第11話 もう、誰も信用できない。
夢を見た。仲間だと思っていた人達に騙されて、暗い地下室に幽閉される。そこでは毎日痛めつけられ、死ぬことすら許されず、安らぐことも許されずに人としての尊厳を踏みにじられ続ける。
………本当に夢だったのなら…よかった…なあ。
甘い幻想を抱こうと必死に妄想する。
朝起きたら誰かが優しく起こしてくれる。幸せな日常。
誰かと一緒に協力してモンスターを倒す。理想の冒険。
辛い事、悲しい事があったら慰めてくれる。優しい人。
…嗚呼。なんて素敵なんだろう。これこそが私の求めていた人生。
これが本物で、今までのが偽物なんだ。
きっとそうだ。…そうだよね?
私は***に問う。***は何も答えない。
***はただじっと私を見つめている。
***の目を見ているとなんだか不安になってくる。
***の目はまるで穢れきった泥沼のような不快な目だ。
***が近づいてくる。***が何かを言っている。
「************」
何を言っているのかよくわからない。***は増えた。
2人だけだったのに、今ではすべての人が***だ。
***は不気味に笑った。黒い手を伸ばしてくる。私に触れる。
触れられた部分が***になってきた。
嫌…やめて…!近づかないで!
私は這うようにして***から逃げる。
けれど***は追いかけて来る。私は周りの人たちに助けを求める。
…違う。
ここにいるのはみんな***だと私は気づいた。
***は私を陥れるための影。***のことを信用してしまったら最後、またあの地獄に戻される。
だから、私は***を信用しない!…もうなにも信じない!
私はそう心に決め、前に進む。
進めば進むほど、心が楽になる。
…もっと前に進もう。
私は進もうと足を前に出した。
「大丈夫。私がいるから…。」
そうした途端に誰かが私の手を引いて、連れ戻した。
まるで道を誤った子の手を引く、母親のように。
……誰?
私は正体を確認するために振り向いた。
ソレは***ではなかった。………光だ。
目が覚めるとそこは牢屋ではなかった。
暖かい毛布が私を包んでいた。
目の前には私の荷物が置いてある。
「…………。」
私はゆっくりと起き上がり荷物を手繰り寄せた。
ギュッと大事に抱える。
この荷物…【アドベンチャーポーチ】を持っているとあの時のことを思い出す。
あの時私はみんなと一緒に楽しい冒険ができると心を躍らせていたな。
私は今、楽しかった時の想いを思い出している。
「ん…ふああ…」
誰かの声が聞こえて、私は慌てて声のするほうを見た。
…誰かが寝ていた。
影のように体も服も真っ黒で姿がよく認識できない。
頭に何か角みたいなモノがある?
私がまじまじと見ていると、その影が起き上がった。
「ふあああ…」
影はあくびのような仕草をし、ちょうど目線の先の私と目が合った。
「あ…起きていたんだ!…大丈夫?怪我していたようだけど…」
影の声はとても耳に馴染むような柔らかい声だ。
この声質からして女性だろう。
「………。誰…?」
「私はみぃ。えっと…レベル24の冒険者だよ!ねえ君は?」
「……。ミカ…。」
「ミカ…いい名前だね!ミカちゃんって呼んでいいかな?」
「……勝手に呼べば…………。」
私はみぃと名乗る影のことを信用していない。
だから、わざと冷たく接した。しかし…
「わかった!じゃあ私のことみぃって呼んで!」
みぃは気を悪くした様子はない。
私と親しく接しようとする…まるで小動物みたい。
「う~ん。…ねえねえ、ミカちゃん。なにかお話ししよう?」
「………。何の?」
「ん~。ミカちゃんは何か得意なこととかある?」
「………。………ない。」
「そっかぁ。…私はね、炎の加護を持っているんだ!この加護のおかげで火属性の攻撃とか耐性とかが普通の人よりも高いんだよ!あと…私、攻撃力も高いの。あとあと!!!私…」
「そう………。そうなんだ…。」
みぃはぺらぺらと話している。
けど…私は聞き流した。
だって、みぃはきっと私を陥れるつもりだから。
…早く逃げてどこかに身を隠そう。
いろいろと思考を巡らせて私は今のステータスを確認する。
【ミカ Lv3】
HP 3640/5040
MP 10
器用値 5
速度 3
攻撃力 1
魔法攻撃力 0
魔法回復力 0
【防御力 1】
どうやら、HPがまだ完全に回復していないようだ。
ついでに装備品を確認した。
【ミカ Lv3】
頭 無し
上着 【ボロボロの囚人服】
下着 無し
足 無し
装飾品 無し
武器 無し
【ボロボロの囚人服】(防御力 1)
「あ…」
そうだった…私…ほぼ裸だったんだ。
私はこの姿で街中や草原を逃げ回っていたんだ。
緊急だったとは言え恥ずかしい。
私は恥ずかしさの余り、地面にうつむいた。
「ミカちゃん?…どうしたの?」
「……何でもない。」
みぃは私の顔を覗き込んだ。…近くで見ても影だ。
やっぱり怪しい…スキを見て逃げ出そう。
「えっと…とりあえず、私とパーティを組まない?ここは危険だから…安全な場所に着くまでの間だけでもいいから一緒に組もう?」
みぃは私にパーティを組むように促した。
確かにこの場所は危険だ。この場所は以前に来たことがあるからわかる。
そう…この場所は確か[暗黒樹海]と呼ばれる場所だ。
ここはみぃとパーティを組むのが賢明だろう。
だけど…
「嫌…」
私は断った。
どうせこの影も私を裏切るつもりなんだ。
パーティを組んで私に信頼できると錯覚させ、最後に裏切る。
あのダスト達のやったことと同じだ。その手には乗らない。
「そっかぁ。……じゃあせめてパーティを組まなくていいから一緒に行動しよう?」
「…………………。」
「ねえ…お願い!」
「………。わかった。」
確かに一人だと危険。
ここはみぃと一緒に行動するしかない。
私は一時的にみぃと一緒にいることにした。
みぃは私の返事を聞くなりぴょんぴょんと飛び上がって喜んだ。
…本当に小動物みたい。
「……。」
「よろしくね!ミカちゃん。」
こうして私は、みぃと名乗る影と行動することになった。
みぃは私を見てにっこりと笑った。
…とてもまぶしくて暖かい笑顔だった。
影なのに何故かハッキリとそう見えて、人を陥れる者の顔とは思えなかった。
信用してもよかったかもしれないだけど…私はもう傷つきたくない。
だからもう、何も信じない!………信じることができない。
みぃは鼻歌を歌いながら暗い森のけもの道を歩く。
きっと森の奥で私を嵌めるつもりだ。
スキを見て逃げよう。そして今度こそ理想の人生を歩んでやる。
誰にも侵されることがない平穏な人生を…。