母のいない少女
聞き込み調査の結果により、邪教徒の居場所が判明した。
支部と本部があり、支部は帝都内にいくつかあるので、俺たちは確実に潰すために本部に来ていた。
魔眼で中を確認してみると、中には百人ほどの人がいるようだ。儀式のようなものをやっているようで、全員綺麗に並んでいる。
「準備はいいな?」
「…… 大丈夫」
「いけるよ」
俺は、本部の周りに〈シールド〉を張っていく。
張り終えると、ソフィとオリヴィアと顔を合わせて、一度頷いた。
「「〈ヒート〉」」
二人は、魔法は同時に発動して、〈シールド〉の中の気温をぐんぐん上げていく。
異変に気がついた邪教徒たちは、慌てて原因を探り出すが、もう遅い。
「突っ込むぞ!」
アレックスの掛け声で、ソフィとオリヴィア以外の近接戦闘組は、建物の壁をぶち抜いて中に勢いよく入った。
邪教徒は、異変のせいで突然の敵襲にまったく対応できていない。結果、あっさりと百人ちょっとが取り押さえられた。
「アルフレッド! ちょっと来てくれ!」
「どうした?」
ランベルトからの呼び出しがあったので、声のした方に行ってみる。すると、十歳くらいの少女が倒れていた。
「治せるか?」
「もちろんだ」
俺は気を失っている少女に〈ヒール〉をかける。
完治した少女は、次第に呼吸を落ち着けていき、苦しそうに歪んでいた顔も楽になったように見えた。
「もう大丈夫だ」
「そうか、よかった」
ランベルトは、ホッとした表情を浮かべた。
それにしてもこの少女、なんでこんな所にいたんだろう?
その後、アレックスが警備隊に、邪教徒を捕まえたことを報告に行った。
そして、アレックスがいなくなった直後、少女は目を覚ました。
俺はいくつか質問をしようと思い、少女に近づく。
「名前はなんていうんだ?」
「ひっ……」
「……」
そして、開口一番が小さい悲鳴だった。俺って、そんなに怖い顔してるのか?
「ソフィ、頼んだ……」
「うん、わかった。あの、アル君、そんな悲しい顔しないで?」
「…… よしよし」
オリヴィアに慰められながら、ソフィが質問していく様子を見る。少女は、ソフィの質問には怖がることなく、素直に答えていた。
そこでわかったことは、腰を低くして、子供と同じ目線で話しかけると怖がられない、ということだった。って、そこじゃない。
少女は、エレナという名前で、この近くに住んでいる平民の一人娘らしい。
ここまではいいのだが、問題はこの先だった。
「どうして、こんな所にいたのかな?」
「…… お母さんが、ここにいると思ったから……」
この一言には、さすがの俺たちでも眉をひそめた。
ソフィはその話を、エレナに怖がられないように詳しく聞いていく。
「黒いローブの男に連れて行かれて…… うぅ……」
そこまで説明したところで、エレナは泣き出してしまった。
ソフィは安心させるように、泣いてしまったエレナを抱き寄せた。
黒いローブ。
縛られている邪教徒たちを見てみると、全員が黒っぽいローブを着ていた。これはもう間違いないだろう。どうやら、エレナのお母さんは、邪教徒に連れ去られてしまったらしい。
だが、ここには大人の女性の影すらなかった。いたとしても、それは邪教徒の一員だ。
もしかしたら、洗脳されてこの中に紛れているのでは? と思い、女性の邪教徒のフードを取って見せてみるが、お母さんはいなかった。
「放っておけないにゃ」
「そうだな。お母さん、探してやろう」
「アレックスのいないところで決めていいのか?」
「多分、アレンも同じ結論を出すと思うよ」
「…… 人望チートだし」
「そう言われてみれば、そうだな」
満場一致で決まった。
アレックスが、警備隊を引き連れて帰って来てからこの話をしてみたが、結果はソフィの予想通りだった。
警備隊に相談して、エレナを俺たちの手で預かることにして、一度宿に戻った。
宿のベッドでエレナを寝かしつけてから、全員集まって会議を始める。
「エレナのお母さん、どこにいると思うにゃ?」
「本部にいなかったし、支部のどこかでしょ?」
「…… 支部は帝都中にあるけど、ある程度なら絞れそう」
「エレナの家の近くから探せばいいか」
明日からは、邪教の支部を見つけるために動くことに決まった。
邪教徒たちも、本部が潰れたことによる混乱があるだろうから、そのうちに手を打ちたいのだ。
エレナのお母さんが連れ去られた理由はわからないが、もしかすると、生贄として持って行かれたのかもしれない。
なんとか、手遅れになる前に発見できればいいんだがな。