学院へ
俺も今年で十二歳になる。
伯爵家出身なので、今年から俺は、国立ラント王国大学院に通うことになる。
学院は王都にあるため、通っている間は寮で過ごすことになる。
俺と同い年のソフィも一緒に通う予定なので、とても楽しみである反面、シャルに会えなくなるという面では、寂しい三年間にもなるだろう。
そして、まさに今、俺は王都に向かうために家を出ようとしていたのだが、シャルに完全にホールドされてしまった。
「お゛に゛い゛さ゛ま゛〜! い゛か゛な゛い゛て゛〜!!! シ゛ャ゛ル゛を゛お゛い゛て゛か゛な゛い゛て゛〜!!!」
俺に抱きついて離れないシャル。
お、おう、そんなに泣かないでくれよシャル、行きたくなくなるじゃないか。
「よしよし。大丈夫だぞ、シャル。休みの時には帰って来るからな」
「ひ゛っ゛く゛! う゛ぇ゛っ゛く゛!」
この後、シャルを宥めるのに一時間もかかってしまった。途中からソフィも来て、二人で宥めて、ようやく泣き止んだのだ。
何とか落ち着いた妹は、今度は大きく手を振って、
「いってらっしゃーーい!!!」
と大きな声で言ってくれた。切り替えの早い子である。
元気にしてるんだぞ、シャル。
俺とソフィは同じ馬車に乗り込んで、シャルに手を振り返しながら、アバークロンビー伯爵領を出発した。
「ふぅ。まさか、あんなにシャルが泣くとは……」
「お兄ちゃんが大好きなんでしょ? 良いことじゃない」
「まあ、そうかもしれんが……」
「帰って来るときは、王都のお土産買って行こうね」
「そうだな」
そうすれば、シャルの好感度が更に上がるかもしれない。
シャルのことばかり考えていたから、早くも会いたくなってしまった。今から戻ってもいいだろうか?
「ほら、シャルちゃんのことばかり考えてないで、王都に着いてからのことも考えてね」
何故分かったんだ? もしかして、ソフィはエスパーなのか?
「もちろんわかってる。退学なんかはごめんだからな」
「しっかり勉強しなくっちゃね!」
ソフィと話しながら、王都までの道のりを楽しんでいると、道の脇の森から、唐突に盗賊が出て来た。
この世界に来て初めてのテンプレ展開である。少しワクワクしてきた。
「ぐえっへっへ。命が欲しけりゃ、金目の物は置いてけ〜」
と言いつつ、五、六人程の男達がぞろぞろと出てきる。
…… 何故奇襲しなかったんだろうか?
「通行の邪魔だ。さっさと退け」
俺は、馬車の脇についている窓から顔を出して、盗賊たちに警告してやる。
「ほほう、いいどきょアババババッ!」
プシュ〜という音を立てて、茶色くなった男達が倒れる。ソフィの雷魔法だ。
だから退けと言ったのに……
それにしても、なんて呆気ない。少しだけ、盗賊たちが哀れに思えてきた。
まあ、指名手配されているだろうから、王都で憲兵に渡すんだがな。慈悲はない。ドンマイ、盗賊。
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それからは、特に何ごともなく王都に着いた。
入学式は明日だ。
今日は、教会に行った時にも使った館で過ごすことになる。
館に着いたのは夜になった頃だった。玄関を開けると、メイドと執事が一列に並んで礼をしてくる。
「ようこそ御出でなさいました、アルフレッド坊っちゃま、ソフィア様。今日は、ゆっくりなさってくださいませ」
と、初老の執事が言ってきた。格好から予想するに、おそらく名前はセバスチャンだろう。間違いない。
「ああ、ありがとう。今日はよろしく頼む…… ところで、名前を聞いてもいいか?」
「はい、私はゼバスチャンと申します」
惜しいな、一文字違いだった。それも濁点だけだ。
そんな事を考えていたら、ソフィに呆れたような顔をされた。やはりソフィは、俺の考えていることが分かるのか?
それから、既に用意されていた夕食を食べ、少しだけトレーニングをしてから寝た。
明日からは、人生で二度目の学校生活か…… 一年生になったら友達百人できるかな、なんちゃって…… よし、 頑張って友達作らないとな。
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《国立ラント王国大学院》
魔法師団や騎士団を目指すために建てられたもので、一学年千人、全校で三千人という大規模な学院だ。
十二歳に入学し、十五歳で卒業。生徒のほとんどが、貴族か商人の家の子供。
数学や歴史、剣術に槍術、さらには魔法など、様々な授業が受けられる。
この学院を卒業した者は、将来安泰とも言われる程優秀な者たちを輩出しており、貴族であるならば、何としても無事に卒業しなければならない。卒業できなかった生徒が、家に勘当されたという話もちょくちょく聞く程である。
そのため、裏で学院側に金を送って、強引に卒業させるという貴族がいたという噂もある。
留年制度も飛び級制度もなし。成績不審とされたら、即座に学院を去らなければいけなくなるという厳しい制度の下、教育の場を設けるという場所である。