帝国軍vs.魔王軍 〜魔王〜
私の軍は、魔王城から真っ直ぐ西に進み続け、もうすぐアバークロンビー領だったところに到着するところだ。
斥候の情報によると、既に帝国軍はアバークロンビー領にいるらしく、我々の到着を待ち構えてるようだった。
「見えているのは十万か……」
「後方にもう二万見えています」
私が呟いたことに、ナディアが情報を加えた。
「少ないな」
「帝国としては、よく集めた方だと思いますが?」
確かに、今の帝国の国力で集められるのは、せいぜいあと五万だろう。だが、私の言っていることはそうではない。
「私の軍に対する姿勢が、この程度では消極的だ。無理を強いてでも、あと三万は集めるべきだろう」
「私たちを甘く見ているのでしょうか?」
「あれだけ煮え湯を飲まされていた帝国がか? あり得んな」
「思慮不足でした。申し訳ございません」
「気にするな。それより、これからのことを考えろ」
「はい」
昼は行軍し、夜は警戒をしながら休息をとる。これを繰り返し、私たちは帝国軍の目の前にまで来た。
すると、帝国軍の将校が、馬に乗って前に出てきた。
「魔王よ! 今ならまだ降伏を許そう! だが、これ以上進むのであれば、容赦はせんぞ!」
くだらないことに声を張り上げ、わかっている答えを問う。見ていて滑稽だな。
「どういたしましょうか?」
「焼け」
「承知いたしました」
ナディアは右手を宙に掲げ、魔法を発動させる。すると、ナディアの手のひらから、極小の火の玉が出現した。
「〈フレアブラスト〉」
ナディアは、それを投げるような動作とともに押し出した。
魔法は、綺麗な放物線を描いて飛んでいく。
小さすぎてよく見えない光が空を舞い、こちらの返事を待っていた将校に当たる。すると、将校は一瞬で灰と化した。
それにより、戦場には静寂が訪れた。
「命令だ! 帝国軍を滅ぼせ!」
私は、軍全体に聞こえるように叫ぶ。途端、我が軍は狂ったかのように帝国軍へとぶつかった。
魔族と人間では、数以外はすべてこちらに利がある。
そして今回、隙を突くように突撃した。これで、ある程度は有利に戦えるだろう。
そう思っていたのだが、私の予想は大きく裏切られた。魔族が次々に吹き飛ばされているのだ。
「予想より早かったな…… 勇者ども」
そこには、勇者パーティの四人が、戦場を駆け回っていた。
「魔王様! 勇者たちが……!」
部下の一人が、私の所へ慌ただしくやって来た。
「慌てるな。やつを出せ」
「で、ですが…… やつの力は強大です。もしかしたら、魔族に危害を加える可能性も……」
「その心配はない。やつには使命がある。それに、もとより中立の立場であるやつに、我らが攻撃を受けることはない」
「わかりました……」
やつが出れば、勇者の猛攻は確実に止まるだろう。そうすれば、次の段階に移行できる。
「う、うわぁ! 待て! そっちには魔王様が……!」
先ほど指示を出した魔族の悲鳴が聞こえ、そちらを見てみると、一人の男が私の目の前に来ていた。
「使命はどうした? イービルヒート」
「魔王、我は勇者の味方でも、魔族の仲間でもない」
「今更だな」
「では、我が勇者を洗脳から解放したら、お主のどうするのだ?」
「洗脳があろうとなかろうと、そんなことは初めから決まっている。勇者は皆殺しだ」
「そうか……」
それだけを言い残し、イービルヒートは竜の姿となって、戦場へと飛んでいった。
聖剣のない勇者と戦わせるには、十分な戦力だろう。
イービルヒートが参加したことにより、我が軍は勢力を立て直した。だが、勇者によって押し込まれた分、少し不利になっていた。
そして、このタイミングで、私は次の作戦を発動した。
現在戦っている草原の横。そこには大きな森がある。そこは魔物の宝庫であり、これがあることによって、歴代の魔王たちは王国を潰せなかった。
今回はこれを利用する。
私は、森に潜んでいる鳥人に魔力で指示を出す。すると、帝国軍側の森から鳥人が飛び出した。
帝国軍はこれに反応して魔法を使おうとするが、急に森から魔物がでてきたことにより遮られた。
そう、私は森の魔物を利用するため、斥候に使った鳥人を仕込んでおいたのだ。
これを発見した魔物は鳥人を追いかけ、私の指示によって鳥人を森から飛び出させる。そうすることによって、帝国軍に魔物をなすりつけたという訳だ。
それも、鳥人の飛び出した場所は帝国軍の後衛。これによって魔物たちは、帝国軍の魔法部隊に直撃した。
帝国軍は急な出来事に戸惑い、強くもない魔物たちによって殺されていく。
「第三、第四軍! 弾幕を張れ!」
そこに、再び飛んだ私の命令により、我が軍の魔法が過激になった。
この状況、いったいどうやって対抗するんだ? ジン。