父と息子、そして師匠と弟子
ソレイダスは、我がアバークロンビーの衛兵によって連れて行かれ、剣闘祭の結果も、ソレイダスの不正によって俺の優勝となった。
だが、ソレイダスの使った魔道具によって、観客が全員眠ってしまったため、戦いが見れなかったことにブーイングが殺到。これに対応するために、俺と父様は闘技場に呼び出された。
「結局、戦うことになるんですね」
俺は、蝶の仮面をつけ直した父様を向き合う。
「お前も決勝戦できなかったわけだし、今のままじゃあ不完全燃焼だろ?」
「まあ、そうなんですが。ただ、わざわざ怪我をしていた父様とは、試合をしなくてもいいと思うますけどね」
俺が魔法で治したとはいえ、怪我人を戦うのは気が引ける。
「俺もアルと戦いたいし、観客もそれを望んでる。もう諦めろ」
そう、既に多数決で決まってしまっているのだ。俺、少数意見の尊重って大事だと思います。
「また怪我しないでくださいよ?」
「それはお前次第だな」
という訳で、今から俺と父様の試合が始まる。
「ではでは、これが正真正銘最後の試合です! 皆さま、お楽しみください!! では、試合開始!!!」
試合が始まっても、互いに剣を中段で構えて一歩も動かない。俺にも父様にも、突ける隙がまったくないのだ。
だが、止まった状態ではいつまで経っても終わらないので、俺から動くことにした。
俺は剣を上段に構え、父様に向かって高速で近づき、剣を振り下ろす。
父様はその攻撃を剣で受け流し、俺にカウンターで横薙ぎを繰り出した。
余裕のあった俺は、それを剣で止めつつさらに踏み込む。
それを見た父様は、回転斬りをしながら後ろに飛んだ。
俺は回転斬りを剣で受け、父様の方を見ると、父様は既に剣を構え直していた。そのため、俺も中段に構え直す。
この一連の攻防を見た観客から、「おぉっ!」という歓声が湧いた。
「アル、強くなったな」
「父様も全然衰えてませんね」
父様は、騎士団長の座から降りても剣を続けている。いくら歳とはいえ、まだまだ現役と変わらない強さがあった。
逆に俺は、あのダンジョンで毎日無茶苦茶にしごかれていたため、危機察知能力や剣術の完成度が高くなっている。
現役から衰えない父様の実力と、常に命の危険に晒されていた俺の実力は、かなり拮抗しているらしい。
俺は、構えながら少しずつ父様に近づいて行く。すると父様は、待つのに耐えきれなくなったように、俺に向かって一直線に突進して来た。
俺に向かって真っ直ぐに突き出される剣。俺はそれを体を捻って避け、父様の腹に向かって剣を振る。
父様は自分の剣を急いで戻し、俺の剣を受けた。その衝撃で重心が後ろに移動し、体勢が崩れる。
俺はその隙を見逃さず、連続攻撃を開始した。袈裟斬り、横薙ぎ、逆袈裟、振り下ろし、と次々に技を出していく。
父様は初めは受けれていたが、徐々に押され始め、体勢を立て直すために後ろに飛んで距離を取ろうとした。
俺は父様が後ろに飛ぶ気配を感じた瞬間、重心を一気に下に落とし、前に倒れこむ。そして、体が重力に引かれて頭が地面に着く寸前、足を動かして父様に高速で接近した。
「なに!?」
父様は自分の技を出されたことで、珍しく動揺している。
俺は着地したばかりでうまく動けないから父様に対し、全力で剣を振り下ろした。
だが、さすがは父様。当たり方を調節し、うまく剣の軌道を変えて受け流そうとする。
俺の剣は、そのまま父様の剣を滑りそうになったが、剣がぶつかった衝撃が強すぎたためか、父様の剣が真っ二つに折れてしまった。
俺は、呆然としている父様の首に剣を突きつけた。
「俺の勝ちですね」
「…… ああ、参った」
負けた父様は笑顔を浮かべていた。その笑顔は、どこか嬉しいそうでもあり、はたまた悲しそうにも見えた。
「試合終了!!! 勝ったのはアル選手だぁ!!!」
試合終了の合図とともに、会場中から拍手と歓声が響き渡った。それも、今までで一番大きなものだ。
俺と父様の試合は、この大会を締めくくるのに適した、いい試合だったのだろう。
これで観客も満足しただろうし、今年の剣闘祭もこれで終わりか。ハプニングはあったが、一応無事に終わったな。
あとは表彰式をして、第十九回アバークロンビー剣闘祭は終了だ。
「アル、お前に言いたいことがある」
父様は、優勝商品を俺に渡しながら話しかけてきた。
「なんですか?」
「これでお前は、我が流派、アバークロンビー流の免許皆伝となった。おめでとう」
どうやら、父様に勝ったことによって、免許皆伝となったらしい。
父様から剣術で認められた証だ。こんなに嬉しいことはない。
ちなみに優勝商品はミスリルのナイフだった。
ミスリルの片手半剣にナイフ、ヒヒイロカネのナイフに鋼のナイフ二本か。かなり装備が充実してるな。魔剣がないのが寂しいが。
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「はぁ、なかなか疲れたな」
俺は自室のベッドに両手を広げて横たわっていた。
久しぶりの自分の部屋だ。父様と母様が、俺がまだ生きてると信じて、そのまま残してくれていたらしい。有難いことだ。
今日はアクシデントがあった挙句、父様と本気で試合したから、さすがに疲れた。
今日はもう寝よう。そう思った時、部屋のドアが二度ノックされた。
「開いてるぞ〜」
「…… お邪魔します」
ソフィとオリヴィアだったようだ。ソフィはなぜか俯いていて、こちらを見ようとしない。どうしたんだろうか?
「…… ここがアルフレッドの部屋…… 意外と整理整頓されてる」
「意外とってなんだ、意外とって」
心外だな。俺は結構綺麗好きなんだぞ。
「それで、なにをしに来たんだ?」
「…… 抱かれに来た」
「………… は?」
今、なんて言ったんだ?
「すまん。もう一度言ってくれ」
「…… 二度も言わせないで」
オリヴィアは、顔を赤らめてモジモジし始めた。まあ、つまりそういうことなんだろう。
ふとソフィの方を見てみると、耳まで真っ赤にした状態で、こちらを上目遣いで見ていた。
うん。まあ、オリヴィアに言い包められたんだろうな。
「ソフィ、無理はしなくていいんだぞ?」
「………… たい」
「ん? なんだって?」
「…… してみたい」
オリヴィアさん、一体ソフィになに吹き込んだのかな? こんなに恥ずかしがってるのに、積極的になっているソフィは初めて見たよ。
まあ、いいか。こんだけ意思が固いのなら、俺が我慢することもない訳だしな。
「してもいいんだな?」
「…… 頑張る」
「………… うん」
俺は二人をベッドに連れて行き、わざと強引に押し倒した。