魔王の作戦 〜ジン〜
戦況は若干不利ですが、乱戦になっているので、すぐに有利になるでしょう。数の暴力というやつですねぇ。
問題は、魔王軍がこのまま終わるわけがないということですかねぇ。いったい次はどんな戦法を使ってくるのやら。
勇者は、その戦法が出るまでは出したくありませんねぇ。あちらには黒竜もいますしねぇ。
「散々なやられぶりだな、ジン大佐?」
「ここからは帝国が押し返すでしょう。それまでの我慢ですよ、ギュイ中将殿」
今、私の隣にいる男はギュイ中将といって、私が敗戦したことによって帝国から送られてきた指揮官です。
まあ、最近の私は負け続きですからねぇ。帝国の心配も最もなものでしょう。
ですが、こんな揚げ足しか取れない無能が中将とは。帝国の上層部も金で動いているのですかねぇ?
やれやれ。腐った上層部とは早くお別れしたいものです。従っている方が疲れますからねぇ。
「ふん、敗戦続きの男の言葉など信用ならんな」
「すぐにわかりまーー」
ドォォォン!!!
「なんだ!?」
「魔道具の爆発音だったらいいんですけどねぇ」
すると、部下の一人が私の部屋に入ってきた。
「た、大変です! ま、魔王が! この建物に乗り込んできました!!!」
「なんだと!? 魔王が直接か!?」
「は、はい! 一人で来た模様です!!」
なるほど、これが今回の作戦ですか。まさか敵陣地に単騎で乗り込むとは。魔王だからこそできる作戦ですねぇ。
「ええい、魔王め! 舐めた真似をしおって! 討ち取ってくれるわ!!」
中将殿はそう言い残し、下の階に行って部下に指示を出し始めました。魔王相手となると、こっちの無能の方が無謀ですねぇ。
「オリヴィア、勇者たちを呼んでください」
「…… もうやってる」
「では、隠れる準備でもしましょうか」
そして、私たちが部屋を出ようとした時
「そうはさせんぞ」
という声とともに、魔王が部屋の扉を開けました。
手にはギュイ中将の頭を持っており、中将の顔はポカンとした表情を浮かべていました。おそらく、死んだことに気がついていないのでしょう。
「これは手土産だ」
魔王は私の足元へ中将の顔を投げ、こちらにゆっくり歩いてきました。
「これは、大ピンチですねぇ」
「また特異魔法を使えばいいだろう? あの時のように」
「あなたには効かないでしょうに…… 〈グラビティ〉」
そう言いつつも私は、万に一つに賭けて魔法を使いました。
魔法の種類は特異魔法。名前からもわかる通り、重力場を発生させる魔法です。
主に上からかけることによって、相手を地面に押し付けて動けなくします。ですが
「〈リペル〉」
それはアッサリと無効化されました。
「それがあなたの特異魔法ですか?」
「そういうことだ」
特異魔法〈リペル〉。魔法を完全に無効化する魔法のようですねぇ。これは、体術関連をまったく習っていない私には荷が重いですねぇ。
それから魔王は、私とオリヴィアの目の前で止まり、手のひらに白い正十二面体の物体を作りだしました。
「さあ、死ぬがいい」
魔王がその光を、私とオリヴィアに向けて発動しようとした瞬間、部屋の扉が再び開き、剣が魔王を串刺しにしていました。
「…… アルフレッド、ごめん」
魔王を串刺しにしたのは、オリヴィアの操作している勇者でした。勇者は剣を、魔王の心臓から引き抜き、私たちを守るように立ちました。
「これくらいでは死なんぞ、オリヴィアよ」
魔王は自分に空いている穴を魔法で治し、こちらに向き直りました。つくづく化け物ですねぇ。
「ふふふ、まさか、ここで復習対象のすべてが揃うとは。私は運がいいな」
挙げ句の果てには、勇者たち四人とオリヴィアを目の前にしながら、運がいいなどと言っている始末です。自分が負けるとは思っていないようですねぇ。
魔王と睨み合いをしていると、突然その場に魔導人形が現れ、私とオリヴィアを抱えました。
魔導人形は、そのまま建物の壁を壊して飛び降りると、東の方へ走り始めました。
「なるほど、この方法がありましたか。さすがはオリヴィアですねぇ」
「…… このまま帝国まで行く」
「上層部になんて言われますかねぇ……」
「…… 気にしない」
「なんなら、帝国には戻らず、このまま二人で動きますか?」
「…… 賛成」
オリヴィアの操っている魔導人形は、北東の方向へ進路を変え、そのまま魔王から距離を離していきました。