名前考えるのめんどくさかったのか!?
「さあさあ! 今年の剣闘祭もいよいよ大詰め!
まずはAブロック優勝者! 期待のルーキー! アル選手ー!!!」
うおおおおぉぉぉぉぉっ!
「そして! この大会の第一回目から今までずっと優勝し続けているのはこの人! 無敗の王者! 謎の仮面の男! ああああ選手だあー!!!」
イエエエェェェェェェイっ!!!
ド○クエか!? 名前考えるのめんどくさかったのか!? ああああは無いだろう、ああああは!?
それにしても、今俺の目の前にいる、身長百九十センチ超えの全身ムキムキの大男。
顔には蝶をモチーフにした仮面を付けていて、服は短パンしか履いていない。そして、仮面の奥には歴戦の古傷がチラチラと見えている。
そう、完全に父様である。
一体何してんだよ!? てか、第一回目からずっと優勝し続けてるのかよ!?
優勝商品が豪華なのは、父様が主催していたからってのは分かったけど、まさか優勝商品で参加者を釣って、自分で優勝して、自分で用意した優勝商品を貰うなんて事をしてるとは思わなかったよ!?
それにしても酷いな! 性格悪いな!!?
「よく来たな、挑戦者よ」
「アッハイ」
そのキャラでいくのですね、父様。分かりました。このアルフレッド・アバークロンビー、全力で演技に付き合わせて頂きたいと思います。
「さあ、この私を倒し! 優勝商品を手に入れてみせるがいい!」
「アッハイ」
だ、だめだ父様のあまりにあまりな姿に「アッハイ」としか声が出せない。
そして、父様はどこの魔王なのかな? 台詞が完全に魔王のものなんだけど……
まず落ち着け、そして切り替えよう。相手は父様だ。俺の実力がどこまで伸びたか試す、いい機会じゃないか。
「さあ! ミスリルの剣はいったいどちらの物になるのでしょうか! そして! 期待のルーキーは無敗の王者に勝てるのか!? 注目の一戦です! それでは……試合開始!!!」
「どこからでもかかって来なさい」
「行きますっ!!」
父様には、力押しでは絶対に勝てない。ならフェイントを上手く使うんだ。
俺は袈裟斬りに構えて父様に突っ込む。
父様は全く動かない。
俺はそのまま袈裟斬りと見せかけて、剣を右上に持っていき、逆袈裟に振り下ろす!
「ラァッ!!」
父様は剣を左手に持ち替え、俺の剣をあっさりと受け止めた。
「ふむ、なかなかやるようになったな、息子よ」
俺はすぐに剣を引き、距離を取る。
今息子って言った!? やるなら最後まで隠し通せよ!!
いや落ち着け俺。もう気にしないようにするんだ。切り替え、大事。
しかし、俺の本気の一撃をこうも簡単に受け止められるとは。
しかも今、まったく父様の動きが見えなかった。どうやら速さでも負けているらしい。だが、諦めるわけにはいかない。
「ハァッ!!」
父様の左の脇腹に向かって思いっきり剣を振る。それを父様は一歩後ろに下がることで避けた。技量でも敵わないか。
俺はもう一度距離を取り直す。
「では、次はこちらからいくぞ!」
俺が後ろに下がってのを見て、父様が一直線に突っ込んできた。こんな大男が突っ込んで来るのを、真正面から見ると、普通にホラーだ。
上段に構えたのを見て、横にステップする。だが、いつのまにか剣は横一文字に振られていた。
剣の先で何とか受けることはできたが、横に吹っ飛ばされた。
何という筋力。かすっただけなのに、三メートルは吹き飛んでいた。まともに剣で受けたら、確実に剣も骨も折れるだろう。体で受けたら、間違いなく死ぬ。
父様は手加減をしていない。受けたら死ぬのだ。足が震えそうになるのを無理やり押さえつける。バランスを取るのが少し難しい。
それにも関わらず、父様は俺に遠慮なく攻撃をしてくるため、避ける暇がない。
上段からの振り下ろしに対して剣を下から持っていき、滑らせる。しかし、威力の全てを受け流せない。
「うっ!」
振り下ろした剣を右下からの切り上げてくる。剣速が速く、剣の腹で受けるので精一杯だった。
「ガアッ!」
剣は真っ二つに折られ、俺の体は十メートル程吹っ飛んだ。
体に力が入らず、立ち上がることができない。全身を地面に打ったせいで、いろいろな部位が痛い。
「し、勝者! ああああ選手!!! さすが絶対王者! アル選手は手も足も出な……」
俺は審判が父様の勝利を告げたところで、意識を失った。
✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽
「…………様! ……兄様! お兄様!!」
「…… んぁ…… シャル?」
「お兄様!!!」
シャルに思いっきり抱きつかれた。幸せである。ずっと抱きつかれていたい。って、確か俺って父様にボコボコにされた後だから……
「アダダダダダダッッ!!!」
「あっ! ごめんなさい! お兄様大丈夫ですか?」
「あ、ああ、問題ない」
死ぬかと思った。だが、涙目で心配してくれるシャルを、これ以上悲しませるわけにはいかない。我慢だ我慢。男だからな。
「起きたか、アル」
「父様……」
「その…… すまなかった。息子の成長を見ていたら、嬉しくなってしまってな」
なるほど。どの程度できるようになったのか、試してみたくなったのか。やりすぎではあったが。
「いえ、大丈夫ですよ。俺もまだまだだって事が分かりましたから」
「すまん……」
とりあえず回復しよう。体が動かせない。初級相当の魔法で、骨折は治るのだろうか?
自分の魔力に集中して、体を癒す。おそらく今、俺は白色の光に包まれているだろう。
「ふぅ……」
骨折も、なんとか治ったようだ。
「お兄様、大丈夫?」
「もう大丈夫だよ、骨はくっついたみたいだ」
「ほんと? 良かった!」
俺は安心しきった顔のシャルの頭を撫でてやった。シャルは逃げない。よし、久しぶりに頭を撫でられたぜ。
「アル、お前に渡したい物がある」
「何でしょうか?」
「これだ」
と言って、父様は一本の銀色の剣を取り出した。
「これは…… 優勝商品のミスリルの剣ですか?」
「ああ、詫びと言ったら何だが、お前も頑張っている事が分かったからな。受け取ってくれ」
これは嬉しい。まさかミスリルの剣をプレゼントされるとは。しかもこれは、有名な鍛治師の作った物だ。
こんな高級品を貰えるとは…… ボロボロになった甲斐があったな。
受け取った剣は、細身の片手半剣だ。長さは一・一メートル。片手半剣としては短い方だな。
ミスリル製だが重く作られており、二・五キロはあるだろう。これなら、振った時の威力も申し分ない。
色は銀色に輝いていて、鍔がない。かわりに、鍔の部分が柄より少し太くなっており、竜の絵が彫ってある。美しい剣だ。
今までもずっと片手半剣を使っていたので、すぐ手に馴染むだろう。
「ありがとうございます、父様! 大事に使わせていただきます!」
「ああ、そうしてくれ」
父様は笑顔でそう言うと、部屋を出て行った。
「お兄様、ご飯になったらまた呼びに来るね!」
「ああ、頼んだよ」
「うん!」
太陽の様な眩しい笑顔を見せて、シャルも部屋を出て行った。
それにしても、ミスリルの剣か。これからよろしく頼むぞ、愛剣よ。
次の日、ソフィが俺のことを心配して家に来てくれた。まだ少し体の痛みの残る俺を、甲斐甲斐しく介護してくれた。
ソフィはきっといいお嫁さんになるな。まあ、貰うのは俺なんだが。
俺はベッドに横たわりながら、ソフィは椅子に座りながら、二人で会話をした。
「私、最近になってようやく氷と雷の魔法使えるようになったよ」
「おお、すごいな。無詠唱か?」
「ううん、まだ詠唱しないと使えないんだ」
「それでも凄いよ。羨ましい限りだなあ」
ソフィは、どんどん魔法の才能を開花させているらしい。この調子だと、すぐに無詠唱で発動させそうだな。
「でも、アル君も光魔法を無詠唱で使えるようになったんでしょ? そっちの方が凄いよ」
慰められた。なんていい子なんだ。
「ありがとな、ソフィ」
「どういたしまして」
優しく微笑んでくれた。守りたいこの笑顔。だが、今のままじゃ守られる側になってしまうな。もっと稽古を頑張らねば。
俺が眠っている間に、弟であるフィリップがどうやら教会に行って来たらしい。
適正は闇属性。魔力量は普通より少し多いくらいだそうだ。希少な特殊の属性に、一般人より多い魔力。
お祖母様は、無能な俺と、優秀なフィリップを比べているらしい。
最近は、俺が将来的に領主になることまで反対しているそうだ。
とことん俺のことを嫌っているようだな。安心してください、お祖母様。俺もあなたが嫌いですよ。
父様に負けたおかげか、ソフィを守りたいと思ったおかげか、俺はより剣術にのめり込んでいった。
絶対に父様より強くなってやる!