第一歩
体の中にしっかりと魔力を感じる。五年もの間、魔力がなかったものだから、少し不思議な感覚だ。
ついでに左目の魔眼も戻ってきた。これで魔力を見ることもできる。
「アル君……?」
俺はフクロウの仮面を外し、四人に向き直った。
「お帰り、みんな。そして、よく頑張ったな、ソフィ」
「アル君!!」
俺は飛びついてきたソフィを受け止め、頭をポンポンと撫でてやった。
「まったく、全員世話をかけるなよ。五年もかかっただろ」
『まったくよ。何回もリベルは死にかけてるんだから』
まあ、魔法が使えなかったぶん、危ない目には死ぬほどあったな。
「ジュリア、リベルって誰だ?」
アレックスがジュリアに聞いた。
そういえば、最近アルフレッドって呼ばれてないせいで、違和感がなくなってきているな。
ジュリアも呼び慣れているせいで、リベルと言ってしまったのだろう。
『アルフレッドの今の名前。ちなみにリベリオンのボスよ』
「リベリオンっていうと、レジスタンスの……?」
「そういうことだ。さあ、迎えが来たみたいだし、先に帰っててくれ」
すると、扉の方からシャルとヨハンが入ってきた。
「お久しぶりです、勇者様方。アバークロンビー家のシャーロットです」
「はじめまして、ヨハンと言います。魔道具師です」
お淑やかな感じであいさつを済ませたシャルと、全身ガチガチであいさつをしたヨハン。
「ヨハン、もうちょっと楽にしろ」
「いや、だって、勇者だぞ? 緊張するだろ、普通」
「なら、俺と一緒にいる時も緊張しろよ」
「そりゃ無理だな。だって、リベルだし」
「あっそ」
酷い言い様だな。まあ、そっちの方が友達としてありがたいんだが。
「てか、もうソフィアちゃんとくっついてるのかよ」
「五年経っても、愛は健在ということだ」
「あっそ」
恋人いない歴の長いヨハンからの、冷めた視線が俺に突き刺さった。まあ、そんなものは気にしないんだがな。
「そんなことより、早く連れて行ってくれ。俺には、まだやることがあるからな」
「わかりました。では、勇者の皆様は私について来てください」
シャルに従い、アレックスとターニャとランベルトが立ち上がった。だが、ソフィは俺から離れようとしなかった。
「ソフィ?」
「アル君、ごめんなさい。こんな大変な思いばっかりさせて。今回のこともダンジョンの時も…… だから、今回はついていきたいんだけど、ダメかな……?」
「ソフィ……」
少し考えて、俺は結論を出した。
俺はソフィの頭に手を置き、口を開く。
「ダメだ」
その言葉で、ソフィの体はビクッと跳ね、俺を抱きしめる力が少し強くなった。
「ごめんな。さすがに、自分で仕掛けた戦争に、ソフィを巻き込みたくはないんだ」
「わかった…… わがまま言ってごめんね。待ってるから」
「ああ、すぐに戻るよ」
ソフィは俺から離れ、赤く腫れた目でしっかりこちらを見てきた。
「アル君、愛してるよ」
「おう、俺も愛してる」
俺は一度だけ、ソフィの額に口づけをした。
「シャル、ヨハン、頼んだぞ?」
「任せとけ」
「お任せください」
俺は、魔導人形が壊した穴から飛び降りて、急いで戦場へと向かった。
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戦場は指揮官を失い、慌てふためいている帝国軍と、それを追い詰める魔族で構成されていた。
俺は、そんな戦場のど真ん中に降り立った。
「両軍! やめぇい!!!」
俺の一言によって、魔族も人間も動きを止めた。そして、両軍とも俺の出現に驚いていた。
「魔王だ…… 魔王がきた!」
と、絶望に浸る声や
「魔王様だ! 魔王様がともに戦ってくれるぞ!」
と、歓喜する声まで聞こえる。
だが、俺の目的は人間を滅ぼすことでも、魔族とともに戦うことでもない。
「帝国軍よ! 王都は我らが貰った! 今すぐ引け!」
俺のその言葉を聞いた帝国兵は、呆気に取られたような顔をしていた。
「聞こえないのか! 今すぐ帝国に帰れと言ったのだ!!」
もう一度言ってやると、それがトリガーとなったのか、全員引き下がり始めた。
それを確認し、次は魔族の方を向く。
「魔族たちよ! 私とともに、人間と共存したいという者はこの場に残れ!! それ以外の者は、私が直接チリにしてやる!!」
こちらも一度では理解できなかったのか、誰もが唖然としていた。ついでに、この言葉を聞いた帝国兵も、あんぐりと口を開けていた。