第12話 何もかも信用できない!!!(挿絵アリ)
2023/4/1 挿絵を追加しました。
暗い森は危険だ。
いつ何が起こってもおかしくない。
周りの樹が不気味な笑みを浮かべているように見えて、何処からか笑い声みたいな鳴き声を聞こえる。
とても不安だけど、私が今、最も不安に感じている存在は隣にいるみぃと名乗る影だ。
みぃは私を「安全な場所まで連れていく」と言ってパーティに入れようとしたけど、私は拒否した。
どうせあのダスト達と同じで、私を嵌めるつもりだろうから。
だから私はスキを見て逃げるつもりだ。
そうチャンスを心待ちしながらしばらく歩いていると、突然みぃが立ち止まった。
「-!!気を付けて!」
鋭く牙を剥くように、私に警告をする。
みぃは剣を手に取り、周囲を警戒すると、ザワザワと草木の葉が擦れる音と土が踏み荒らされる音で騒がしくなった。
「キシャアアアアアア!!!」
体が赤く目が黄色い一つ目モンスターが、草むらや木の陰から飛び出して襲い掛かってきた。
ジーと見ているとモンスターの名前が表示された。
このモンスターの名前は≪ワイルドバイトボール≫というらしい。
ワイルドバイトボールは鋭い牙でみぃに嚙みついた。
みぃはとっさに左腕でガードをする。
「ぐ…。火力が高いワイルドバイトボールか…でも、私なら大丈夫!」
みぃは力任せにワイルドバイトボールを引き剥がす。そして剣を勢いよく振るった。
「ギャ!!!」
ワイルドバイトボールは小さな断末魔を上げ、真っ二つになった。
「「「グルアアアアアア!!!」」」
どこからか現れたイビルトレント3体がみぃを取り囲む。
「イビルトレント!?いつの間に…!…ミカちゃん、今から強い魔法を使うから、巻き込まれ無いように気を付けてね!」
私に警告をしてすぐさま魔法の詠唱を始め出した。
私は少しカノジョから距離を取って、若干の遠目から静観する。
「魔の炎よ、今一度私の為に具現化し---」
地面が若干割れる程の脚力で、みぃは高く飛び上がった。
イビルトレントと私は顔を上げて彼女を目で追う。
「敵を砕く爆炎となれ!!!(フレイムメテオ)!!!!」
みぃの左手から炎の球が真下に放たれる。
炎の球が地面に直撃した!
その瞬間、炎の球が炸裂して、3体のイビルトレントが爆発に巻き込まれた。
「グギャアアアアアア!!!!!」
イビルトレント達はもがきながら2体、燃えカスになった。
みぃは着地したと同時に地面を蹴って、生き残ったイビルトレントに向かって剣を振り上げた。
「グギャ!!」
イビルトレントは断末魔を上げ、煤を血のように噴きながら沈黙した。
みぃはあたりを見渡して、緩いため息を溢す。
「ふう…危なかった。ミカちゃん大丈夫?」
「……………大丈夫。」
「よかった…。もし怪我をしたらこれを使ってね。」
そう言って、みぃは私に小さな袋を渡した。
中にはオレンジ色の液体が入っているガラス瓶と青い飴玉が3つ入っていた。
「………これは…何?」
「【治癒のポーション】と【魔力回復の飴】だよ!【治癒のポーション】は飲んだり、かけたりするとHPが150回復して、こっちの【魔力回復の飴】は食べるとMPが30回復するんだ。」
HPが150しか回復しないのか…。
ポーションば私にとってあんまり意味がないけど…この飴はありがたい。
せっかくだし貰っておこう。
「……。」
「少し疲れちゃった。…少し休憩しよう?」
「…わかった。」
みぃはあくびをしながら、背負っていたリュックらしきものを置いた。
「ちょっと待っててね。」
鼻歌交じりにリュックを弄りだした。
ほんの数秒後、みぃはリュックから毛布を取り出して地面に敷いた。
「出来たよ!眠くなったらこの上で寝てね。」
「…………。」
言われるがままに、私は毛布の上に寝転がった。
フカフカで、少し温かいから、本当に眠りそうになったけど、それを堪えて私は嘘の寝息を立てた。
「…ミカちゃんも疲れていたんだね……。…………私も少しだけ休もう…。」
みぃはもう1枚毛布を敷いて、寝転がった。
………。
………………。
…10分後。
みぃの寝息が聞こえてきた。
どうやら完全に眠りについたようだ。
「………。」
私はそっと起き上がった。
…逃げるチャンスだ。
私は自分の荷物をまとめて、この場所を後にした。
そうして何歩も進み続けて、時折振り返り追っ手を確認しながら走り続けた。
…みぃからだいぶ距離を取ったはず。
もう大丈夫かな?
私は歩くスピードを緩めた。
正直言って私はだいぶ疲れている。
だから早くこの森を抜けたいと思いながら歩いていると、少し広い場所に出た。
「ここは…村?」
辺りには荷車の残骸や廃墟と化した民家などが点々としていた。
それらから想定するに、この場所は廃村だろう。
真ん中の方に噴水があるけど、もう水は枯れてしまっている。
疲労感と何かに導かれるように、私は噴水のふちに腰を下ろした。
「はあ…」
私は張っていた気を緩めた。
周りはとても静かで考え事に向いている。
…静かってことは、ここにはモンスターとかがいないのかもしれない。
安全なんだ。ここなら誰も、私を陥れる者はいない。ここにいれば、もう何も傷つかなくていい。ここは安全な場所。安全なんだ。何も考えなくていい。ゆっくりゆっくりと***に身を委ねればいい。そう***は私を受け入れてくれる。理解してくれる。***は信用できる。そう***は信用できる。***は信用できる。***は信用できる。信用できる。信用できる。信用できる信用できる信用信用信用信用信用信用……
シンヨウシロ!
「ー!!!」
はっと我に返り、私は辺りを見渡した。
今の声は?!私じゃない!
一瞬私のナカに何かが入り込んできた。
一体何が…。
「アア…アアアア………」
「……!!!!」
首筋に腐臭のする吐息がかかった。
余りの恐怖に私は飛び上がるようにその場を離れた。私は噴水の方に目を向ける。
そこには化け物がいた。
ソレには真っ黒で光沢のある体には尻尾があり、腕が4本もあって、顔がない。頭に捻じれた角みたいなモノが2本生えている。
その形容し難い姿に私は心底恐怖した。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ソレはこの世の者とは思えないような恐ろしい咆哮を上げた。
「いやああああああああああああ!!!!!!!!」
私は耳をふさぎうずくまった。
この声を聴いていると気が狂いそうになる。
私の本能がそう言っている。「絶対に聞いちゃダメ!」って!
でもここでうずくまっていたら…ソレに殺される。
いや…殺されるよりも恐ろしい目に合わされるんだ!
嫌だ…嫌だ嫌だ!!!
ガタガタと体が震えて、足元に生暖かい水が広がる。ソレの顔が縦に避けてピンク色の長い舌を出した。
ソレの舌が私の足を嫌らしくなめる。
怖くなって、私は目を強く閉じた。
…意識が闇に飲まれようとしたその瞬間。
「やあ!!!」
誰かの声とヒュンという空を切る音が聞こえた。
目を恐る恐る開けると、そこには剣を持った影がいた。
「アアアアアア!!!」
「ミカちゃんから離れろ!!魔の炎よ、今一度私の為に具現化し、目の前の敵を貫く槍となれ!!!(バーニングスピア)!!!」
影の手から炎の槍が放たれ、ソレを貫いた。
「アアアア……アアア…ア」
「まだまだ!!!魔の炎よ、今一度私の為に具現化し、敵を封じる檻となれ!(フレアケージ)!!」
影がソレの足元に手をかざすと、ソレの足元に赤い魔法陣が浮かび上がり、そこから炎の糸みたいなモノがソレを囲い檻になった。
「ミカちゃん!!!大丈夫?!」
影は私に近づいてきた。
恐ろしい。怖い。
この影も…私に非道いことするつもりなんだ!
「嫌…来ないで!!」
「もう大丈夫。大丈夫だから…。」
影なんかが、私を安心させようと声をかけてきたけど、そんなことで私を騙せない。
でも、私には抵抗するスベが無いから、ただ声を上げて拒絶するしか出来なかった。
「いやあ…やだ…やだよお」
「怖がらないで!私はミカちゃんの味方だから…」
影は私をなだめようとする。
安心する声質で、狡猾にも騙そうとしている!
嘘だ。全部嘘だ!!!
「噓つき!みんな…私を嵌める………」
「そんなことしない!信じて!!」
「噓つき!!!」
「噓じゃない…何で信じてくれないの?」
図々しくも、影は私に理由を求めてきた。
そんなに私に付け入りたいのなら、教えてやる!
「みんな私を裏切った!!!みんなが私を嵌めて笑った!!!私を虐めて!!!私の気持ちを踏みにじって!!!私を犯そうとして!!!また私を嵌めた!!!私はただ平穏な人生を送りたかっただけなのに!!!みんなと仲良くなりたかったのに!!!みんなが私を陥れようとした!!!だから…私は…私はもうーーー」
秘めていた感情があふれ出す。
今まで抑えていた思いが、抑圧されていた本音が、言葉となってあふれる。
「何もかも…信用できない!!!」
全てを言いきった私はこの場から消えようとした。
けど、その前に影が口を開いて…
「…大丈夫。大丈夫だよ。」
私を…抱きしめた。
「-!!?!」
「私はミカちゃんが何を見て何に絶望したのかよくわからない。ミカちゃんと私は家族でも姉妹でもないから…。だけど…これだけは分かる。ミカちゃんはずっと我慢していたんだね。…誰かに愛されたかったんだね。」
「なにを…」
「ずっと一人で辛い事…悲しい事…苦しい事に耐えてきたんだね。言いたいこともやりたいこともできなくて、一人で悩んでいたんだね。ひとりぼっちで…辛かったね…。でも、もう大丈夫。大丈夫だから。」
影は私の顔を見てにっこりと笑った。
まぶしい…とてもまぶしい。
この影の言葉1つ1つが私の心を包んでいく。
「私がいるから。…もう大丈夫!」
「……。」
「私がミカちゃんの言いたいことをちゃんと聞く!やりたいことを一緒にやる!私が…ミカちゃんを守ってあげる。だから怖がらないで…!!」
「影を信用なんてできない…。」
「私は影なんかじゃない。もしかして…ミカちゃんには私が影に見えるの?」
影の問いに私はうなずく。
少しずつ、打ち解けているのがわかる。
「それはたぶん…ミカちゃんが私のことをちゃんと見てないからだと思う。私のことを信用して見ようとして…。私の名前はみぃ。この森に住んでいる23歳の狐人種の女の子!!」
瞬間、私は目を疑った。
だって…さっきまでの影が消えたから。
代わりの金色の少女がいた。
少女は整った顔に、豊かな胸と…稲穂色の髪と目…そして主張の激しい狐の耳と尻尾を持っていた。
不思議なことに声はあの影と同じだ。
いや…違う、あの影が…この人だったんだ。
「今度はミカちゃんの番だよ…。」
「……私はミカ。……最初からHPが…5000もあって…少しだけ…普通じゃない……人間…です。」
みぃは私の言葉に一瞬だけ目を丸くしたが、また笑顔に戻した。
このステータスが、ほんの些細な事だと本気で思っているのが伝わった。
「よろしくね!ミカちゃん。」
みぃは私の手を引いて起こしてくれた。
「じゃあミカちゃん!早速だけど私の近くから離れないでね。」
そう言ってみぃは剣を手に取り構えた。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
あの黒い化け物が炎の檻を破壊して、無理やり出てきた。
「あのモンスターは≪名前を知らぬ者≫。弱った者の心に入り込んで、その者の魂を抜き取るとても危険なモンスターだよ。」
「倒せるの…?」
「私一人だったら難しいかったかな…。けど、ミカちゃんが一緒なら私は何にだって負けない!だからね…お願い!」
みぃは私にパーティ勧誘のウィンドウを飛ばした。
まだ知らない人のパーティに加入するなんて普通なら絶対に入らない。
けど…今の私ならみぃを信じれた。
だから、今更だけど私はみぃのパーティに加入した。
「ありがとう!」
「こっちも私のことを助けてくれて…ありがとう。私はどうすればいい?」
「ちょっとステータスを見せてね。」
みぃは私のステータスを素早く目を通した。
「…ミカちゃん。危ないと思った時に……自分の身を守ることに魔法を使って!私、守るのは苦手だから…」
「……わかった。」
みぃは剣を構え、名前を知らぬ者と対峙する。
名前を知らぬ者は口が裂け、体が紫色に発光した。
…………本当に勝てるのかな?
不安がこみあげて来るが、ここで勝たなければ私達は死んでしまう。
だから……私達は勝つ!
勝って…今度こそ平穏な人生を送ってやる!
久しぶりの感動回かもしれない。