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異世界転生したらゴリラになっていた

作者: 山本輔広

 トラックに引かれて、女神様に転生させると白い空間で言われて、森の中で目が覚めたらゴリラだった。


「ウホッ? ウホホホホ?(え? これが俺?)」


 水面に映るのは黒い毛並みに太々しい体をした正真正銘のゴリラである。

少し前にイケメンすぎるゴリラなんて話題にはなったりしたが、だからってゴリラに転生って。

もうちょっとマシなものがあるだろ。


「きゃああああ」


 イケメンゴリラ顔を眺めていると、遠くから響いてくる若い女性の叫び声。

急いでかけつけてみれば、そこにはリボンをつけたゴリラが若くて美しいエルフの女性を襲っている。

腰を抜かして怯える女性、今にも襲い掛かりそうなメスゴリラ。


 助けなければ! 

でも、あれ、今俺ゴリラだし、どっちを助ければいいんだ。

若いエルフ? メスゴリラ?


 そんなことを考えているうちに、メスゴリラがエルフの顔を引っぱたいた。


「ウホホホ! ウホホホホホ!(うるさい! このメスエルフ!)」


 あ! ゴリラの言ってる言葉が分かる! しゅごい!

ゴリラになったのだからゴリラ言葉が分かるのは当然だろうけど、その新鮮さに感動してしまう。


 だが、そんな感動は今は置いておいて、とりあえず俺はメスゴリラとメスエルフの間に割って入った。


「ウホ! ウホホホホホホ!(ちょ! あんた誰よ!)」


「ウホ……ウホホホホホ、ウホホホホ(俺は……とおりすがりの、ただのゴリラだ)」


「きゃああああ!!! ゴリラが増えた!!!」


 叫び声をあげながら余計に怯えるエルフ。

まぁそりゃそうだよな。森で一人若いエルフがゴリラ二匹に襲われそう(?)になっているだから。


「ウホホホ!(うるさい!)」


「ウホウホホホ(まぁ待てよ)」


 メスゴリラがさらに一発お見舞いしようとしている手を俺のけむくじゃらな手が抑える。

手と手が触れ合った瞬間、メスゴリラの目が一瞬乙女に――なった気がした。

なんというか乙女らしい潤んだ瞳というか、『あ、恋しちゃった』みたいな。


 止まった時の中で、ゴリラ(俺)とメスゴリラの視線が絡み合う。

その間にメスエルフは走って逃げ去った。


「ウホホ……ウホホホホホホ?(あんた……どこのゴリラなの?)」


「ウホホ……ウホホホウホホホホ(俺は……最近越してきたんだ)」


「ウホホホ?(名前は?)」


「ウホホ、ウホホホ(健太、健太だ)」


「ウホホ……(健太)」


 掴みっぱなしだった手が離れる。

メスゴリラは潤んだ瞳のままではあるが、プイと背を向けた。

少しだけ顔をチラリと覗かせると、赤く染まった頬で俺の顔を見つめる。


「ウホホホホホホホホ。ウホホホホ。ウホホホホホホホ(この近くになわばりがあるの。ついてきて。案内してあげる)」


 なわばりって。

ってことはまだまだゴリラがたくさんいるのだろうか。


「ウホホ、ウホホホホホホホ(あんた、ちょっとかっこいい顔してるじゃない)」


「ウホ? ウホウホホホホ?(え? 何か言った?)」


「ウホホホホン!(なんでもないわよ!)」



***


 メスゴリラと出会った日から1年。

異世界でゴリラとなった俺はメスゴリラに案内されるまま、なわばりに入るとすぐに懐柔し、このなわばりの王者となった。


 またゴリラは習性としてハーレムを形成するらしく、俺の周りにいるゴリラはみなメスゴリラである。

ゴリラゆえに人間離れした力(主に筋肉)を手にし、ハーレムを手に入れた。


しかし、俺の知っている異世界転生はこのようなものだっただろうか?

力、ハーレム、チヤホヤしてくれる仲間。


 言葉にすれば全て道理ではあるが、だいぶ違う気もする。

次転生するときは何になるのだろうか。もしかしたら人間でもゴリラでもない、もっと酷いものになるかもしれない。


 そんな考えが頭を過りながら、俺は今日もゴリラとして生きていく。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「ウホホホウホホホ。ウホホホホホホホホ(ショートショート、おもしろかったです。)」
[良い点] ゴリラになつまた主人公が、わりと冷静にゴリラになったことを受け入れ、ゴリラのハーレムに飛び込んだ姿は、郷に入れば郷に従えを実践する姿こそ、真の漢。勇ましい者と書いて勇者だと思いました。 百…
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