戦の始まり 〜魔王〜
この章では、視点の移り変わりが少し多くなるため、サブタイトルの後ろに~〇〇~というふうに、視点となる人物を書きます。
朝日によって、私は目を覚ました。
「ん〜? もう朝か」
「おはようございます。魔王様」
私の隣で裸で寝ているのは、部下であり秘書でもあるナディアだ。
豊満な胸と艶めかしい肌、黄金の色をした髪。そしてなにより、九つの尻尾とキツネ耳が目につく。
ナディアはベッドから降り、和服のような服を着た。もちろん、私の服も用意されていた。
「お風呂は既に用意しています。どうぞ、お入りください」
私は、昨夜かいた汗を流しに風呂へ向かった。朝風呂は毎日の日課だ。
シャワーで軽く汗を流したあと、湯船に浸かり体を休める。やはり風呂は最高だ。体から嫌な汗が流れ出ていくのがわかる。
風呂を出ると、そこにはナディアがタオルを持って待機していた。
「どうぞ」
「ご苦労」
私は体を拭いて、鏡の前の椅子に座る。すると、ナディアが私の後ろに立ち、髪を整え始めた。
私は気を楽にし、鏡に映っている自分を見つめる。そのたくましい体には、いくつもの傷がついていた。
そして、顔には右目がなかった。
「ナディア、眼帯を寄越せ」
「少々お待ちください」
私は、ナディアの取ってきた黒い眼帯をつける。少し違和感があるが、すぐに慣れるだろう。
しばらく任せていると、ナディアは手を止めた。
「終了いたしました。今日もまた、一段とお美しいですね」
「くだらん。そういうのはよせ」
「失礼いたしました」
私は魔王の名にふさわしい、黒を基調とした服とマントを着て、王座の間まで向かった。
廊下を通っている間にあった魔族は皆、私に対して恭しく一礼をしていた。ここではこれが当たり前だ。
「魔王様、今日は軍議でございます」
「軍団長は集めたか?」
「既に集合しておられるかと」
私が王座の間に入ると、部屋の中にいた魔族はこうべを垂れ、私への忠誠を見せつけてきた。
それを横目で確認したあと、私は王座に着き、足を組んで頬杖をついた。
「頭を上げよ」
その一言で、私の周りの魔族たちは一斉に私の顔を見た。おそらく、今日の機嫌を予想しているのだろう。
「では、軍議を始める。まず、第一軍」
我が軍は主に四つの軍勢に分かれており、第一、第二軍は近接戦闘。第三、第四軍は魔法戦闘に適した者を配置している。
「第一軍、問題ありまぬ」
第一軍軍団長のセルジオだ。今年で六十を過ぎる老人で、今までの経験を生かして指揮を取る。
種族は鬼人で、先代魔王の時も軍団長を務めていた男だ。
「次、第二軍」
「…… 異常なし」
第二軍軍団長のカルロ。今にでも俺の首元な牙を立ててやる、といった風に目を尖らせている。
だが、その身体能力と味方を鼓舞する能力は有能で、軍団長の座についた人狼の男だ。
「第三軍」
「だいじょぶでーす」
この軽い感じの女は、第三軍軍団長のステラだ。空を飛ぶことのできる魔族を集め、第三軍として成り立たせてしまうほど、カリスマ性が強い。
種族は鳥人。
「最後、第四軍」
「問題ありません」
第四軍軍団長はナディアだ。種族は九尾。
軍団長が俺直属の部下であるナディアなため、俺の意見が最も通りやすい軍であり、四つの軍の中で最強の軍である。
各軍の魔族の人数は一万人。先代が戦いに負けてから、数が三分の一にまで減ってしまった。だが私は、この軍でも戦えている。
「では、殺戮を始めようではないか。帝国に、我が軍の恐ろしさを思い知らせてやれ!」
「「「「はっ!」」」」
各軍団長は王座を間を出て、各軍に私からの命令を伝えに行った。
さあ、復讐を始めようか。
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《鬼人》
オーガが進化した魔族。
もともと持っていた力に、知恵を得たことによる技術力の習得により、戦闘能力が格段に上昇している。
《鳥人》
鳥系統の魔物が進化した魔族。
腕は鳥の翼が生えていて、脚は鳥の脚になっている。だが、そこを除けば人間と変わらない見た目をしている。
風魔法の適性が高いことが多い。
《九尾》
フレアフォックスが進化した魔族。
名の通りに九つの尻尾を持っており、尾の先から魔法を発動できる。
火魔法の適性が高い。