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一つに 〜アルフレッド〜

 俺は魔王の左腕をジュリアで斬り飛ばし、ソフィを庇うように前に出た。


「ギリギリで間に合ったな」

『私がいなかったらヤバかったわね』


 まったくその通りだ。ジュリアがいなかったら、魔力の込もった魔王の腕を斬り落とせなかっただろう。いつも助けられてばかりだな。


「ぐっ、まさかここで貴様が出てくるとはな」

「さすがに、こいつらを殺されるのは困るからな」

「ソフィの決断を冒涜する気か?」

「死ぬ決断なんてものを尊重してたまるかよ」


 俺は、勇者たち四人の状態を確認する。体はボロボロだが、死ぬことはなさそうだ。


「ジュリアに、そこのあんた! なんだかわからんが感謝する! 助かった!」

『アレックス、ずいぶんなやられようね。洗脳もされてたし、本当に勇者なのかしら?」

「それは酷くない!?」


 久しぶりにアレックスのツッコミを聞いたな。クラリスと似たようなツッコミだが、こっちはこっちでまた別の懐かしさがある。


「てか、俺を忘れてるのも酷くないか?」

『でも、魔王だってアルフレッドだし、わからなくても仕方ないんじゃない?』

「それもそうか。ソフィも戸惑ってるしな」


 ソフィは、俺と魔王を交互に見て驚くとともに、頭に複数のハテナを浮かべていた。


「まあ、説明はあとだな。それよりも魔王、復讐をやめろ」

「断る。私はこのためだけに生きてきた。やめてほしくば、私を止めてみせるがいい」

「ああ〜、我ながら面倒くさいやつだな」

「では、行くぞ!」


 魔王は俺の顔に向かってパンチを繰り出した。俺はその一撃をわざと受けた。すると、魔王の拳が霧散し、俺の体に魔力が入ってきた。


「なに!?」

「お前の魔力はもともとは俺の魔力だ。触れたらこうなるのは当然だろ」

「クソ! ならば、これでどうーー」

「おっと、そうはさせんぞ」


 魔王が魔法を発動しようとしたので、とりあえず俺は、魔王の四肢を断ち斬った。

 支えがなくなったことにより魔法は中断され、魔王は地面に転がった。


「…… ふ、ふふ、ふははは! まさか、ここまでとはな! せっかく体を得たというのに、また私は閉じ込められるのか……」

「なに言ってんだ。閉じ込めるわけないだろ」


 そもそも、俺は魔王を閉じ込める方法を知らない。


「ほぅ、私を精霊結晶以外の場所に置くというのか? 人類が滅んでも知らんぞ?」

「そうはならない。なぜなら、お前の記憶や存在は、俺の魔力と一体化しているのだから」


 精霊結晶に入っていた復讐の精霊。それが俺の魔力と結びつき、新しい存在が作られた。それが、この魔王だ。


「確かにそうだな。私は貴様で、貴様は私なのだから」


 そのベースとなったのは俺で、精霊は俺の魔族の部分だけを切り抜いて魔王となった。


「その通りだ。なら、もう一度元に戻るだけだろ? 俺とお前が一つにな」


 俺の体と魔王の魔力は、もともとは同一だったもの。なら、また一つに戻ればいい。


「それをしてしまえば、貴様は復讐心に取り憑かれるぞ?」

「俺を心配してくれるのか? もしかして、元は結構優しい精霊だった?」

「くだらん。私が私でいられるのなら、私は一向に構わないのだがな」


 意外とツンデレな精霊だな。


「へぇ。でも、俺が復讐に囚われることはないぞ。俺は復讐を受け入れるんだからな」

「復讐鬼になるつもりか?」

「いいや、受け入れてしまえば、復讐心は自然と消えてくんだよ」

「どういうことだ?」

「復讐の感情しかないお前にはわからないだろうな。愛や友情なんてものは」

「愛か……」

「というか、そもそもお前は、復讐心に取り憑かれすぎなんだよ」

「どういうことだ?」

「裏切ったのはオリヴィアだし、裏切らせたのはジンだ。こいつらはそもそも関係ない。お前はジンとオリヴィアへの復讐心を増幅させ、わざわざ勇者パーティまで復讐の対象にした」


 優秀な闇魔法師であるオリヴィアに操られただけで復讐の対象になるとか、理不尽すぎる。


「だったらどうしたというのだ?」

「欲張りすぎなんだよ、お前は。ジンとオリヴィアだけに対象を絞っていれば、もしかしたら復讐は叶ったかもしれないのにな」


 昔の俺など、自分の居場所を守ろうとしていっぱいいっぱいだったというのに、復讐する気になった途端にこのザマだ。まあ、半分以上はこの精霊によって増幅された心なんだが。


「…… ふふ、やはり貴様は面白いな。さすがは私だ」

「お前はずいぶんと慢心しているな。俺とは思えん」

「私の性格は精霊がベースなのだし、当然だろう」

「あの精霊の性格ってこんな感じなのか? 俺も面倒なやつに目をつけられたもんだな」

「王城の宝物庫で貴様を見た時、なにか運命を感じたからな」

「結局はその運命通りに進んだわけだ。精霊の勘も伊達じゃないな」

「ふふ…… だが、それもここまでだ。精霊の勘なんてロクなもんじゃない」

「それもそうかもな」


 俺は魔王の胸に手を当て、魔力を自分の体に戻していく。

 魔王は抵抗することなく俺に吸い取られていき、体を構成していた魔力がなくなり、徐々に薄くなっていった。


「私にならないよう、せいぜい気をつけることだな……」


 完全に消える寸前、こんな言葉を残し、魔王…… いや、復讐の精霊は俺と同一化した。

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