私が思う美しさ 〜ジン〜
これは予想外ですねぇ。まさか黒竜に魔物まで利用してくるとは。
「大佐! 魔物の群れが、魔法部隊に!」
「すぐに、隠していた三万人を回してください」
「はっ!」
この隠していた三万の兵。押し込むための最終手段だったのですが、この調子ではトドメを刺せそうにありませんねぇ。
せめて魔物だけでも倒さなければ、撤退すらも許してもらえないでしょうねぇ。
それに、あの黒竜、勇者以外の人間に気をつけながら戦っていますねぇ。もしかすると、なにか理由があるのでしょうか?
「オリヴィア、あの黒竜について、なにか知っていますか?」
「…… あれは、イービルヒート。勇者を止める役目がある」
「勇者以外は狙わないのですか?」
「…… そう」
これはいいことを聞きました。
「勇者の力で、イービルヒートは倒せますか?」
「…… 聖剣がないと無理」
ここで勇者を使えないとなると、結局は不利なことに変わりありませんねぇ。
「オリヴィア、勇者を戻してください」
「…… わかった」
オリヴィアが魔法で勇者に命令を出している間、私は軍の指揮を取ります。
まず、追加した三万の兵士の内、近接戦闘ができる者を魔物討伐に向かわせ、魔法が使える者を魔族との戦闘に参加させます。
現在一番厄介なのは、魔族の魔法の弾幕なので、それに対応しなければなりません。
魔王軍は一人一人の能力は高いですが、人数が少ないので、数で無理やり戦況を押し戻します。不利なことには変わりありませんが、先ほどよりはマシでしょう。
それと同時に、魔物に襲われている魔法部隊を陣形の真ん中に囲み、近接部隊を側面に配置します。魔物は、我が軍を挟むように迫ってきているので、これが一番良いでしょう。
「とりあえず、これでいいですかねぇ」
「大佐! 黒竜が引いていきました!」
勇者が戻ってきた途端、イービルヒートは魔王の元へ逃げ帰って行きました。
まさか追ってこないとは、見た目に反して詰めが甘いですねぇ。
とにかく、これで、最優先の勇者を安全な所へ持ってこれました。あとは逃げる準備を整えるだけですね。
逃げるとしたら夜でしょう。闇夜に紛れて、軍勢を動かします。それまでの辛抱です。
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その後、日が暮れるまで戦争は続きましたが、暗くなった瞬間に魔王軍は引いていきました。もしかすると、我が軍を誘っていたのかもしれませんが、それには乗れませんねぇ。
「撤退しますよ。全軍に通達してください」
「了解であります!」
なんとも情けない話ですが、今回もしてやられましたね。ですが、負けっぱなしなのは癪です。少し仕掛けを施しておきましょうか。
私はそのことを部下に伝え、馬車に乗り込む。
「さあ、行きましょうか、オリヴィア」
「…… うん」
やはり、最近のオリヴィアは元気がありませんねぇ。食事もあまり取っていないようですし、大丈夫でしょうか? 今度、医者に見せてみましょう。
それにしても、最初は十五万いた兵が、一万人は死にましたか。大惨敗ですよ。
負傷者も大量にいますし、元王都まで戻りましょうか。休息が必要になるでしょう。
元王都では、レジスタンスの動きが気になりますが、最近は見かけませんからねぇ。警戒だけは怠らないようにしましょうか。
私たちは、軍をいくつかに分け、西へ向かいました。一日あれば着くので、馬車の中で体力を温存しておきましょう。
「…… にぃさん」
「どうしたんですか?」
「……にぃさんの目的は、なに?」
「面白いことを聞きますねぇ。それはもちろん、世界征服ですよ。子供の頃から夢だったーー」
「嘘」
珍しいこともあるものですねぇ。オリヴィアが即答するなんて。
「…… この三年間。にぃさんを見てきたけど、そうは思えない」
「ふふ、少しは勘が鋭くなりましたねぇ?」
「…… 教えて」
「たとえ妹のお願いだとしても、それは言えませんねぇ」
「…… どうして?」
「どうしても気になるなら、自分で調べればいいのです。いつまでも私に頼ってばかりではダメですよ?」
「…… ごめんなさい」
「わかってくれれば、それでいいのです」
オリヴィア、そうやって考えなさい。そうやって考えれば考えるほど人は成長し、美しくなる。
ふふふ、面白くなってきましたねぇ。