精神力
ソフィ視点です
私が見たのは、邪教徒を蹴り殺したアル君が、破裂の衝撃で吹き飛ばされるところだった。
「アル君!」
私はすぐさまアル君に近寄り、抱きかかえる。
「…… ソフィか……?」
「アル君! 大丈夫!?」
「ああ、ちょっと油断した…… もう大丈夫だ……」
アル君は、自分の体を〈ヒール〉で治し、ゆっくりと立ち上がった。私は、それに肩を貸す。
大丈夫という言葉に反して、まったく大丈夫じゃなさそうだ。顔色は、青を通り越して白くなっていて、完全に血の気が引いているのがわかる。
「もう少し休んだ方がいいよ! 今のアル君、顔が酷いことになってるよ!」
「はは…… 恋人に顔が酷いって言われると、結構ショックだな」
「冗談言ってないで座ってて! 邪教徒は私がなんとかするから!」
その言葉に、アル君はピクッと一瞬だけ反応した。
「ソフィが…… 倒す……」
「ア、アル君……?」
アル君は、少し間をおいて大きな深呼吸をした。そして、思いっきり自分の頰を殴った。
「アル君!?」
「あぁ、やっぱり痛いな。こりゃ人の腹にも穴開けられるわ」
肩をぐるぐると回し、屈伸をして、私の方を振り向いた。
「悪い。ちょっと覚悟が足りなかったわ。もう大丈夫だ」
そう言うアル君の顔は、赤みを取り戻していて、口調も動きもいつも通りに戻っていた。どうやら調子が戻ったみたいだ。
アル君は、私に向かって優しく微笑みかける。その笑顔は、心配かけて悪かったなと、誤っているように見えた。
「よし、行くぞ」
「うん!」
私は、アル君と一緒に邪教徒を倒しに向かった。
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帝都で暴れている邪教徒を魔法でなぎ倒し、私が魔法の準備に入ったところで、アル君が突撃する。そして、戻ってきたら私が魔法を放つ。
その繰り返しで、ほとんど邪教徒がいなくなっていた。
それにしても、さすがはアル君。私が魔法を発動させるタイミングを完璧にわかっていて、私に合わせて行動してくれている。
まだ人を斬るたびに顔色が悪くなるけど、落ち着く速度がどんどん上がってる。
メンタルを強化しながら戦うというのは、とんでもなく凄いことだと思う。私には、とてもじゃないけど真似できる芸当じゃない。
私も、人を殺せば罪悪感が生まれる。それも、最初は胃の中の物をすべて吐き出すくらいだった。でも今では、胸の奥がチクリと痛むくらいに収まっている。
人殺しに慣れるというのは、道徳的にいけないことだとは思う。でも、勇者の仲間をしている分、覚悟をしなければいけない時が必ず来る。
アル君は今、それを乗り越えた。あとで、いっぱい褒めてあげよう。
「だいたい終わったな」
周りを見て、邪教徒がほとんどいなくなったのを確認し、アル君は大きなため息をついた。
「お疲れ様。よく頑張りました」
私は、座り込んでしまったアル君の頭をなでなでする。少し癖のかかった柔らかい髪が、手に絡んできた。
最近少し伸びてきてるし、切ってあげようかな。
そんなことを考えながら、アル君の髪で遊んでいると、アレックスたちがこっちに走ってきた。
「おーい! ソフィア、無事だな! って、なにしてんだ?」
「いちゃいちゃしてる」
「…… ソフィアだけ、ずるい」
私とアル君を交互に見たオリヴィアは、私も混ぜろという風に、アル君の頭を撫で始めた。
「いい加減、支部の方に向かうぞ。タイマー少佐って人に、エレナを預けてるんだ」
私とオリヴィアのせいでボサボサになった髪を直しながら、アル君は立ち上がった。
そして私たちは、タイマー少佐という人がいる、邪教の支部へと向かった。
アル君が案内してくれた支部までは、そこまで遠くはなかった。
「あ、アルフレッドさん!」
「エレナ、もう大丈夫なのか?」
到着してすぐに、アル君を発見したエレナちゃんがこっちに駆け寄ってきた。
「もう仲良くなったのにゃ?」
「そりゃ軍人に囲まれてた中で、知り合いに会ったら安心するだろ」
確かにその通りだけど、なんか、それだけじゃない気がする。これは女の勘だ。
「…… やっぱりロリコーー」
「断じて違う」
オリヴィアもそんな気がしているらしい。ジト目でアル君を見つめている。
「…… 俺のミスで、一回エレナは攫われたんだ」
「は!?」
オリヴィアの視線に耐えきれず、アル君のまさかの告白をした。
これに一番驚いたのは、アレンだった。
「ミ、ミスって…… アルフレッドでもミスするのか……」
「当たり前だ。今回は不注意だった。本当にもし訳ない」
ダンジョンを攻略した後のアル君は、なんでもこなせるような雰囲気を醸し出していた。アレンが驚くのも仕方ないと思う。
「…… 窮地を救って、好感度アップした」
「まあ、そんな感じだろうな。その窮地を作ったのも俺なんだが。エレナも、怖い思いさせて悪かったな」
「大丈夫」
そう言うエレナの目からは、アル君への信頼が伺えた。最初は大丈夫か不安だったが、心配無用だったみたいだ。
「タイマー少佐、どうなりましたか?」
「三つの支部すべて取り押さえた。そして、邪教徒もすべて破裂した。一応、安全は確保されたと言っていい」
つまり、この件は解決したってことでいいだろう。
「では、エレナのお母さんは見つかりましたか?」
「いや、発見されなかった。もしかすると、破裂した邪教徒の中にーー」
「私、お母さんの場所知ってるよ」
「「「「「「「「え?」」」」」」」」