俺と王子様との格差
今日は国立ラント王国大学院の入学式である。
学院では、制服がしっかりと用意されていて、アバークロンビー寮の館の方に郵送されてきた。学院内ではこれを着ることになる。
制服には、トラップスパイダーという蜘蛛の魔物の糸が使われていて、かなり丈夫にできていた。高級品だ。
そんな高級品が全生徒に支給されているのだ。学院の財力は相当なものだろう。
この学院に入学するのに必要な物は、授業料と、毎年一定量のお金を納品することだけである。それ以外のことは、王国の税金で賄われている。
王国の財力が、一体どれだけ潤っているかも分かるだろう。
「思っていた以上にデカイな、この学院は」
「うん。私もこんなに大きいとは思わなかった」
唖然としているソフィと俺。
それも仕方ないだろう。何しろ、全校生徒が三千人もいるのだ。前世の大学に比べたら小さいかもしれないが、ディヴェルト大陸では、この学院の大きさは異様と言えよう。
校舎はともかく、敷地がとてつもなく広い…… いや、校舎もかなりでかいんだが。
この敷地の広さは、魔法や剣術などの実践をするのだから当然必要だとは言えるが、一体整備費にいくらかかるんだか。
「早く体育館に行こうか。入学式に遅れるぞ」
「そうだね。早く行こっか」
体育館に入ったが、既に席の三分の一は埋まっていた。
何処でもいいらしいので、適当な所に座る。
「この体育館、三千人入ってもまだ余裕がありそうだな」
「全校集会とかも、ここで行うらしいからね。教員の数も生徒に比例して多くなるだろうし」
「余裕があるように作らないと、窮屈になるのか」
この学院の建設費を聞いてみたいものだ。
そんな話をしている間に、いつのまにか新入生が全員揃ったみたいらしく、始業式が始まった。
眼鏡をかけた女教師がステージに上がってくる。レディースーツを着て、鞭とか持ったら、完全に一部の性癖持つ人間に好かれるだろう、というようの見た目をしている。
ちなみに、俺にそういう趣味は無い。
「これから、国立ラント王国大学院の入学式をし始めます。学校長挨拶、学院長先生お願いします」
女性教員に呼ばれ、学院長が登壇した。話が長そうな顔をしている。
短めでお願いしますよ? ほら、人は見かけによらないっていうしね。
「皆さん、おはようございます。まずご入学おめでとうございます。さて、桜の花が芽吹き始めた頃ですが…………」
な、長い…… もう話始めて三十分は経つぞ…… いい加減終わってくれ。何で転生してまで、校長先生の話で疲れなきゃならんのだ?
どうやらどの世界でも、校長先生の話は長いらしい。
その後も式は着々と進んでいき、生徒代表挨拶となった。この学院の生徒の代表は、基本的に家の位の高さによって決まる。
今年はどうやら王子様がいるらしい。ええと確か、リューリク・ラント第二王子だったか。
挨拶をしているが、よく聞き取れない。というのも式があまりにも長いため、そろそろ眠くなってきたのだ。意識が朦朧としていて、言葉がうまく耳に入ってこないのだ。早く終わらないかなあ。
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やっと入学式が終わった。もう疲れた。
途中でハッとして、ソフィの方をチラ見したのだが、ソフィも眠気と戦っているらしかった。やはり、学院長先生のお話が長すぎるのだ。
この学院では、一つのクラスは約五十人、一学年が千人と少しなので、だいたい二十クラスある。
ちなみに、俺とソフィは同じAクラスである。クラス決めはランダムだったのだが、どうやら一緒になれたようだ。
そして、どうやら同じクラスには、先程生徒代表挨拶をしていた王子様もいるらしい。
そのおかげで、教室に入ってから、王子様に気に入られようとしている女子がうるさい。
だが、なびかない人もいくつかいる。もしかしたら、許婚がいるのかもしれない。それとも興味ないだけだろうか
一応言っておくと、俺のソフィは全くなびいていない。さすがだ。
「いやあ、誰とも縁のない人達は大変なんだねー」
とか言ってる。完全に他人ごとみたいな雰囲気だ。
実際他人ごとなんだけどね。
それにしても、俺も何故か変な注目を集めているみたいだ。おそらく魔法が使えないことが原因だろうな。アバークロンビー家の長男は無能だという噂を、何度か聞いたことがある。
そういう目で見ている人たちを、ソフィは睨んでいた。そんな目で見ても可愛いだけだぞ。と言ってやりたい。
だが、他の連中はそうは思わなかったらしく、俺から目を逸らした。
まあ、ソフィの魔法の才能がとんでもないことは、王国中に知れ渡っているからな。そして、俺の許婚だということも。
何故優秀なバレンタイン家の長女が、無能なアバークロンビー家の長男の許婚なのだ。と巷では囁かれているそうだ。
これを口を大にして言ったら、アバークロンビー家とバレンタイン家に喧嘩を売ることになるから、公には言えないだろうがな。
「噂なんて、本当かどうかも知らないくせに」
「まあまあ、ソフィはかわいいからな。それが妬ましいんだよ」
「か、かわいいなんて……そんなことないよ……」
顔を仄かに赤らめて否定するなんて、何というテンプレ。そんなソフィの顔もめちゃくちゃかわいい。
「さて、みんな席につけー。出席を取るぞー」
教師らしき人が教室に入って来た。
あれが担任か。なんか適当そうな先生だな。
「ええと、俺がお前らの担任になる、ルイ・アチソンだ。よろしくなー」
アチソン家…… 確か男爵だったか。
次男は頭が良いと有名だ、と父様に聞いたが、まさか教師をしているとはな。
「今日は自己紹介をして、学校を軽く一周回って終了だ。さっさと始めるぞ」
ルイ先生に指され、廊下側から順番に自己紹介をしていく。
「ボクの名前は、リューリク・ラント。これから三年間、皆とは一緒のクラスになるから、よろしくね」
「「「キャーッ!リューリク様ー!!」」」
黄色い歓声と盛大な拍手が起こった。流石の人気だ。それに比べて俺の挨拶は、
「俺は、アルフレッド・アバークロンビーだ。三年間よろしく頼む」
ソフィ以外からの拍手はない。視線は嘲りが七割、興味ないのが三割ってところか。
ふと王子様の方を見てみたが、あまり俺を蔑んでないらしい。誰にでも平等に接する人柄のようだ。道理で人気が高わけだ。
それにしても、この調子だと誰とも仲良くできなさそうだな。まさかこんなところで、友達百人作ろう計画が崩れるとは。
俺のあとの人の自己紹介も終わり、学校見学だ。
そういえば、さっきの自己紹介で、俺以外の人は皆、最後にみんなに拍手されていた。やはり俺は、歓迎されていないらしい。
「何よあれ。みんなしてアル君をあんな目で見て……」
「まあ仕方ないさ。これから実力を見せつけていけば、いずれは友達もできるだろう。まあ、魔法はほとんど使えないがな」
「でも……」
「厄介者扱いされてない分まだマシだ。さ、そんなことよりも見学だ。早く行くぞ」
「うん……」
ソフィはまだ納得していないようだが、これ自体はどうしようもない。みんなが俺のことを認めるしか、解決法がないんだからな。
まあ、友達は多くなくても良いんだ。仲のいい友達が一人出来るだけも問題はないだろう。言い訳とかではなく、本気でそう思っている。
けっしてボッチの言い訳などではないのだ。
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《トラップスパイダー》
トラップスパイダーとは、Cランクの蜘蛛の魔物である。
糸で様々なトラップを作ることに長けている。
その糸の頑丈さはかなりのもので、強度はピアノ線にも匹敵するが、触り心地はふんわりとしていて、柔軟性がある。