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期待 〜魔王〜

  私がカルロに出撃許可を出した次の日、第二軍は西に進軍を開始した。


「魔王様、本当によろしかったのですか?」


 セルジオが、カルロの向かった方向を見つめながら私に問いかけた。


「構わん。勝とうが負けようが、人間を滅ぼす結果には変わりない」

「ですが、今第二軍の戦力を減少させるのは得策とは言えないのではありませぬか?」


 ただでさえ四万しか兵がいない中で、私が第二軍の出撃を許した理由。それは期待に他ならない。


「貴様も、カルロほど無鉄砲であったら面白いのにな」

「私は生きるために戦うのみです」


 つまらん男だ。


「セルジオ、貴様は賢い。だからこそ、バレンタイン領に突っ込むことが危険であるとわかっている」

「流石の洞察力でごさいます」

「そういうのはいらん。私にだって知らないことはある」

「失礼いたしました」


 皆は、私のことをよく持ち上げる。だが、自分が復讐に囚われた愚か者であることを知っていると、そんな言葉は途端に嬉しくなくなってしまう。


「この戦、もしカルロが勝ったらとしたらどうする?」

「それはあり得ませぬな。なにせ、バレンタイン家は帝国軍との繋がりが強く、戦力は元王国内では最大なのですから」


 バレンタイン家は王国が戦争に負けてから、一番に帝国側についた貴族だ。

 これは一件酷いようにも見えるが、賢い選択だろう。負けた以上、王国側に味方してもいいことがないのだから。

 いや、もしかしたら娘がいたからかもしれんな。あいつはソフィには弱かったからな。


「そんな理屈はどうでもよい。ただ、勝ったとしたらどうする?」

「…… カルロを尊敬するでしょう。名将であると」


 誰だってそうだろう。なにせ、不可能と言われたことを可能にしたのだから。


「では、私が名将カルロを魔王にすると言ったらどうする?」

「なっ!? それは……!」

「私とて、カルロがこの戦に勝てるような逸材であるとは思わん。だが、もし勝つことができたのであれば、それは私の予想を上回ったということだ。なら、この程度の予想もできなかった私に、魔王を続ける資格はないし、不可能に打ち勝ったカルロは、魔王として相応しい実力を持っているということだろう」

「し、しかし……!」

「ふふ、意地の悪い質問であったな。だが、これはもう決定事項だ。反論は認めん」

「わかり申した……」


 セルジオは、苦い表情をしながら部屋を出ていった。

 あんな顔をしていたが、賢いセルジオのことだ。私の決定を破ることはないだろう。

 ナディアのことといい、魔族は皆、私が第二軍を出撃させたことをよく思っていないらしいな。

 まあ、魔族の意見などどうでもよいのだが。


 私は第二軍の状況を見るために、窓を開けて魔眼を発動させた。

 私の魔眼は、魔王となるまでの工程で性能が上がっており、今では十キロ先でも透視することができる。

 すると、誰かがドアを開けて私の部屋に入ってきた。そして、私の後ろで立ち止まった。


「こんなことをして、本当にあなたについていけば勇者を殺せるんでしょうね? 元勇者パーティの魔王様?」


 少し不機嫌そうな雰囲気とともに、私の背中に向かって、彼女は私に問いかけた。


「エマ、この程度では私の計画は崩れんぞ。私の計画を崩せるのは、この世で一人しかいない」

「ふぅん。それで、その一人って誰よ? 帝国のジンっていう男のこと?」

「いいや、ジンは私を止められない。なぜならやつは、帝国の勝敗などハナから気にしていないからだ」

「じゃあ誰よ?」

「私だ」


 それを聞いたエマは一瞬ぽかんとすると、すぐに呆れた顔になった。


「はいはい、そうですね。あなたの決定はあなたにしか止められないわねー」

「……」

「私は、あなたについていきさえすれば、復讐を果たせるのよね?」

「その通りだが、貴様は一つ勘違いをしているな」

「なによ?」

「私は、貴様の復讐を手伝ってやる気などないぞ」

「は? だって、目標は同じじゃない」

「だからこそ、私が勇者たちを屠るのだ。貴様にはやらん」

「あっそ、じゃあ勝手に横取りさせてもらうわ」

「やってみるがいい」

「ええ、そうするわ。じゃあね」


 エマは、話をしても無駄だなと察したような顔をして部屋を出ていった。


「私から獲物を横取りできると思うなよ、エマ……」


 私は、エマの出ていった扉に向かってそれだけ言うと、再び魔眼を窓の外側に向けた。

エマ…… 覚えている人は果たしているのか……?

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