暗殺 〜リベル〜
リベリオンのみんなは各地に広がり、ヨハンの作った魔法具によって連絡を取っている。
すると早速、帝国軍の動きを捉えた。どうやら東に向かって行軍しているらしい。数は十五万。
どうやら、今まで辛酸を舐めてきた分を、今回で晴らしたいらしい。
ジンは、アバークロンビー伯爵邸に泊まり、対談をした後、軍の到着を待っているそうだ。
「ここで攻めますか?」
シャルが、ここでジンを叩くかを聞いてきた。
「いや、今回は別のところを狙おう。帝国軍にダメージを与えるのは必須だが、そう簡単に負けてもらったら困る」
つまり、魔王軍にもダメージを負ってほしいということだ。
王国を取り戻した後、万全の状態で戦争を仕掛けられたら、勝ち目がないからな。まあ、魔王と直接会うことができれば、その限りでもないんだが。
「ヨハン、総員に連絡を頼む。情報収集を続けろとな」
「了解」
現在、帝国の力は大陸一だ。それはもちろん、魔王軍を含めて。
だが、いくら帝国軍とて、数に限りがある。それも、先代魔王と王国との戦いで兵が少なくなっているため、十五万も動かしたら、どこかに隙ができるだろう。
今回はそこを叩くことにする。
「では、どこを潰すのですか?」
「そうだな…… 帝国の北側から攻めよう。そうすれば、教国も動きやすくなるはずだ」
教国は現在、勇者を奪われてしまい、武力行使に出れないでいる。聖騎士軍という軍はあるのだが、それも帝国軍と比べたらちゃちなものだ。
だが、聖騎士軍は決して弱いわけではない。厳しい訓練を毎日積み重ねているだけあって、一人一人の力は強大だ。
ただ、勇者という正義が帝国にある限り、教国は動けないだろう。
ちなみに、俺たちリベリオンの数も圧倒的に少ない。そのため、俺たちがやることは戦争ではない。帝国に混乱を招くことだ。
少数精鋭で暗殺家業、裏取引、買収。なんでもやって、帝国を惑わす。
あとは隙を見て、ジンと皇帝を殺せばいい。なんなら、殺すのはリベリオンでなくてもいい。魔王でも、教国でも構わない。
俺たちの目的は、帝国から土地を取り戻し、王国を再建国すること。そのための手段は問わないのだ。
「というわけで、俺は帝国の最北端。コロネン領に行ってくる」
「お供は必要でしょうか?」
「いや、必要ない」
今回の目標は、教国を動きやすくすることなので、指導者の排除が一番だ。つまり、コロネン領の領主を殺せばいい。
「では、気をつけて行ってきてくださいね」
「ああ、頑張ってくる」
「何かあったら教えろよ? 魔道具はいつでも繋がるからな」
「わかってる。だが、これくらい一人でやれないと、リベリオンのボスとして認められないからな」
「みんな、既にリベルのことはボスと認めてるぞ?」
「自分で自分を認められないってことだ。少しは気を張らないとな」
「気を張りすぎて、お体を壊さないようにしてくださいね?」
「大丈夫だ。俺の体は頑丈だからな」
俺は、魔王軍と帝国軍が衝突するタイミングを予想して、元王都にある拠点からコロネン領に出発した。
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コロネン領の領主の軍事階級は大尉。まあ、教国を抑えておくには十分な地位だろう。
俺は魔道具による連絡で、魔王軍と帝国軍が衝突したのを聞きつけ、コロネン邸に侵入した。
スニーキング任務は俺の得意分野だ。魔法が使えない分、体の扱いには長けている。
問題があるとすれば、左目がないことだな。これによって、左側が死角になってしまう。
だが、ここら辺は慣れの問題なので、戦闘の時以外は苦労していない。
顔を見られないように、一応フクロウの仮面をつけて、天井裏をほふく前進で進む。ほこりはいちいち気にしない。
天井の隙間から下を除きつつ、コロネンの寝室を目指す。誰かが下を通る時は、一度動きを止めて、音を立てないようにする。
「メイド長、また誘われたらしいよ」
「ええ〜! コロネン様の相手をするのも大変ね〜」
俺の下を通ったメイドが、そんな話をしながら通り過ぎていった。
コロネンは女好きなのか? それともメイド好き? それともメイド長に恋してる?
なににせよ、五十過ぎのおっさんのくせに、性欲は有り余っているらしい。
だが、これは面倒だな。誘われたってことは、寝室には二人でいる訳だ。
さっさと侵入して殺して終わりかと思ったが、メイド長をなんとかしないとな。
俺はコロネンの寝室を天井裏から覗く。すると、メイド長と思われる女性に向かって、腰を振っている最中だった。
はぁ…… なにが悲しくて、他人の性行為を見なければならんのだ。
こうなったら仕方ない。変装するか。
俺は一度引き返し、洋服を探す。すると、一階の端っこの部屋に倉庫になっている部屋があり、そこに執事服があった。
俺は自分に合うサイズの服を取り出し、袖を通す。
これならば問題ないだろう。
俺は倉庫の扉の鍵穴から外を覗き、誰もいないのを確認する。夜だし、こんな端っこの部屋に来る人はいないようだ。
部屋の外に出て、堂々とした姿勢で歩く。執事の歩き方とか知らないので、とりあえず胸を張って歩いた。
すると、さっき見たメイドがこちらに歩いてきた。
「あれ? こんな仮面の執事いたっけ?」
「ん〜? 見覚えないな〜」
「本日より配属された、新人の執事です。よろしくお願いします」
「へぇ、初めて聞いたよ、そんなこと」
「明日から頑張ってね〜」
「ありがとうございます」
俺が恭しく礼をすると、メイドは不思議そうに通り過ぎていった。
これは心臓に悪い。早く終わらせよう。
俺はコロネンの寝室の前に立ち、三度ノックをする。
「誰だ?」
中からは男の声が聞こえてきた。
「失礼します。少しコロネン様にお伝えすることがございまして」
「そこで要件を言え」
「いえ、手紙が来ているのです。お受け取りください」
「扉の隙間から入れろ」
「承知いたしました」
俺は言われた通り、扉の隙間から手紙を差し込み、少し奥に投げるようにして入れる。
この手紙の中には、ヨハンが作った、気化する毒が入っている。
ヨハンが作ったということはもちろん魔道具で、闇魔法で毒を生成する仕組みだ。
「ご苦労」
「お手数をおかけしました。失礼します」
さて、これで任務完了だな。