共存への道
俺は完全に動きの止まった魔族に向かって、〈クリスタルレーザー〉をちらつかせた。すると、ほとんどの魔族が我を取り戻し、森の方へ一斉に逃げだした。
それと同時に、帝国軍の片付けの速度も驚くほどに早くなっていた。
「あの精霊、どんだけ強さを強調してたんだよ……」
だが、そのおかげで早々に終わらせることができた。そこだけは感謝だな。
手のひらの上の〈クリスタルレーザー〉の圧縮率を変える、という遊びをしながら終わるのを待っていると、四人の魔族が俺の目の前に来た。それぞれ、百人ほどの部下を連れている。
「へぇ、思ったよりも多かったな」
「魔王様、人間との共存というのは本当でしょうか?」
精霊の記憶によると、ナディアという魔族のようだ。
「ああ、本当だ。お前らは俺についてくるのか?」
「私は、魔王様にどこまでもついていきます」
…… あの精霊、この子を抱いてやがった。てか、それ以前に命を助けてやがる。なんだこの複雑な気持ちは。怒りと感謝が同時に込み上げてきたぞ。
「それにしても、まさかカルロとステラがついてくるとは、驚いたな」
「俺は、魔王様の持っている力がわかった。自分の欲しいものを手に入れる力だ。その力なら、人間との共存もできると思う」
「へぇ、ずいぶんと信用されたもんだ」
「俺の軍でできなかったことを、一人でやり遂げられたからな」
あの時に精霊が行った信用を得る作戦、予想以上に効果があったみたいだな。
共存を望む魔族が多いことはいいことだし、これは素直に感謝だな。
「私も、魔王様ならできると思うんだよねー」
「ステラは俺に怯えてなかったか? てっきり逃げるかと思ったんだが」
「私、命令に逆らったことなかったはずだよー。そう思われてるのは心外なんだなー」
「まあ、言われてみればそうだったな」
あの精霊自身、ステラに興味がなかったせいで、あまり情報を持っていなかった。これから見ていくしかないか。
「セルジオは、共存に興味があったのか?」
「はい。ずっと前から考えておりました」
「平和主義そうな顔してるもんな」
「魔王様がそうおっしゃるのなら、そうなのかもしれません」
頭脳派の魔族がいるのはいいことだ。共存に導きやすくなる。
「その他の魔族も、俺についてきてくれるんだな。これからはともに頑張っていこう」
俺がそう言うと、魔族は少し戸惑いながら膝をついた。
「なんか、優しくなったなー」
「雰囲気が変わっておりますな」
「口調も変わってるな」
「全員、魔王様に失礼ですよ」
「ほら、さっさと行くぞ」
「「「「はっ!」」」」
俺は魔族の仲間を引き連れ、元王都のリベリオン本部に向かった。
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「アル君!!」
本日二度目のソフィの飛びつき。もちろんしっかり受け止め、ぎゅっと抱きしめた。
「ただいま、ソフィ」
「おかえりなさい! アル君!」
あれから帝国軍は帝国に帰り、ほとんどの魔族はどこかへ消え去った。俺についてきた魔族は、とりあえずひとかたまりになって、地下の部屋に入ってもらった。
リベリオン本部。見た目は館だが、地下に大きく深く伸びているため、見た目以上の収容力がある。
こいつの元は、王城の近くにあったアバークロンビー家の館だ。それを俺とヨハンで大改造を施し、今の形となった。
「アルフレッド、今回のことは本当に助かった」
勇者を代表してか、アレックスが俺に頭を下げた。
「気にするな、と言っても無理だろうから、これからはリベリオンとして働いてもらうぞ?」
「もちろんだ。なんでも言ってくれて構わない。できる限りのことはやる」
「よし、バカやったぶん、存分にこき使ってやるから覚悟しとけ」
「了解、アルフレッド」
リベリオンの戦力がどんどん増加していくな。初代魔王に現魔王に勇者。だんだんチートくさい組織になってきたぞ。
「なあ、アルフレッド、一つ聞きたいんだが、いいか?」
アレックスが手を挙げつつ、俺に言った。
「おう、質問はどんどんしてくれ」
「結局、あの魔王とアルフレッドってどんな関係だったんだ? というか、俺たちが洗脳されてから、いったいなにがあったんだ?」
「話すと長くなるが、それでもいいか?」
「ああ、教えてくれ」
「わかった。じゃあ、とりあえず座れる所に移動するか」
そう言って俺たちは、館の会議室へと向かった。