邪教
帝国の首都の入国審査は、他国のものと比べるととんでもなく厳しい。それも、王国側から来た者に対してだけは。
なぜかというと、これは単に対抗心があるからだ。
帝国は、過去の大戦で王国に敗れ、土地を王国に取られてしまったという過去がある。これにより、王国から来た俺たちは、朝から日が暮れるまで審査を受けていた。
「なんでこんなに待たされなきゃいけないのよ」
「仕方ないだろ、そういう規定なんだし」
「面倒な規定ね」
昼あたりから愚痴っているジュリアを、アレックスがなだめる。何度この光景を見たことか。
「よし、もういいぞ。入れ」
待ちくたびれてあくびをしていると、審査がようやく終わり、俺たちは帝都へ入国することができた。
中はそれなりに賑わっていて、生活水準は悪くないことが伺える。だが、王都に比べると服や家がボロい。
これは税金のせいでお金が少ないためだろう。食事に生活費のほとんどを割くため、娯楽や、家を建て直すことができない。
なぜ税金が多いのかというと、軍事費のせいだ。
帝国は軍事国家であり、王国に次ぐ戦力を有している。
貴族階級は軍事階級に直結しており、昇格すればするほど、どんどん高くなっていく。
一応帝王はいるのだが、帝王は軍のトップでもあるため、軍が政治を支配しているという、あまりよくない状況だ。
なぜよくないのかは、大日本帝国憲法が施行されていた頃の日本の勉強をすれば、だいたいわかるだろう。
まあ、発展途上国にはよくあることだそうだ。
「王都との反応とは真反対だな」
道行く人々が、俺たちを避けて歩いている。歓声も歓迎もない。
よく見てみると、道行く兵士たちにまで冷たい顔をされていた。
「帝国はいつもこんなだぞ」
アレックスが諦めたような顔で言う。
「帝国の民は自分の国の軍事力を信じてるし、軍人たちは戦果がないと昇級しなくなるから、私たちは邪魔者なのにゃ」
この感じだと、勇者が来たことに喜んだ平民は、兵士に体罰を受けたりするんだろうか?
「ここにいる人たちも大変だなぁ……」
「そういう国だから仕方ないにゃ」
とりあえずは、魔族の情報があれば欲しいので、冒険者ギルドへ向かった。
ギルドの形は王国とあまり変わらないが、中の冒険者がみんな殺気立っていた。そのせいで雰囲気が重い。
そして、他の国の冒険者に比べて筋肉質で、体のあちこちに傷がついていた。まさに歴戦といった風貌だ。
「俺たちは勇者をやっている者だ。魔族の情報はないか?」
アレックスが受付嬢に話しかける。
「いえ、特にありません」
「そうですか……」
王都での戦争以来、魔族はほとんど姿を現さなくなった。
裏でなにかを仕込んでいる気がしてならないが、情報がないため対策のしようがない。
「なら、他に困ったことはあるか?」
魔族がないのなら仕方ない。他の仕事を引き受けるしかないだろう。
「そうですね。今、邪教の集団が帝都で活動しているので、それを止めてもらえると助かります」
邪教。
別に邪神とかいう神がいるわけではない。ただただ、帝国が敵視している宗教団体だ。
なぜ敵視しているのか、その理由はーー
ドォォォン!!!
「なんだ!?」
突然、ギルドの目の前の道が爆発し、民衆が悲鳴をあげながら散り散りに逃げていく。
そう、これが帝国が邪教を敵視している理由だ。唐突なテロ。それも、魔法を使った悪質な手口。
俺たちは外に出て、正面の建物の屋根の上に立っている、ひとりの男を見つけた。
「勇者たちよ! ここから去るがいい!!」
両手を大きく広げ、こちらを見下ろすようにしている、謎の男。
状況から考えれば、邪教徒の一人だろう。それも、俺たちを狙った確信犯だな。
「断る、と言ったら?」
代表として、アレックスが男に話しかける。
「お前たちの命の保証はできんぞ」
「はっ、上等だ。生憎俺は、テロに屈するつもりはないんでな」
受付嬢にも、テロで困っていると言われているし、ここでおめおめと引き下がれるわけがない。
「ふっ、ならば、恐怖に震えて待っているがいい!」
男は、決めゼリフらしき台詞を言って、屋根を飛び越えて逃げていった。
「探すまでもなく、宣戦布告か」
「面倒がなくなったのにゃ」
「準備しとかないとな!」
「…… 警戒を怠らないようにする」
「いや、お前ら、なに呑気なこと言ってんだ?」
「「「「「え?」」」」」
全員が息を揃えて、俺の方に振り向いた。
それを見て、俺の隣にいたジュリアが口を開いた。
「守る気でいてどうするのよ」
「その通りだ。今すぐ邪教徒の拠点を探して、潰すぞ」
「「「「「えぇ〜!!!」」」」」
俺たちは、二手に分かれて、捜索と聞き込みを開始した。
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《バラッド帝国》
大陸二位の戦力を保有している軍事国家。発展途上国でもある。
昔の大戦で王国に負けたことから、王国側から来た者に対しての風当たりが強い。