

両手で剣を握り直し力強く縦に叩き切った。

傷口から勢いよく赤紫色のオーラが噴き出される。

更に高く跳躍し、剣を振り上げる。


「はああ!!!」


気迫のこもった声とともに、研ぎ澄まされた刃が怪物の頭に触れようとした。


…勝った!


そう思った瞬間。

黒い手がみぃの体を鷲掴みした。


「ぐう…!!」

「アアアア……」


怪物の体が紫色のに発光すると、折角付けた体の傷がふさがっていったのだ。

みぃはそのことに気付き、顔から余裕が消え失せた。


「回復している?!…ただの名前を知らぬ者じゃない!!!特異個体…!」

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」


怪物は思いっきり、みぃを遠くに投げ飛ばす。

投げ出されたスーパーボールのように、地面をバインドしてから、みぃは廃墟の壁に激突した。

視界の端に表示されていたみぃのHPが、目で見てわかるぐらいに減少したんだ。


「みぃちゃん!!!」


私は思わず、みぃの名を叫んだ。

咄嗟だったから、丁寧な呼び方じゃなかった。

けれど、そんなこと今はどうでも良かった。


「アアア…アアアア………!!!」


「ひぃ!?」


興味を引かれたのか、怪物が私に近づいて来た。

じりじりとゆっくり近づき、長い舌を出して涎のような液体をぽたぽたと垂らす。

まるで凶悪な肉食動物が獲物を追い詰めて、じわじわと嬲るようだ。


…くそ!こんな所で負けてたまるものか!


私はポーチから【MP増加の腕輪】を取り出し、右手にはめる。

そしてすぐに魔法の詠唱に入った。


「内なる力よ、今一度私の為に具現化し、目の前の敵を貫け!」


ソレは走り、一気に距離を詰める。

黒い手が私の足をつかみ、簡単に持ち上げた。

逆さまにされた私は一瞬パニックになったが、すぐに落ち着きを取り戻した。


「-っ!!?!…(マジックアロー)!!!」


魔光の矢が、眉間にあたる部分に直撃した。

怪物は私を放し、全ての手で顔を抑える。


「やった!…内なる力よ、今一度私の為に具現化し、目の前の敵を貫け!(マジックアロー)!」


身もだえる怪物に私は追撃をする。

今度は胸の中心にヒットした。

このまま攻撃し続ければ何とかなるかもしれない。

私はまた詠唱を始める。


「内なる力よ、今一度私の為に具現化し、目の前の…」

「アアアアアアア!!!」


けれど復帰した怪物が雄叫びを上げ、私に向かって両手を振り上げた。


「ーっ!!?!」


私はとっさに両腕を前に出してガードした。


メキッ


嫌な音と激痛が走った。

699と赤い数字が表示される。


…すぐには理解できなかった。


今の一撃で腕の骨が砕かれた。


「う…ああああああああああ!!!!!!!!」


悲鳴を上げる。


痛い!


骨を砕かれる痛みと、砕けたことへの恐怖が私の理性に襲い掛かる。

痛みにのたうち回っていると、怪物が長い舌で私の手を舐めだした。


怖い…怖い…怖い…怖い!


早く倒さないともっとひどい目に合わされる!

追い立てられて、私は詠唱を始める。


「…!!……う…内なる力よ、い…い今一度私の為に……具現化し、目の前の敵…を……」


焦りのあまりろれつが回らない…。

詠唱に時間がかかってしまった!

もたついていた私の両腕をつかみ再び持ち上げる。


「アアアアアアア……!!!」


「う…!!痛い…やめ…て…!!!」

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」


前触れも無く、怪物はこぶしを握り締め…私のお腹を殴った。


「ーー!!?!!??……!!!…!??あ…!」


苦痛のあまり私は顔を歪めた。

怪物はまた舌を出して、今度は私の顔を舐める。


「ひぅ…よ…よくも…!」


私は目を鋭くしてソレを睨みつける。

すると怪物は不快そうに唸って、また私のお腹を殴りつける。


「-!!?!!うぐ……」

「アアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


また殴る。


「あぅ……」


また殴る。

また殴ってまた殴った。


「あああ…あえて……もおやえて…!!」


心が折れると、ようやく殴るのを止めて、今度は私の首筋を舐め回す。

するとHPがじわじわと減っていった。


「うう…ひう……やああ…」


怪物は…名前を知らぬ者は私を嬲って楽しんでいるのに気が付いた。

私が抵抗するとソレは私を痛めつけて、逆に抵抗しなければ私の体を舐める。

ただただ、苦痛だった。


ダカラ。テイコウヲヤメテ…ミヲユダネロ。


誰かが語りかける。

…そうするとどうなる?


タマシイヲカイホウシテヤロウ。


解放する?いったい何から?


ソノ…ノロワレシウンメイカラ。アンシンシロ。ワタシハオマエノミカタダ。ウンメイカラカイホウサレ、ワタシトヒトツニナレバシアワセニナレル。モウナニモ…コワクナイ。ワタシタチハエイエンナノダカラ…エイエンニイッショニナル。


永遠に一緒。

それはとても素晴らしい提案だった。

一緒に私の苦痛を理解してくれる。

私にとっては、それだけでも甘美な誘いだった。

だけど…


「嫌…だ…。誰か………みぃちゃん…!!!助け…て……」


私は信頼している仲間の名前を呼んだ。

会ったばかりでさっきはこっちから裏切ったのに、仲間だと言うなんて、私はとても傲慢かも知れない。


…ダメ…視界が暗くなってくる。もうだめなのかな。


命の灯が消えかけたのを実感して、全てを諦めかけていたその時。


「…?」


視界に何かが映った。

何だろうと思った瞬間。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!?!??!?」


私をつかんでいた腕が切断され、怪物は亡くなった腕を抑えて悲鳴を上げていた。

私は恐る恐る顔を上げた。

そこには傷だらけのみぃの背中があった。


「ハア……ハア……。」


みぃの背中が上下する。

怯えながらも、私はみぃのHPを確認する。


【みぃ Lv24】

HP 68/720

MP 20/340


私は息をのんだ。

みぃのHP、MPがもうほとんど無いからだ。

そして私は感動もした。


だって…みぃはボロボロになっても私を守ってくれてるから。


みぃは私を見捨てずに頑張っている。

みぃは…私のことを本当に信用している。


「みぃ…ちゃん。」


みぃは剣を強く握りしめ、尻尾の毛を逆立てる。


「お前たちは…また私から大切な人を奪うの?ご主人様だけじゃなく…こんな小さな子供ミカちゃんまでも奪うつもりなの?…みぃを苦しめて何が楽しいの?」


みぃはブツブツと呟く。

何となくだけど、みぃの言葉は目の前の敵に向けてではなかった気がする。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」


怪物はみぃに向かって突撃する。

今のみぃのHPじゃあ、あの一撃で死んでしまう。

私が何とかしないと…そう思っているのに体が動かない。


何で?怪我をしているから?


…違う、怖いから。痛い目に合うのが怖い。

けど…みぃを失うほうがもっと怖い。

やっと私を守ってくれる人と出会えたんだ。

ここでこの人を失いたくない。


…みぃを死なせたくない。


私はやっとの思いで手を動かした。

そして魔法の詠唱を始めた。


「内なる力よ、今一度私の為に具現化し、目の前の敵を貫け!!(マジックアロー)!!!」


光の矢が放たれ、名前を知らぬ者の眉間に刺さった。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアア??!!?」


怪物は頭を押さえ、絶叫する。

立ち止まった怪物に向かって、みぃが剣を握り直し、走り出した。


「うやあああああああああ!!!!!!」


みぃが思いっきり剣を横に振った。

胴体に剣の刃が入り、そのまま切断した。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」


怪物は咆哮のような断末魔を上げる。

けれどみぃは止まらない。

怪物の背中に馬乗りして、容赦なく頭を剣で貫いた。


「アアア…………ア…ア…ア…。」


断末魔が消えていく。

そして…ソレは赤紫色の煙に包まれ消滅した。


「…………!!!みぃ……ちゃん…」


私はみぃに抱きついた。

みぃは優しく微笑んで私の頭を撫でてくれた。


ジワリと涙がにじんだ。


同時に安心したおかげか眠くなってきた。

そういえば今、朝3時だ。

頑張ったから、少しくらい…休んでいいよね?

私はみぃの目を見つめる。

みぃは何も言わずに頷いた。

私はそれを確認してゆっくりと目を閉じた。


あ…そうだみぃに言いたいことがあったんだ。


私は口を開いて小さな声で言った。


「ありがとう。」

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