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移動

「暇」


 静かに馬車に揺られている俺たちに、ジュリアの透き通った声がよく響いた。

 俺たちは、フュルト町を出発して二週間程の馬車旅をしている。

 草原をまったりと進む毎日。これはこれで楽しいものだが、ジュリアには耐えきれないようだ。


「そんなこと言っても、ここには娯楽の一つもないぞ」


 いつもはアレックスがなだめるのだが、今は馬を操っているので、俺がなだめに入った。


「でも、暇なものは暇なのよ」

「昼寝したらどうだ?」


 実際、旅の途中は、昼寝したり、魔力トレーニングしたり、馬車と同じ速度でランニングしたりと、各自が好きなことをやっている。

 聖剣にはトレーニングは必要なく、常にベストな状態を保てるので、寝るのが一番なのだ。


「無理、昼間から寝れない」

「わがままだなぁ」

「だって、私、聖剣だもん」


 聖剣とわがまま。まるで関係のない単語のように聞こえるが、ジュリアの場合は別のようだ。

 それとも、ほかの聖剣にもわがままなやつはいるのか?

 俺は少し背伸びをして体を伸ばし、あくびで出てきた涙を拭きながら、なにか楽しめそうなことがないか考える。

 ターニャとソフィは昼寝していて、ランベルトは馬車の後ろを走っている。そして、オリヴィアは錬金大百科を読んでいた。


「あ、そうだ」

「なにか思いついた!?」

「読書でもしたらどうだ? 俺の家からいくつか持ってきてあるぞ」


 小説や魔法研究の本、他にも魔物大図鑑なども持ってきている。


「いいわね! 貸してちょうだい!」

「いいぞ、なにがいい?」


 俺は荷物の中からいくつか本を出した。ジュリアは、その中から小説を取り出して、読み始めた。

 意外と本好きなんだな。見た目が子供だから、てっきり嫌いな方かと思っていた。


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


 草原を抜け、峠を越えれば、もうすぐそこにはバラッド帝国だ。

 だが、峠越えをする前に、日が暮れてしまったのでテントを張って休むことにした。

 テントは、男子と女子の二つに分かれている。

 オリヴィアはこれに反対したが、夜は魔物がよく動き回る時間帯なので仕方がない。夜の営みなどやってる暇はないのだ。

 夜中は二人一組になって見張りをする。今日の見張りは、俺とランベルトの二人だ。

 他のメンバーは全員眠っていて、パチパチと薪が燃える音と、風の音だけが耳に残る。


「なあ、ランベルト。俺がいなかった頃、ソフィってどんな感じだった?」

「ん? そうだなぁ。結構人を寄せ付けないタイプだったぞ。俺たちも最初は警戒されて、魔法を撃たれかけたし」

「そんなことがあったのか。意外だな」

「出会いはそんな感じだったぞ。仲間になってから、徐々に心を開いていった感じだ。アレンのおかげでな」

「なるほど」


 確かに、アレックスの仲間思いはかなりのものだ。例え、最初は戦力として仲間に迎え入れたのだとしても、積極的にアプローチしていったのだろう。

 ソフィはソレイダスのこともあって、信じられる人がほとんどいなかっただろうから、その心を開かせるってことは、かなり努力したんだろうな。


「今ではあんなに乙女になって、驚いたもんだ」

「そりゃあ、愛する婚約者である俺と再会したんだ。乙女にもなるだろ」

「そのキザなところ、少しは治したほうがいいんじゃないか?」

「ロマンチストと言ってほしいな」

「ものは言いようだな」

「その通りだ」


 なんだかんだで、俺とランベルトはウマが合う。

 というよりも、他のメンバーの精神年齢が低いため、必然的におっさんーー三十二歳ーーであるランベルトと気が合うのだ。


「アルフレッドは、そのキザところ以外はかなり大人だよな」

「まあ、人生いろいろあるからな」


 例えば、異世界転生とかな。


「それにしてもだ。オレと同じくらい生きてるように見える」

「本当は四十二歳かもしれないぞ?」

「ずいぶん具体的だな。じゃあ、俺は今、年上と会話してるわけだ」

「敬語を使ったらどうだ?」

「オレがそんなものを使えると思うか?」

「いや、まったく」


 と、こんな感じで、冗談が通じあっていてかなり楽しい。


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


 次の日の朝、俺はいつも通りの時間に起きて、軽く体を動かした。

 今日から峠を越える。そこまで高い山ではないが、落石などがあるため油断はできない。

 テントを折りたたんで馬車に積み込み、俺たちも荷台に乗り込んだ。ちなみに、今日の運転手はターニャだ。

 俺の近くには、早くもオリヴィアとソフィが来ており、腕にくっついている。オリヴィア曰く、夜の時間の分、体を触れ合っていたいらしい。


「よし! 出発だー!」

「「「「「「おおー!!!」」」」」」


 アレックスの合図により、馬車が動き始めた。

 そして、俺たちは、帝国への最後の難関である場所へと向かったのだった。

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