通信 〜リベル〜
俺は領主を殺害してから、コロネン領内の散策をしていた。
「おじさん、串焼き二つください」
「あいよ!」
昼飯の肉にかぶりつきつつ、街中を見て回る。
石造りの綺麗な道路や街の真ん中にある噴水、今日は一段と多い兵士たち。これぞ帝国って感じだな。
歩いていると、俺のポケットから音が鳴り始めた。
俺はポケットから小さな魔道具を取り出して、耳にはめ込む。
「もしもし、こちらリベル」
『こちらヨハンだ。コロネンの領主はどうなった?』
「昨夜殺したぞ。ちなみに、追われている気配もなしだ」
兵士たちは、街中を満遍なく探しているが、俺がやったとバレる気配はない。
『さすがはリベルだ。魔法が使えないのに、よくできたな』
「魔法が使えないからこそ、頭と体を使ってるんだよ」
この五年で、いろいろと身につけたからな。いや、身につけなければいけなかったと言うべきか。
『なるほど。剣士の次は軽業師か?』
「心は今でも剣士なんだがなぁ」
『ジュリアさんが戻れば剣を振れるだろ?』
「俺、長剣苦手なんだが……」
魔法が使えない分、戦闘力としてはリベリオンの団員に劣る。
それをジュリアが気遣って、聖剣状態で使わせてもらえるのだが、片手半剣のあのバランスじゃないとしっくりこない。
せめて魔力が少しでもあれば、ミスリルの愛剣を使うんだがなぁ……
『文句ばっかり言ってると、またジュリアさんが拗ねるぞ。ミスリルと私のどっちがいいのよってな』
「お前、なんでジュリアをさん付けで呼んでるんだ?」
『うっ…… だって、あの性格苦手だし……』
まあ、ジュリアは、俺以外には当たりが強くなるからな。特に初対面なんかは、口調が強いせいで、苦手意識を持たれやすいんだろう。
「そういえば、ジュリアって今どうなってるんだ?」
『今は洞窟の九十階層まで行ったみたいだぞ。さっき連絡が届いた』
「そうか。となると、もう少しだな」
『まったく、初代魔王も迷惑なもんだよな。まさか、ケルベロスの魔石を取ってこいなんて言うとは思わなかったよ』
クラリスは、自分のダンジョンから出れなくなっている。今はそれを、ジュリアが救いに行っている最中だ。
「ダンジョンに魔力を使いすぎてるせいで、自分ではどうにもできないだったか? 確かに迷惑だな」
『それも、ジュリアさんならなんとかできるんだろ?』
「聖剣だからな」
『信頼してるんだな』
「当たり前だ。というか、リベリオンのみんなを信頼してるぞ」
『ボスの期待を裏切らないように頑張りますっと』
きっと、俺の期待は裏切られないだろう。ヨハンだけでなく、全員が一丸となってのリベリオンなのだから。
「魔道具作りで体を壊すなよ?」
『大丈夫だ。最近は三時間は寝てる』
「それは寝不足だ。せめて五時間は寝ろ」
『はいはい』
これは絶対に言うことを聞かないな。
まったく、魔道具に熱中するのはいいんだが、それで倒れたら意味ないだろうに。
「そういえば、戦争の方はどうなった?」
『魔王軍の圧勝だ。帝国軍は尻尾を巻いて王都まで戻ってきたぞ』
「王都にいるのか。見つかってないよな?」
『魔道具で見つからないように結界張ってあるし、大丈夫なはず』
「自信なさげだな」
『正直、帝国の索敵能力がわからんからな。たぶん見つからないと思うんだが』
帝国にヨハン以上の魔道具技師がいるか、と言われるとなんとも言えない。
ヨハンは天才だが、帝国にも同じレベルのやつがいるかもしれないからな。
「警戒は怠るなよ?」
『わかってる。それはみんなに伝えておいた』
となると、あとは運次第だな。
「みんな、元気にしてるか?」
『そりゃもちろん。全員トレーニングしてるぞ』
「なら心配いらないか」
『こっちは気にするな。リベルこそ、気をつけて帰ってこいよ?』
「わかった。なるべく気をつけて戻る」
『それじゃあな』
「おう、王都でまた会おう」
俺はそこで通信を切り、魔道具をポケットにしまった。
さて、兵士の警戒が緩んだところで脱出しますか。