別れた意見 ~魔王~
「魔王様! なぜすぐに攻め込まないのですか!」
私は一度軍議を開き、私の考えた作戦を伝えた。だが、カルロがそれに反対した。
「カルロ! 魔王様の作戦であるぞ! 静かに聞けんのか!」
セルジオはそれを叱り、カルロを止めようとした。しかし、それでもカルロは止まらなかった。
「聞けません! なぜ今攻め込まないのです! 戦に負けた帝国が立ち直る前に、一気に叩くのが一番でしょうに!」
「カルロ!!」
「セルジオ、よい。カルロの意見を聞かせろ」
「わかり申した」
私はセルジオを制し、皆が跪いている中、唯一立っているカルロを見た。
「カルロ、貴様はバレンタイン領をどうするつもりだ?」
「たった一万の伯爵軍に、なにを警戒するのです!? そのまま押し通ればよいでしょう!」
「それはできんな」
「なぜですか!?」
「貴様は人間をわかっていない。人間は、追い詰められるほど強くなる生き物だ」
死ぬ気でかかってくる兵ほど、厄介なものはない。それをカルロはわかっていないのだ。
「…… でしたら、我が第二軍のみで出撃させていただきます」
「カルロ! いい加減しろ!」
「好きにしろ」
「魔王様!?」
「では、そうさせていだきます!」
そのままカルロは、胸を張って部屋から出ていった。
「これで軍議は終了だ。セルジオ、ステラ、ナディア、兵の士気を整えておけ」
「「「はっ!」」」
セルジオとステラは部屋を出ていき、ナディアだけがここに残った。
魔王は、人間の国の王とは似ているようで違う。
魔王の支配は力によるもので、民の意見など関係ないのだ。簡単に言うと、独裁国家のようなものだ。
すると、当然反発する者も出てくる。それがカルロを始めとした第二軍であることは、もはや誰の目にも明らかだ。
そして、その反発に反発する者も当然いる。
「魔王様、なぜ出撃を許可したのですか?」
ナディアは、いつもより少しトーンを下げて私に問いかけてきた。
「なぜだと思う?」
「反発していたカルロを始末するためでしょうか?」
ナディアらしい、とても論理的な意見だ。だが違う。
「優秀な者を殺してどうする?」
「優秀な者だからこそ、敵に回したら厄介なことになります」
「確かにそうだ。だが、そこをなんとか改心させるのが、王というものではないか」
ナディアの不満そうな顔を見ると、思っていることがよくわかる。
それは魔王のやることではない。そう聞こえてくるようだった。
だが、歴代の魔王のことなど知ったことではない。私は私だ。だからこそ、私は私の好きなように行動する。
たとえ、過去の魔王ができなかったことでも、私はやり遂げてみせる。なぜなら、私がアルフレッドであるからだ。
「改心させるというのなら、なぜ出撃させたのですか?」
ナディアは、少しムスッとした表情で、再び疑問を口にした。
「生きていく中で、私たちが成長する方法はなんだ?」
「…… 経験でしょうか?」
「いや、それでは足りんな。答えは知識と経験だ」
「どういうことでしょう?」
「つまり、戦争という経験の中で、私が正しかったということを知識に加えてしまえばいい。自分が間違っていたと認知させ、私こそが正しいのだと考えさせてしまえばいいのだ。人だろうと魔族だろうと、こうなってしまえば変わらない。信用してしまったら最後、私に跪くしかなくなるのだ」
「なるほど……」
「だがもし、カルロがバレンタイン家に勝ったのなら、その時は新しい魔王の誕生だ。私は魔王の座から身を引こう」
私がそう発言した瞬間、ナディアの目は大きく見開かれ、体を前のめりにして口を開いた。
「そんなことはさせまーー」
「ナディア! 私の覚悟に泥を塗るか!?」
だが、私はそれを皆まで言わせなかった。
私には覚悟がある。魔王として、勇者を殺す者として、アルフレッドとしての責任がある。
「魔王様……」
「貴様の気持ちは嬉しく思う。だが、私の言葉を覆すような真似は許さんぞ」
「はい。失礼を申し上げました」
「構わん。少し頭を冷やしてこい」
「はい……」
ナディアは、体を小さくするように縮こまりながら部屋を出ていった。